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第15回 文化庁メディア芸術祭

HAPPENINGText: Yu Miyakoshi

アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門で世界中から作品を募り、受賞作品を一気に紹介する文化庁メディア芸術祭受賞作品展。今年は3.11や原子力発電事故の影響による応募数の減少が心配されたが、そんな心配をよそに昨年を上回る49カ国から2,714件もの応募があり、質の高い作品が集まった。

第15回文化庁メディア芸術祭

会場は国立新美術館をメインに、東京ミッドタウンのd-labo、メルセデス・ベンツ コネクション、ニコファーレ、TOHOシネマズ六本木ヒルズをサテライトに開催。審査員には映画監督の押井守、編集者の後藤繁雄、クリエイティブディレクターの伊藤ガビン、漫画家の竹宮惠子など、気鋭のメンバーが名を連ねて受賞作品が選出された。

アート部門で大賞を受賞したのは、東京藝術大学先端芸術表現専攻修士課程に在籍する山本良浩の「Que voz feio(醜い声)」。2つのスクリーンに双子の女性が一人づつ映し出され、それぞれが柔らかなポルトガル語で、幼い頃に体験したある事件について語りだす。

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映像作品「Que voz feio(醜い声)」(8分3秒)© 山本良浩

作者はこの作品で『イメージ、音、文字からなる映画というものを用いて、観客に通常の映画を見るような画一化されたありかたではなく、多重的で、見るたびに「私」が変化するような認識を与えたい』と考えたということなのだが、不思議なことにこの作品を見ていると、進むにつれて言葉の意味が不確実になって行く。

二つの事件の当事者は一体誰だったのか、これはドキュメンタリーなのかフィクションなのか、時間は前に進んでいるのか、退行しているのか。次々と頭の中に「?」が湧いてきて、推測が追いつかなくなる。しかも、それぞれが語るストーリーは時折リンクし、さらなる混乱を誘うという意地悪さだ。そしてフィルムは、最大公約数を数えたかのように一致を見て、突然終わる。もう一度見直す人、未消化な思いを抱えつつ部屋を去る人、反応は様々だろう。見終わった瞬間に「やられた」という思いと、予測を裏切られた嬉しさが湧いて来る作品だった。

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ライトインスタレーション「particles」真鍋大度/石橋素 Photo: Ryuichi Maruo

同じくアート部門で優秀賞を獲得したのは、プログラミングを駆使し様々なプロジェクト活動を行う真鍋大度石橋素によるメディアインスタレーション「particles」。展示ルームに入ると、空中を浮遊する光と、光と同期した音に包まれ、圧倒させられる。ボールの中に仕組まれたLEDは通信制御で発光のタイミングが制御されており、八の字状の螺旋を転がりながら落ちて行く。

滔々と光と音が流れて行く様には、思わず首が疲れたと気付くまで見入ってしまった。長い間作品の側に立っている説明員の方も「見れば見るほど作品の奥深さに惹かれていくんです。」とおっしゃっていたが、「particles」は、技術を通して作者の思考や感覚を翻訳することに、見事に成功している。禅には、「今、ここ」を生きる、すなわち今しかない、という時間の概念があるそうなのだが、この作品からはまさにそのような、瞑想からでも得られそうな感覚を抱かせられた。

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