トマス・サラセーノ「雲の都市」

HAPPENINGText: Kiyohide Hayashi

雲への憧れの一方で、彼は世界最大のバイオスフェアを地球とみなし、無数の小さな構造の集合体としての地球の在り方や、小さな構造と大きな構造間にある相互作用の存在を見る者に強く訴えかけていた。実際に作品では巨大な球体が透明な膜によって上下二つに区切られており、下部には空気が満たされ、上部には人々が入ることができるようになっている。その柔らかな半球体の中では他者の動きを感じることができ、また自身の動きを他者へと伝える相互作用を強く意識できるようになっている。アーティストは作品体験での相互作用を「共生」の要素とみなし、それが都市において重要な役割を果たすことを強く感じさせようとしているのだ。

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Tomás Saraceno, Cloud Cities, 2011. Installation view at Hamburger Bahnhof. Photo: Jens Ziehe

「クラウド・シティーズ」は都市の理想像を感じさせる一方で、現実を見据えた合理的かつ無駄を排した構造をも目指してもいる。例えばバイオスフェアの球体は、最小限の表面で最大限の体積を生み出すことができるウィア・フェラン構造を取り入れており、無駄のない安定した構造を生み出している。他にも蜘蛛の巣が持つしなやかかつ強固な構造にも注目し、展覧会場には蜘蛛の巣の編み方にならって紐が張り巡らされ、彼の作品はまるで蜘蛛の巣にかかったシャボン玉のように展示ホールの空中に軽やかに漂っているのだ。このようにアーティストは理想的な都市に必要なものについて研究の余念がなく、積極的に新しい技術を取り入れようとしている。

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Tomás Saraceno, Cloud Cities, 2011. Installation view at Hamburger Bahnhof. Photo: Tomás Saraceno

今回の展示では時として思想に偏りがちな未来都市のイメージを、まるで遊園地のアトラクションのように誰もが体験できるものとして提示し、未来への夢想は体験を通じて確かに来場者へと分配されていた。何より普段見られることのなかった美術館へと延びる来場者の列は、作品が持つ体験的な魅力が引き寄せたものであることは言うまでもない。ただし展示会場に用意されたリーフレットにはサラセーノの未来都市は「ユートピア」でありながらも、現在実現されていない現実に実現可能な都市像として紹介されており、空想や夢想でないことが強調されている。しかし私には現実世界と直結する都市が美術館という現実から隔離された空間の中で提示されているだけのように感じられ、今回の展示は美術館での非日常的な体験や夢の共有でしか機能していないように思えてならなかった。

何より同美術館で同時開催されている同じく「ユートピア」をテーマとした「ヨーゼフ・ボイス/日本での8日間と「ユーラシア」というユートピア」展を併せて見てしまうと、サラセーノ作品は現実の世界との乖離が際立つように思える。かつてボイスは彫刻の概念を発展させた「社会彫刻」の考えの下で、政党や大学の設立など美術館の外での活動に重きを置き、新たな社会を作り出そうとしたが、サラセーノの作品はボイスの活動に比べると、現実と隔たった空想にも思えかねない。もちろんサラセーノの未来都市像は決して空疎な妄想ではないはずだ。そして何よりも強烈な体験性を持ち、多くの人に考えを共有できるものでもある。だからこそ美術館ではない現実の空間で彼の作品を見てみたいと思う。

トマス・サラセーノ「クラウド・シティーズ(雲の都市)」
会期:2011年9月15日~2012年2月19日
会場:ハンブルガーバンホフ現代美術館
住所:Invalidenstraße 50-51, 10557 Berlin, Germany
入場料:12ユーロ
http://www.hamburgerbahnhof.de

Text: Kiyohide Hayashi

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