川内倫子展「照度 あめつち 影を見る」
HAPPENINGText: Yu Miyakoshi
写真家が「作品化」と呼ぶ作業は、撮影の後の選択やプリント、構成作業といった一連の流れにある。それはカメラでとらえてきたものを可視化するための、錬金術のような作業だ。「構成を何度も考えたり、もう一回撮影に行ったりといったしつこい作業を繰り返していく過程の先に、自分の見たい答えが写真からふっと浮かび上がってくる」、「プリントは自分の中にある感覚を呼び覚ます作業」、と川内氏が語っていることからも想像されるように、その奥深さには、制作の秘密とでもいうべきものが潜んでいる。川内氏の制作の場では、タイムレスな記憶、現実、写真という物体といった未分化なものたちが、素材としてきわめてニュートラルに、等々しく扱われているように思われた。そして、その混沌と共にあるからこそ、川内氏の写真の魅力が生まれてくるのではないだろうか。
そこから生まれた写真は “パラパラ” とめくられていくシークエンスにつながっていくものであり、その連続性は、人間の記憶の不可思議に近似しているように思う。というのは、「記憶」というものは、いったい現実に即しているのか、あるいは、自分はそれを編集したのだろうか、捏造したのだろうか、もしくは、いま想像しているのだろうか、といった不可思議である。
写真は誰にでも撮れるものだけれど、写真家の見ている世界が大きければ大きいほど、1枚の画に表されるものも大きい。本展覧会の写真を歩きながら見て行くと、日常的な瞬間が続いていたかと思うと、時々ふっと永遠を思わせるような、天文学的な視点でとらえた風景が混ざってくる。川内氏が意図して提示した “タイムレス” な風景が見せるシークエンスの間に時として現れるのは、 私たちが時を忘れる “タイムレス” な風景だ。
東京都写真美術館の「照度 あめつち 影を見る」と、TRAUMARISの「Light and Shadow」は、同じ恵比寿にあり、直近でその二つの展示を見ることができたのはとても充実した体験だった。最後になってしまったが、川内氏にインタビューさせていただいたこと、オープニングトークで拝聴した朝吹真理子氏、アートプロデューサーの住吉智恵氏の言葉に恩恵を受けたことに、この場を借りて感謝の気持ちをお伝えしたい。そして、この先にまたトークイベント等の、直にアーティストの声を聞く場があれば、興味をお持ちの方には展示と合わせてお薦めしたい。その時々の機会によって、それぞれの “Iridescence”(イリデッセンス)の閃きがあればと願いつつ。
川内倫子展「照度 あめつち 影を見る」
会期: 2012年5月12日(土)~7月16日(月・祝)
営業時間:10:00〜18:00(木・金曜日は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は開館し、翌火曜日休館)
会場:東京都写真美術館
住所:東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
入場料:一般 700円、学生 600円、中高生・65歳以上 500円
TEL:03-3280-0099
http://www.syabi.com
川内倫子展「Light and Shadow」
会期:2012年5月16日(水)〜7月1日(日)
営業時間:16:00〜24:00(日曜日14:00〜22:00)
休館日:月曜日
会場:TRAUMARIS|SPACE
住所:東京都渋谷区恵比寿1-18-4 NADiff APART 3F
入場無料
TEL:03-6408-5522
http://traumaris.jp/space/
Text: Yu Miyakoshi
Photos: Yu Miyakoshi