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西尾美也

PEOPLEText: Yuko Miyakoshi

家族や学生、地域の住民などといったあらゆる層の人を巻き込んで「装いの行為」とコミュニケーションに着目したプロジェクトを展開する現代美術家、西尾美也。1982年、奈良県生まれ、東京藝術大学大学院 美術研究科 博士後期課程(先端芸術表現研究領域)修了。2007年より数回アフリカに渡り、東京とアフリカを中心に活動を行っていたが、2011年9月から2年間、文化庁新進芸術家海外研修制度の派遣研修員として、本格的にアフリカのナイロビで生活をする。

代表的なプロジェクトに、世界の様々な都市で見ず知らずの通行人と衣服を交換する「Self Select(セルフ・セレクト)」、数十年前の家族写真を同じ場所、同じ服で再現する「家族の制服」、世界各地の巨大な喪失物を古着のパッチワークで再建する「Overall(オーバーオール)」、「言葉」からイメージした「形」を古着で作る「ことばのかたち工房」などがある。聞けば、西尾さんのプロジェクトの根幹にはいつもファッションがあった。中学・高校生の頃、モードファッションが大好きだった男の子がファッションを消費する世界から抜け出し、規制の枠組みにとらわれない表現を探し始めた。それが西尾さんのアート表現の始まりとなる。独自の視点で社会を見据えるようになったアーティストの肚(はら)には、消費社会への批判もあるにはあった。だが、西尾さんがやってみせたことは、あからさまな反発ではなく、自分が見付けた場所で、自分のやり方で表現をすることだった。

西尾美也
「オーバーオール:Uボート」制作風景(フランス・ナント 2009)

西尾さんの制作スタイルは、公開制作で観客が参加するという形をとられることが多いですが、そのスタイルを始められることになったきっかけについてお聞かせください。

初めての作品がワークショップ型だったのです。大学受験生だった頃に、パーツ分解できる服を35人分くらい作って、それをチケット代わりにするというワークショップを行いました。参加者の方には、好きなデザインの服を一着選んでもらって、それを身につけて参加してもらう。それでコミュニケーションをとりながら服のパーツを交換していくうちに、袖を襟のところに付けたりして、服の見た目もぐちゃぐちゃになり、新しいものができていく。それが2002年、初めて作品と意識して作った作品でした。その時から参加型の精神というのは持っていましたね。

服と参加型、というのは僕の中で必然的に繋がっていて、それをどういう形にしていくか、ということが服を交換することになっていたり、パッチワークになったりしながら、様々に変化し進んでいる。初めて実践した時はワークショップ会場の空間に集まってもらったのですが、そこはある意味、現実からは切り離れた場所でした。ところが今度はそこに違和感を持つようになり、もっと現場、現実のコミュニケーションに介入したいと思い、家族に行ったり、ストリートに行って実践したりするようになったという感じですね。

アフリカでの活動はいつ頃から始められたのですか?

アフリカへ行ったのは非常に個人的な理由で、妻が大学で地域研究科に所属していて、調査地としてアフリカのケニアを選んで滞在した、ということがきっかけでした。2007年に妻について行き、旅行でナイロビをはじめケニア国内の地方をまわったという経験が初めてのアフリカで、それからアフリカでの体験と僕の創作活動を繋げたいと思い色々と考えているうちに、また妻が2009年にアフリカに行く時に一緒に行き、何の道具も材料もなくても実行できる「セルフ・セレクト」を実施しました。そのために妻と、妻の現地の友達に、それを実行するにはどんな対策が必要か、というのを色々と練ってもらい実行しました。その時はまだ何の助成もなく、旅行の延長でやっているという感覚でしたね。

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「セルフ・セレクト・イン・ナイロビ」 ナイロビの町を歩く見ず知らずの他人と衣服を交換したプロジェクト(2009)

初めてアフリカで「セルフ・セレクト」を行った時に、アフリカでもっと実行してみたい、というひらめきのようなものがあったのですか?

そうですね。居心地がいいというか、やる気が出てくるというか、何とも説明しにくい感覚なのですけれど。多分それには色々理由があって、アート的な評価を気にしなくていい、というのも理由の一つだし、それを飛び越えて人と一対一で楽しんでいる、という実感があるのと、何かアクションを起こせば、何かできそうだ、という人のエネルギーのポテンシャルが大きかったです。決してコンセプチュアルにアフリカを選んでいるのではなくて、自然な流れで、自分の個人的なきっかけで始めたことなのです。そこについては僕自身、今はあまり理論化はしていない段階なのですが、元々僕の中に欧米主導型のアートのあり方に対する批判があって、それでアフリカで何かできないかな、という感覚に自然に繋がっているのだと思います。ただ、アフリカからアート界にインパクトを与えようとか、そういう頭で考えた作戦でもなく、批判を主張するよりは、そうじゃないとしたらどんな形なのか、というのを自分の実践でしめして行く方が説得力がある。だから、言葉は後からついてくるぐらいの方が、より説得力がでると思っています。

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