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松山智一

PEOPLEText: Yuji Shinfuku

アンディー・ウォーホルに代表されるニューヨークのポップアートにも大きな影響を受けているそうだが、松山氏のようにストリートアートとアカデミックなアートを自然に行き来できるアーティストは少ないのではないだろうか。

立体作品も手がけられていて、「Wherever I am」という作品は、1895年にアメリカのアーティスト、フレデリック・レミントンが製作した有名彫像「Bronco Buster」に捧げられている。アメリカ人なら誰でも知っているであろう、西部の開拓を象徴する歴史を背負ったこの作品をリスペクトを込めてネタにし、それにフラットでまるで日本という国が持っているポップな要素を抽出したような、ある種相反するイメージを混ぜ合わせた作品である。このいかにも東洋人というような髭を口元に生やした巨大なレゴブロックの様な騎手は松山氏の分身といっていいだろう。松山智一というアーティストのミクスチャー的存在を象徴している様な、異なる文化の幸せな邂逅を見て取れる作品ではないだろうか。

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“Wherever I am”, Tomokazu Matsuyama, 2009, (Homage to Bronco Buster) Installation View

ニューヨークを拠点に世界中で活躍されていて、海外と日本のアートの浸透度の違いを感じる事も多いそうだ。日本と比べると欧米ではアートというものがより日常にあり、ギャラリーの数も桁違いに多い。日本人のアーティストが海外で成功するには、海外のアートのチューニングを分かっていて、自分の手持ちの情報をいかに変換するかという能力も必要になってくると松山氏は語る。

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“The Wind of the Nights”, Tomokazu Matsuyama, 2008, Acrylic on paper, 20 x 29 inch

異なるバックグラウンド、ルールを理解し、作品の中で消化する。それゆえに松山氏の作品内に日本と海外のある種の矛盾を楽しみ、様々なコンテキストから鑑賞できる仕掛けが散りばめられている。ミクスチャーな表現ゆえの自然に現れてくる作品内の多くの言語。それは聴衆に対する問題提起であり、一種のなぞかけである。ヒントはタイトルのみで解釈は観るものに委ねられている。しかしそれは鑑賞者を突き放したものではなく、ユーモアのあるひとつのエンターテイメントとして成立していて観衆を巻き込む魅力に溢れている。

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Installation View at MMG, Los Angeles

NIKEやLEVISなど多くの企業とのコラボレーション、また壁画へのペイントなどを見て分かる様に、松山氏の活動はギャラリーでのみ作品を発表するということにとらわれず、周りを巻き込み何か面白い事をやってやろうという様な気概にあふれている。対極なもの、異質なものがぶつかりあった時に生じる化学反応を作品に落とし込み、そしてそれをいかに他者と共有し、社会に落とし込むか。松山氏の作品は様々な側面を持ち色々な観点から鑑賞できるが、ポップで誰にでも入っていけて単純に観衆をハッピーにする魅力にあふれている。

日本の伝統的な絵画を世襲しつつも、独自の表現形態を確立されワールドワイドに活躍されている松山氏。加速度的に変わりゆく世界。様々なミクスチャーの中で存在するエゴを問う様な、そんなミクスチャーな自己存在を楽しむような作品は人種を超えて誰の目にも興味深くうつるはずである。自身4冊目の画集の出版や、ニューヨークのジャパンソサエティーでのグループ展などがすでにひかえ、企業コミッションでのコラボレーションを含めますます精力的に活動される松山氏の動向から今後も目を離せそうにない。

Text: Yuji Shinfuku

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