第15回 文化庁メディア芸術祭

HAPPENINGText: Yu Miyakoshi

“つなぐ”思いが加熱「みんなのメ芸」2012

第15回文化庁メディア芸術祭

アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門で世界中から作品を募り、受賞作品を一気に紹介する文化庁メディア芸術祭受賞作品展。今年は3.11や原子力発電事故の影響による応募数の減少が心配されたが、そんな心配をよそに昨年を上回る49カ国から2,714件もの応募があり、質の高い作品が集まった。会場は国立新美術館をメインに、東京ミッドタウンのd-labo、メルセデス・ベンツ コネクション、ニコファーレ、TOHOシネマズ六本木ヒルズをサテライトに開催。審査員には映画監督の押井守、編集者の後藤繁雄、クリエイティブディレクターの伊藤ガビン、漫画家の竹宮惠子など、気鋭のメンバーが名を連ねて受賞作品が選出された。

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映像作品「Que voz feio(醜い声)」(8分3秒)© 山本良浩

アート部門で大賞を受賞したのは、東京藝術大学先端芸術表現専攻修士課程に在籍する山本良浩の「Que voz feio(醜い声)」。2つのスクリーンに双子の女性が一人づつ映し出され、それぞれが柔らかなポルトガル語で、幼い頃に体験したある事件について語りだす。作者はこの作品で『イメージ、音、文字からなる映画というものを用いて、観客に通常の映画を見るような画一化されたありかたではなく、多重的で、見るたびに「私」が変化するような認識を与えたい』と考えたということなのだが、不思議なことにこの作品を見ていると、進むにつれて言葉の意味が不確実になって行く。二つの事件の当事者は一体誰だったのか、これはドキュメンタリーなのかフィクションなのか、時間は前に進んでいるのか、退行しているのか。次々と頭の中に「?」が湧いてきて、推測が追いつかなくなる。しかも、それぞれが語るストーリーは時折リンクし、さらなる混乱を誘うという意地悪さだ。そしてフィルムは、最大公約数を数えたかのように一致を見て、突然終わる。もう一度見直す人、未消化な思いを抱えつつ部屋を去る人、反応はさまざまだろう。見終わった瞬間に「やられた」という思いと、予測を裏切られた嬉しさが湧いて来る作品だった。

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ライトインスタレーション「particles」真鍋大度 / 石橋素 Photo: Ryuichi Maruo

同じくアート部門で優秀賞を獲得したのは、プログラミングを駆使し様々なプロジェクト活動を行う真鍋大度石橋素によるメディアインスタレーション「particles」。展示ルームに入ると、空中を浮遊する光と、光と同期した音に包まれ、圧倒させられる。ボールの中に仕組まれたLEDは通信制御で発光のタイミングが制御されており、八の字状の螺旋を転がりながら落ちて行く。滔々と光と音が流れて行く様には、思わず首が疲れたと気付くまで見入ってしまった。長い間作品の側に立っている説明員の方も「見れば見るほど作品の奥深さに惹かれていくんです。」とおっしゃっていたが、「particles」は、技術を通して作者の思考や感覚を翻訳することに、見事に成功している。禅には、「今、ここ」を生きる、すなわち今しかない、という時間の概念があるそうなのだが、この作品からはまさにそのような、瞑想からでも得られそうな感覚を抱かせられた。

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「つながる天気」© 片山 義幸

「冬が来て春が来て、という季節の移り変わりを見たことがないので、見てみたかった」という日常的な好奇心を可視化させた片山義幸の「つながる天気」はアート部門で優秀賞を獲得した。作者は日本大学芸術学部映画学科で映像を学んだ後、現在はフリーの映像デザイナーとして活動中。仕事ではクライアントワークもこなすデザイナーだが、「自分でできる新しいことをやりたい」と2010年からオリジナルプロジェクト「つながる天気」をスタート。ウェブサイトに、空を映した1年分の動画を一本にまとめた映像や、時刻や日付と実写のアニメーションを連動させた作品などを発表した。「どこにでもある景色、どこにでもある日を繋ぐことによって見える僕らの日常の姿を表現したい」と語る作者の、仕事とプライベートの間にあるものを大事にしている姿勢が印象的だった。

アート部門ではこのほかに、インタラクティブな操作性が評価されたVincent MORISSETの「BLA BLA」や、アーティストのラルフ・キスラーとエンジニアのジャン・シーバーから生まれたサルのインタラクティブアート「Monkey Business」、菅野創山口崇洋によるドローイングマシン「SENSELESS DRAWING BOT」などが優秀賞に選ばれた。

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「SPACE BALLOON PROJECT」 大八木翼 / 馬場鑑平 / 野添剛士 / John POWELL © SAMSUNG ELECTRONICS JAPAN

エンターテインメント部門で大賞を受賞したのは「SPACE BALLOON PROJECT」。広告などのクリエイティブディレクター 大八木翼、馬場鑑平、野添剛士と、JP AEROSPACE社のCEOであるジョン・パウエルで結成されたチームは、スマートフォン「GALAXY S II」をバルーンに乗せてアメリカ・ネバダ州から上空30,000mの成層圏へ飛ばし、フライト模様をUSTREAMで配信。フライト中は、スマートフォンの画面にツイッターなどで募集した「宇宙へ届けたいメッセージ」を表示させた。オフィシャルサイトからは昨年の7月に生中継された映像を、第13回メディア芸術祭でアート部門優秀賞を獲得した和田永が属するプロジェクト「オープンリールアンサンブル」や高木正勝坂本美雨などの音楽と共に見ることができる。

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iPhoneアプリ、リズムシシリーズの「ラップムシ」© 成瀬つばさ

エンターテインメント部門・新人賞を受賞したのは2010年にiPhoneアプリで話題を集めた成瀬つばさの「リズムシ キャラクター」。タッチパネルを通じてターンテーブルを動かし、サンプリング音や楽器音を駆使したDJの音出しができるというユニークさがTwitterや口コミで広がり、あっと言う間に人気になった。作者は国立音楽大学を卒業し、現在は多摩美術大学大学院に進み、サウンド&メディアアートの分野で活躍。企業のプロジェクト等ではなく、プログラミングからイラストまで、全て一人の学生が手がけて人気を博してしまった、ということが最近の動向を反映している。また、ハイテクさと裏腹な鉛筆書きのイラストからは、まるで学校の教室でマンガを描いて「友達を驚かせてやろう」とでもいうように素朴な、けれども確かなエンターテインメント精神の発端を感じた。エンターテインメント部門ではこのほかに勝本雄一朗の電子遊具「相転移的装置」、 Facebookで人気を博した「The Museum of Me」などが優秀賞に、ひらのりょうのアニメーションで鑑賞者を独特の世界に引き込んだテクノ民謡とモーショングラフィックスの実験プロジェクト「Omodaka」の「Hietsuki Bushi」が新人賞を獲得した。

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テレビアニメーション「魔法少女まどか☆マギカ」展示ルーム

アニメーション部門ではポスト・エヴァンゲリオンとも評されるテレビアニメーション「魔法少女まどか☆マギカ」が大賞に。作者は「化物語」「さよなら絶望先生」「荒川アンダー・ザ・ブリッジ」などを手がけた人気アニメーション監督、新房昭之。平凡な中学生が魔法少女として活躍するというありふれた「魔法少女もの」の枠を越えた感動が話題を呼び、深夜放送発の作品としては特異的なブームを作った。息もつかせぬ展開と作品の奥に潜む批評性は、従来のアニメファンのみならず、さまざまな文化フィールドの大人たちを惹き付けた。このほか、アニメーション部門では川﨑博嗣の「鬼神伝」、沖浦啓之の「ももへの手紙」(2012年4月21日から全国ロードショー)、フランス人作家、マチュー・ヴェルヌリー、ポリーヌ・ドゥファシェル 、レミー・ポールによる「Folksongs & Ballads」などが優秀賞に選ばれた。

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しりあがり寿「あの日からのマンガ」展示コーナー

マンガ部門では地球外コロニーに暮らす少年の成長を丁寧に描いた岩岡ヒサエの「土星マンション」が大賞を受賞。このほか、スペインからパコ・ロカの「」、アメリカからアリソン・ベクダルの「ファン・ホーム - ある家族の悲喜劇」が、海外作品で初の優勝賞に輝いた。同じく優秀賞に選ばれたしりあがり寿の「あの日からのマンガ」は、作者が連載している朝日新聞に、あの日=3月11日から毎日、自ら被災地に足を運んだボランティア経験を織り交ぜて描かれ、驚異的なスピードで発刊された。受賞は、日頃からさまざまな日常の局面を独特のユーモアとナンセンスで受けとめる作者の哲学が、震災という脅威を経てもなお貫かれ、脚光を浴びた瞬間だった。

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ニクラス・ロイの「Electronic instant Camera」で撮影された来場者の写真

アート部門の審査委員会推薦作品に選ばれたニクラス・ロイの「Electronic instant Camera」も来場者参加型のメディアとして人気を集めていた。会場に設置されたのは、モノクロの旧式ビデオカメラと感熱式のレシートプリンターを組み合わせた撮影装置。カメラの前に立って3分待てば、レシートに印刷された自分の顔が、ポラロイド写真のようにカメラからはき出される。ローテクとハイテクが調和した、遊び心に溢れた作品だった。

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「Between Light and Darkness」© Ville ANDERSSON

このほか、広島で国際アニメーション映画祭の開催に尽力し功労賞を授与した木下小夜子、写真家のヴィル・アンダーソンボアーズ・アロノヴィッチ小山泰介緒方範人、アーティストのSHIMURABROS.、Marguerite HUMEAU、アニメーション作家のYKBX、メディアクリエーターの佐藤雅彦 + ユーフラテスなどの作品も審査委員会推薦作品として展示され、レベルの高さが伺えた。

会期中はアーティストやクリエイターによるトークセッションやシンポジウム、ワークショップなども多く開催された。2月29日には、開催されたシンポジウム「”マッシブデータフロー”の時代のメディアアート」では、研究者でアーティストでもある池上高志、NTT インターコミュニケーション・センター主任学芸員の畠中実、メディアアーティストの江渡浩一郎、ファシリテーターに編集者の後藤繁雄を迎え、マッシブな(大量な)データを扱う時代におけるアートの在り方について、加熱したディスカッションが交わされた。特にデータのアートへの活用についての話題の中で、池上氏が東日本大震災時のデータを例に挙げて語られたことには、重要な問いかけが示されていた。

『3.11の時に僕が問題だと思ったのは、統計的なデータを全てとったところで個別的なデータ――例えば津波が押し寄せた時に、自分の家は残ったけれど、隣の人の家は残らなかった、といったようなこと――は全部消えてしまうじゃないですか。統計上の確立というのは常に定義出来るけれども、例えばそこで個人が「生きるか死ぬか0か1か」といった問題はデータ上では扱えず、いくらデータを扱ったところで「個」というものは解消されない。だけれども「個」を失ってしまったらアートは存在しない訳で、アーティストというのはそこを見つめなければならない、と僕は思うのです。』

今年は、池上氏のトークで語られた「個」の重要性に、より深い深度で気付いていたアーティストに光があてられたように思う。コミュニケーションを基本原理とした作品や、作家自身の足もと、手のひらから始まる等身大の作品など、会場全体を通して以前よりも「人の温度」が増していたような印象を抱いた。毎年増える海外からの受賞作品も、ポエティックなものや人間を見つめ直すような作品が選ばれていた。この流れは、メディア芸術祭を、より人間を媒介とすることに重点を置いたメディアアートフェスへと導いたのではないだろうか。また、作品のカラーとしては癒し的な要素や、心に寄り添う叙情性の高い作品が多かったが、徐々に活力を取り戻すことが求められる今、来年に向けてどういった作品を作っていくのか、といったテーマが浮かび上がってきた。毎年応募者数が増えて行くメディア芸術祭。またたくさんの思いが生きた作品が集まるのではないだろうか。

第15回文化庁メディア芸術祭受賞作品展
会期:2012年2月22日(水)~3月4日(日)
会場:国立新美術館
時間:10:00~18:00
住所:東京都港区六本木7-22-2
サテライト会場:d-labo(東京ミッドタウン)、メルセデス・ベンツ コネクション、ニコファーレ、TOHOシネマズ六本木ヒルズ
観覧料:無料
主催:文化庁メディア芸術祭実行委員会
http://plaza.bunka.go.jp/festival/

Text: Yu Miyakoshi
Photos: Yu Miyakoshi

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