TWSクリエーター・イン・レジデンス・オープン・スタジオ トーキョー・ストーリー 2011

HAPPENINGText: Yu Miyakoshi

「東京でアートをつくる」ということを様々なかたちで見せてくれた展覧会が開催された。公益財団法人東京都歴史文化財団トーキョーワンダーサイト主催による「トーキョー・ストーリー 2011」には、 カンボジア・スイス・タイ・台湾・中国・ドイツ・日本・ベトナム、計8カ国出身のアーティストが参加し、ほとんどのアーティストが、東京・青山にあるクリエーター・イン・レジデンスに滞在して制作を行った。クリエーター・イン・レジデンスというのは、国外のレジデンス機関から派遣されてきたクリエーターが滞在する場所のこと。今回、本郷・渋谷・青山と、三つの拠点に分かれて発表された展示には、アーティストの目で見た新しい東京の姿があった。

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マティアス・ヴェルムカ&ミーシャ・ラインカウフ「Drifter」2012 © Tokyo Wonder Site

2011年に東京現代美術館で行われた「ゼロ年代のベルリン」にも参加していたドイツのアーティスト・デュオ、マティアス・ヴェルムカミーシャ・ラインカウフ。今回の映像作品「Drifter」の中で、二人は通常は入って行けないような場所(高いところにあるハシゴや屋根の上など)に姿を表し、歩き、登り、またどこかへ姿を消していく。都市を映画の世界のようにスリリングな場所に見せてしまう不思議を知りたくて、さっそくヴェルムカ氏に、話を聞いてみた。『僕たちの基本的なスタンスは、子供の頃に色んな所で遊んでいた延長線上で公共の場所に遊ぶということで、そこにある建物へのアプローチの仕方は自分たちで考えるというのが基本コンセプトなのです。高いところを歩いたりするのは、そういう時に感じる「こんなことやめた方がいいんじゃないか」という心配や恐さを越えた時に、初めてそこで得られる“ビューティー”があるから。その美しさを追求した結果が今回の作品です。」

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マティアス・ヴェルムカ&ミーシャ・ラインカウフ「Drifter」2012 © Tokyo Wonder Site

「東京」はいかがでしたか?『街が多重構造になっていて色々なレイヤーがあることに驚きました。東京を冒険するように自転車で街中を走っていると、ビルとビルの隙間などに、僕にとっては隙間のインビテーションのようなものがあります。日本は、ある側面では非常に規則に厳重ですが、それにもかかわらず、奥に入って行けるような余地や、グレイゾーンが沢山ある。しかも日本では、警備員の人に見つかったとしても、とても丁寧に「何をしていらっしゃるんですか?」と聞かれたり、許可を得る場所を親切に教えてくれたりするということに驚きました。ドイツだったら頭ごなしに怒られてしまいますが、僕たちはなにも、危険なことがやりたいわけじゃないのです。十代のころはグラフィティもやったし、他人の場所を自分の場所のようにして、他人のものに描くということもしていたけれど、今のプロジェクトでやっていることは、公共の場所を自分のものにするのではなくて、その場所で発生するコミュニケーションを楽しむということ。だから、日本の人たちが、僕たちの話を聞いてくれて、理解を示してくれたことには、前向きな発見がありました』
お話から伝わってきたのは、二人の制作が反逆的な行為でも、社会的なメッセージを訴えるという目的のためのものでもなく、ポジティブな創作活動だということ。また、二人の来日を楽しんでいる様子も印象に残った。街を“Drift”する(漂流する)お二人は、まるで「大人としてちゃんと子どもをやっている」ように、天真爛漫な目線で東京に向き合っていた。

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米田知子「平和記念日・広島」2011

「日本国家」を見つめた写真、と言えばいいだろうか。長くイギリスで活動してきた米田知子(よねだともこ)の写真は、今までの作品とはカラーが異なっていた。舞台が変われば作品も変わるとはいえ、そこには身近で見慣れた日本の風景はどこにもなく、写されていたのは広島、靖国神社、菊の花、福島の飯館村、伊藤博文の暗殺現場(中国・ハルピン)などと言った日本的で、制圧された風景だった。本展覧会のテキストによると、そこには米田氏が福島の第一原子力発電所の事故をきっかけに感じた思いが綴られていた。「個を含有し、支配し帰属させる社会・国家の姿を見た時、我々は今まで見えない“権威”へ屈していたのではないかという疑問に開眼し、新たな挑戦が芽生えた」そして、日本的なモチーフに焦点を絞ったわけは、つづきの文章にあった。「明治維新以降、列強諸国に比肩しようと民主化、近代化を進め、また、世界を舞台に数々の戦争に賛同していった歴史と現在——ここ東京に滞在しながら、それは何を意味してきたのかを、自分なりに考えている。初の被曝国となりながら、なぜこの土地に原子力を数多く存在させ、また新たな核の恐怖をここに示さなくてはならない現状に至ってしまったのか? 結局、私にとって”我々の存在の意味”が大きな課題として表出することになる。これを突き詰めて考えてみたい。」

昨年の原発事故を通して私たちは、米田氏の言う「見えない“権威”」の恐ろしさを知ることになった。米田氏の美意識に貫かれた写真に惹きつけられたとき、普段は見過ごしている何かに注視させられる。米田氏はテキストを次のように結び、私たちが日ごろ信じているものを、そのまま鵜呑みにしていいのか、と尋ねる。「なにが、善で悪、正常で異常なのか。すべては不可視化されている。」

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8gg「東京断章」2012 © Tokyo Wonder Site

中国のメディアアーティスト、8gg(エイトジージー)は驚くことに、夫婦でユニットを組み、制作を行っている。今回の作品「東京断章 (Part of Article about Tokyo) 」の展示ルームに入ると、何かが炸裂するような音が鳴り響き、その音に同期した砂粒のような映像が集ったり散ったりしている。パネルの反対側にまわると、色彩豊かな桜の映像が投影されていて、枝を伸ばし、つぼみを広げ、花を咲かせていく。瞬間的に視覚と聴覚を奪う暴力的な印象と、桜の美しさのコントラストには、美的快感とでも言うような気持ちよさがある。

8ggの男性作家、フ・ユは東京についての印象「抽象的な牧歌」を表した面「不忍池に一人佇む」を制作し、女性作家のジャ・ハイキンはもう一方の桜の面「谷文晁とカスティリオーネとの絵画」を制作。8ggは作品について、「これは私たちが東京について感じたことそのものです。常に両極端があり、常に完璧なバランスを保っているのです。」と語っている。両極という言葉に示される通り、男性性と女性的がみごとに調和した作品だった。

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ナディア・ソラーリ「should wake up and bloody well look sharp」2012 © Tokyo Wonder Site

スイスから来たナディア・ソラーリは、身のまわりのものを使って、絶妙なセンスでインスタレーションにする。そこから生まれてくるのは、身近で、でも日常には絶対ありえないような風景だ。沢山の食パンにフォークを刺した作品や、いかにも美味しそうな、卵の黄味を連想させるような作品。ポップな色の平面を組み合わせた立体作品。現代アート特有の不可解さをまとっているけれども、とても興味をそそられる、という作品を作っているソラーリ氏に、どのようなことを考えて制作をしていたのか尋ねてみた。

『この作品では、売ることや買うこと、つまり「消費」に焦点をあてました。日本に来てから私は、「買わなきゃ、買わなきゃ」という強迫観念のような気持ちを抱かせされました。きれいなショーウインドウやお菓子の広告、食品サンプル、きらきらしたイルミネーションやディスプレイ。何もかも完璧だけど、それはどこか、壊れやすいもののように感じました。例えば、アイスクリームみたいに、やがて溶けてしまう物のように。この作品では、そういった儚さやアンバランスさを表現したかったのです。』そんなソラーリ氏に、「あまり買い物はしませんでしたか?」とたずねると『もちろん買いましたとも!』とユーモラスに答えてくれた。ソラーリ氏にとって東京の過剰に購買欲を刺激するという側面は、決してネガティブに片寄ったものではなく、ネガティブとポジティブ、両方の側面を持ったニュートラルなものだという。ソラーリ氏はいまの「TOKYO」を飲み込み、それを決してシリアスになり過ぎることなく、どこか愛らしさを残したものたちの姿に変えて、私たちに見せてくれた。

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岩井優「ホワイトビル・ウォッシング」2012 © Tokyo Wonder Site

強い生命力に溢れていたのは、日本からカンボジアへ派遣された岩井優(いわいまさる)の映像作品「ホワイトビル・ウォッシング」。そこに映されていた集合住宅は、1960年代に建てられ、1970年代のカンボジア内戦で全住民が強制的に退去。そして内戦後は住民が戻ってきたが、家賃が安かったこともあり、すっかりスラム化してしまったという場所だそうだ。昼は子供たちのはしゃぐ声や近くのカフェのにぎわいが聞こえてくるが、夜ともなればドラッグの売人や娼婦が目につく。この光と影の色濃い場所に岩井氏は住み、アーティストとして制作を行った。そして付き合いも増えてきた住人たちに、身ぶり手ぶりで掃除をするというアイディアを伝え、その様子を撮影した。生き生きとした光と影や水の流れからは、人間臭い生活の営みがこれでもかというほど感じさせられ、後半のどんどんゴミが洗い流されていく様子には、爽快感がともなう。住人の方たちは、この掃除にかなり能動的に参加してくれた。「きっと、きれいになっていくのが嬉しかったのでしょうね。」と岩井氏は言う。また、まっ暗な展示室の角と天井の梁(はり)を生かして投影された映像は、映像を本物の建物の内部に見立てていて、迫力があった。そんな岩井氏に「アジアの人にも負けないパワーがありますね」とお伝えすると、「全然、負ける気がしないですね!」と笑いながら答えてくれた。

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ルー・チーユン「Where Is The Better Place To Live?」2012 © Tokyo Wonder Site

どこで生きるのか、何を望んで生きていくのかを、等身大の女の子の目線で見つめたのは台湾の作家、ルー・チーユン。2008年にカタツムリが巨大な家を背負って進んで行く姿をインスタレーションとして発表したアーティストは、東京でも、自分たちが「より良い」ものを求めて生きていくとは、ということについて考えた。展示室の角に張られた蜘蛛の巣と、蜘蛛を描いたアクリル画。嵐が来れば飛んでなくなってしまうような儚い家を作り、また新たな場所を求めて何処かへ行く蜘蛛をモチーフにしたのは何故だったのだろう?『今の時代は、古いものと新しいものが混在しています。そして美しかった黄金時代や、遠い未来に憧れて、みんな「もっといい時代」へ行きたいと思い、常に生活に期待と想像を抱いています。蜘蛛は、そんな人たちが決して実在することのない美しい世界の幻想のために、快適で近代化された生活を喜んで捨ててしまえるのかもしれない、ということを想起させるのです。』そんなチーユン氏に東京の印象をたずねると、『初めて東京に来た時は、皆、一生懸命働いて買い物をし、またお金のために一生懸命働いていて、とても大変そうだけど、大変なのか、楽しんでいるのか、どっちかわからない、ということを思いました。』と答えてくれた。若い世代の感覚を、時代に流されずに表現しているチーユン氏の作品の世界には、とても興味深いものを感じた。

東京の人ごみをわずらわしく思ったとき、ふと、旅行者のように東京を歩いたら清々しいだろうな、と思ったことがある。「トーキョー・ストーリー 2011」は、そんな風に東京を旅するような体験ができた展覧会だった。2月に行われたインターナショナル・アドバイザー・トークでは、ゲストに招かれた舞台芸術家のオン・ケンセンが、興味を惹く考え方について語られていた。それはカルチュラル・スタディーズの研究者、ポール・ギルロイが提唱する「ローカルにいながらにしてグローバルな視点を持つ」ということだった。ケンセン氏は、グローバライゼーションが世界を均一にしていまうリスクも説きつつ、地球を惑星としてとらえ、地球のどんな場所にいたとしても、いつもつながっている意識を持つ、という考え方を教えてくれた。ローカルな視点もあるけれど、グローバルな視点もある、東京のコミュニティに居ながらにして、そんなことができたらいいなと願い、そのアイディアを心にとめておきたいと思った。トーキョーワンダーサイトでは、年間を通してアーティストと交流できるイベントを開催している。また、クリエーター・イン・レジデンス・プログラムに参加するアーティストの募集も行っているので、我こそはと思うクリエーターの方は、ぜひ一度オフィシャルサイトのチェックを。

TWSクリエーター・イン・レジデンス・オープン・スタジオ トーキョー・ストーリー 2011
会期:2012年3月10日〜4月29日 ※青山のみ28日まで
休館日: 3月12日・19日・26日、4月2日・9日・16日・23日 ※青山のみ日、月曜定休 
時間:11:00〜19:00
入場料:無料
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 トーキョーワンダーサイト

会場1:トーキョーワンダーサイト本郷
住所: 東京都文京区本郷2-4-16
TEL:03-5689-5331
アーティスト:荒木 悠、木戸龍介、矢口克信、8gg (フ・ユ&ジャ・ハイキン)、マティアス・ヴェルムカ&ミーシャ・ラインカウフ、ナディア・ソラーリ

会場2:トーキョーワンダーサイト渋谷
住所: 東京都渋谷区神南1-19-8
TEL:03-3463-0603
アーティスト:米田知子、トラン・ミン・ドゥック、クゥワイ・サムナン、グリッサゴーン・ティンタップタイ、岩井 優、小泉明郎、田村友一郎

会場3:トーキョーワンダーサイト青山:クリエーター・イン・レジデンス
住所:東京都渋谷区神宮前5-53-67 コスモス青山SOUTH棟3F
TEL:03-5766-3732
アーティスト:ルー・チーユン、ナジャ・シェルハマー

Text: Yu Miyakoshi

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