游思(ヨウ ・ス)

PEOPLEText: Emma Chi

唐の時代、安徽(あんき)省の宣城(せんじょう)という街で、柔らかく優美で強い紙が発明された。宣城を起源とするこの紙は「宣紙(せんし。中国で水墨画の際に用いられる紙。)」と呼ばれ、その後数百年に渡り中国絵画芸術の基本となる材料として愛され今日に至る。20世紀、中国芸術は根本を揺るがすほどの大きな変化を経験した。しかし宣紙は、現代のアーティストにとってもインスピレーションを具現化する重要なメディアの一つとして、変わらずに重宝されているのだ。

シャンハイ・ギャラリー・オブ・アートで開催中の展覧会「宣・延」展は、宣紙を使って制作する三人のアーティスト、チウ・ジージエ(邱志杰)、ヨウ・ス(游思)、ジェン・ジョンビン(鄭重賓)による合同展示だ。ときに伝統的でときに前衛的な表現方法を通じて、アーティストたちは自らの創作の無限な可能性を探求している。アーティストの一人、ヨウ・スにインタビューを行った。

ヨウ ・ス

ヨウ・スは本展の中で唯一、色を使うアーティストである。彼は鮮やかな色彩と非正統の絵画技術を用いて、宣紙の特徴である吸水性を存分に利用した作品を制作している。そして中国絵画と自然との関係を新たに解釈し直している。その作品を、装飾的で奇妙な物体のペインティングだと単純にとらえることはできない。そこに描かれる幻覚のようなイメージは、深海に生きる生物の細胞の構造や解剖を連想させる奇怪で優美な結合体だ。それらが発生し留まることなく循環し続ける過程が描かれている。世界は永遠に循環し続けるというのは中国哲学の心髄。本展でヨウ・スは初めて陶土を使った作品を制作した。ギャラリーの天井と壁面に作品を配置する様子は、視覚の祭典のようだ。これらは多くの実験と努力の結果でもあり、一人のアーティストが自らを開拓し新しい分野の能力を獲得していく姿、それを示すものでもある。

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本展のあなたのテーマは何ですか?どのような作品を展示していますか?

この展覧会のキュレーターの掲げたコンセプトは、アートを創造する中で使われ続けてきた“宣紙”を出発点にしようというものです。私個人としては、ある決まったテーマのもとに創作活動を続けています。私が創作で究極のテーマとしているのは、自分が見ている生命の世界、その美と生命力を讃えることです。奇妙で多様に変化する架空の生命体をつくり続けてきました。それをマクロの世界とミクロの世界の空間の中で入れ替え変形させることで、ある時間の順序、その永久に不変な関係を表現しようとしてきました。絵画でも、インスタレーションや彫刻でも、またこの先、未知のメディアに取り組むときも、私はこの永遠のテーマを追い続けます。今回の展示では、私の作品は二つの部分で構成されています。絵画では、人体の器官に似たものが図形的に相反しながら交錯し変化する様子を描き、マクロ的な時間と空間を構築しようとしました。陶土を用いたインスタレーションや彫刻は、三次元で生命の美を表現しました。彼らは交わり入れ替わりながら出現することで警告をしています。時間空間は、彼らがこの世界に現れるための必要条件なのだと。

どこからインスピレーションを得ていますか?

2002年に自分の芸術の原点は、微生物の細胞と宇宙のイメージに対する好奇心だということを改めて発見しました。科学技術のめざましい進歩もあり、当時の私は明白に気付くことができたのです。もしもミクロとマクロの2つの空間の間に関係性があり、私がそれを絵画で表現することができたなら、私は無限の想像空間を開くことになると。私のインスピレーションがどこから来るのか、言葉で説明するのはとても困難です。長年の生活や経験の積み重ねとも言えるし、自分自身の感受性とも言えます。私は科学技術が人間の生活に強烈なインパクトをもたらしたと、敏感に感じています。そのインパクトが抑圧なのか刺激なのかは分かりませんが、現代の科学技術は、我々の伝統的な考え方を変えているのです。私はこの変化させられていく過程をとらえようとしています。これはまさに異変の過程だからです。私はある決まった状態に留まりきれず、常に変わり続けていくのです。

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