第17回 文化庁メディア芸術祭
アニメーション部門新人賞には日本の鋤柄真希子と松村康平デュオによる「カラスの涙」が入選。これまでも「雪をみたヤマネ」など自然を生きる生命を描いてきた彼ら。今作は擬人化された描写は一切排除され、野生世界の緊張感、死、それを糧に生き繋ぐ行為を淡々と綴ってゆく。けれどもそこからは生きてゆく上での抗えない営みと命への愛しさが伝わってくる。
「カラスの涙」より
展示ブースには実際にちぎり絵のように切りとって撮影された墨で描いた和紙や、背景に使用した岩絵の具、透明アセテートフィルムなどが展示され、彼らの制作のプロセスも垣間みる事ができる。
「カラスの涙」展示風景
アニメーション部門大賞はユン&ローラン・ボアロー(韓国/ベルギー)による「はちみつ色のユン」に贈られた。ストーリーは作者ユンの自伝的物語。朝鮮戦争以後朝鮮半島の多くの子供達が世界中に養子として引き取られていった事実は日本では余り知られていないかもしれない。
ユン&ローラン・ボアロー「はちみつ色のユン」展示風景
作品は実際に残されていた子供時代の8ミリフィルムや写真、5歳でベルギーの家族に引き取られて以来、44歳にして初めて生まれた場所・韓国の地に立ち戻ったユンの映像などがアニメーションと静かに交差しながら進んでゆく。細やかで、時にユーモラスに語られる物語は、様々な手法で熟考され削ぎ落とされているからこそ、観客はその豊かな作品を心から体験できるのかもしれない。
ユン&ローラン・ボアロー「はちみつ色のユン」展示風景
展示では作者が兄弟・家族と過ごした時間と記憶を記した数々の写真も額におさめられ壁に飾られている。それはエナン家リビングの一角をも彷彿とさせる。同時にその下のショーケースには実母が実際に記載した養子縁組依頼書や引き取られる際利用したKLMオランダ航空の領収書など、胸を締め付ける時の記憶も並べられていた。彼の抱えてきた痛みと喜びは一見特殊に思えるかもしれないが、見る者それぞれが持つそれらときっとどこかでリンクするように思う。人間の関係の形はひとつではない。痛みを避けられない出来事はどうしても起きるだろう。
インタビューで彼はこう話した。『皆に貴方はそのままで良いのだと伝えたい。そして人生は貴方の後ろではなく、前にあるのだと。』
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