ニック・バックス
PEOPLEText: Noriyuki Abe
90年代初頭より、ワープレコーズやワイプアウト等のデザインを手掛けたザ・デザイナーズ・リパブリック(TDR)に在籍していたニック・バックスが2007年、新たに設立したクリエイティブエージェンシー「ヒューマンスタジオ」。彼らはイギリス北部、シェフィールドを拠点にしながら世界中にクライアントを持ち世界屈指のクオリティを持ったビジュアルイメージを発信し続けている。
自己紹介をお願いします。
ニック・バックスは英国出身のデザイナーで、グラフィック、クリエイティブディレクション、アート分野で20年に及ぶキャリアを持つ。1990年ノースエセックス芸術学校を卒業後、エイフェックス・ツイン、パルプ、スーパーグラスなどのカバーを手がけたザ・デザイナーズ・リパブリック(TDR)に在籍。ワープレコーズやリアクトなどのレコードレーベル、ワイプアウトやグランド・セフト・オートなどのゲームのアートワークプロデュースを手がける。2007年TDRを退社後、ヒューマンスタジオを立ち上げる。各種教育機関におけるデザイン・視覚コミュニケーション分野の客員教授を務める。王立芸術協会フェロー会員。
Fitriani packaging, 2009
ヒューマンスタジオは、MTV、スウォッチ、キルガー、SCI+TEC, ロンウェイ、ティジー、 シェフィールド大学、フィトリアーニ、 アーバン・スプラッシュなどを顧客とした商業デザインプロジェクトの実績をもつ。ヒューマンスタジオの作品は、欧州、日本、米国で展示されたほか、グラフィーク、ブレイン・マガジン、デザイン・ウィーク、ガーディアンなどの世界中の出版物やブログで取り上げられている。
現在のチーム構成員は、ニック・バックス、ダン・フリートウッド、クリス・ハドフィールド、デビッド・ジャクソン、クレイグ・リッチー。サイ・バイラム、エイミー・バックス、 マーティン・フューウェルからのサポートも得ながら活動している。
Human ‘namuH’ exhibition, Tokyo, 2010
最近の活動内容を教えて頂けますか?
「namuH」という我々にとって初めてのiPhoneとiPod Touchアプリをプロデュースしたところです。2010年12月に東京のカーム&パンクギャラリーで開催した、ヒューマンスタジオの商業目的ではないアートプロジェクトの回顧展を記念するものです。
ダブファイアの所有するレーベルSCI+TECのカバーと、特に大型の会場で使用する彼のDJセットのためのライブ映像のデザインを手がけているところです。また、6月16日から18日まで開催されるバルセロナのソナーフェスティバルに合わせ、TCI+TECのカバー展覧会の企画もしています。
シェフィールドにあるパークヒルを題材にした映像制作もしています。1961年に建設され、3000人が入居可能な欧州最大の重要文化財です。開発業者アーバン・スプラッシュによって最近新たに“再想像”されたことにより、もう一度特別な場所に生まれ変わると考えています。
現在、シェフィールド大学との共同プロジェクトも複数進行中です。すばらしいメンバーと想像力豊かな学生や研究者たちに恵まれたすばらしいプロジェクトで、世界を変えたいと考えている人々をシェフィールドへ呼び寄せることはとてもやりがいがあります。
また、フォトグラファーのショーン・ブラットワースと共にザ・ブラック・ドッグの新作アルバムアートワークのデザインを行なっています。また、ロンドンのファッションメーカーのウェブサイトデザイン、メキシコの建築家チームのブランド開発も手がけています。
活動拠点である、シェフィールドはヒューマンスタジオの活動にどのような影響を与えていますか?
ロンドン、ニューヨーク、バルセロナ、東京も大好きな都市ですが、シェフィールドは私たちのホームタウンであり、必要なものは全て揃っています。世界中から約5万人の学生たちが集まる活気に満ちたエキサイティングな街です。いつも新しい出来事が起こっています。
シェフィールドはまた、シェイムズムア・トライアングルの本拠地でもあります。
University of Sheffield prospectus, 2010
90年代、2000年代そして始まったばかりの2010年代を比較してみたとき、ヨーロッパのデザインの世界において良くなった部分、悪くなった部分は何でしょうか?
(90年代と比較して)現在の欧州デザインのスタンダードを測るのはとても難しいことと考えます。その理由は2つありますが、どちらもウェブと関連しています。
1.全世界が驚くべきほどにビジュアルに対して意識的になっている昨今、欧州のデザイン界が見る人を育て、ゆっくりと発展させ、驚きを与えることは難しいといえます。
2.世界中から集まったデザインは今やどこからでも手の届くプラットフォームに出来上がっています。目新しくてすばらしい作品がたくさんある。デザインブログの持つスピード感と勃興により、欧州がデザイン出版界を独占しているとは言いがたいばかりか、むしろ冗長ともいえる状況になっています。
‘POP’, MTV Onomatopoeia idents, 2009
ヒューマンスタジオのデザインに於いて、最も重要な点を3つ、教えて下さい。
デザインの境界線を押し広げるような新しいものを生み出すこと。
人々とのコミュニケーションを生む価値あるものを作り出すこと。
ヒューマン(人間的)であること。
Dubfire visuals, Hyperspace, Budapest, 2011
ヒューマン・コンピュータ・インタラクションについて教えて下さい。
ヒューマン・コンピュータ・インタラクション(HCI)とは、ミュージシャンやサウンドアーティストやDJとのコラボにおいてヒューマンスタジオが運営するライブデジタル映像を使った視聴者との双方向のやりとりを指す用語です。クラブや巨大アリーナやアートギャラリーや地下駐車場を会場に開催されるイベントで使用してきました。これまで、ベルギー、アメリカ、スペイン、日本、イギリスなど8カ所での実施実績があります。
The Black Dog ‘Music For Real Airports’ album cover, 2010
今後、あなたの活動を発展させたい分野/媒体はありますか?
すでに建築、ファッション、音楽分野でその道のプロや組織と関わりを持っていますが、そういった分野で独自の制作を展開していけたら嬉しいです。 たとえば、ヒューマン社のデザインした環境下でヒューマン社によるサントラをバックに、ヒューマンファッションコレクションを発表するといったようなことです。HCIのシリーズも、建物や環境に恒久的に印として残せるようなかたちで進化させたいと考えています。
作品集「GASBOOK pop 4」の見所は何ですか?
当初はカーム&バンクギャラリーでの展示カタログとしての位置づけでしたが、2007年から2010年までの我々主導による作品の総覧として見ることもできます。総覧で作品を見てもらった上でウェブサイトに掲載されている商業プロジェクトも見て欲しいと思います。ヒューマンスタジオの作品はどれも思想や愛や魔法が一定のレベルを保っていることに気づいてもらえると思います。
最近、気に入っているミュージシャンを5組教えて下さい。
ヒューマンスタジオでは1日中音楽がかかっています。お気に入りがありすぎて、5つを選ぶのは難しいです!友人のマーク・フェルが昨年ラスター・ノートンとエディションズ・メゴから発表したソロアルバム2種はとてもよく聴いています。リーズで行われたEarthのライブも聞きにいきましたが、こちらも楽しめました。
ダニエル・ロパティン率いるオネオトリクス・ポイント・ネバー も、ここ1年スタジオ内での人気が高いです。今年のソナーフェスティバルでのアクトレスの出演にも注目しています。「スプラッシュ」をよく聞いています。ソニック・ユースの新譜もよくかけています。これは映画のサントラですが、ここ最近のオリジナルアルバムと比較しても一番の出来といえます。
Roewe event branding (video still), 2010
日本の読者にコメントをお願いします。
すでに3回も日本に行くことができた自分はラッキーだと思いますし、昨年はチームの全員が東京に行くことができました。すばらしい土地とすばらしい人々で本当に大好きです!未来を見据えつつ先代から受け継いだものを大切にする、というのが私の人生と仕事の上でのモットーですが、日本はこう考える上でのインスピレーションとなってくれています。
また、最近の大惨事に際して、日本人の底力と立ち向かう決意、また優美さを見せつけられましたが、とても謙虚だと感じました。またすぐに日本を訪れたいと思います!
GASBOOK pop 4 – NICK BAX
仕様:32 pages / Soft cover / 150 x 210 mm
発売:2011年4月
価格:1050円(税込)
販売先:書店、雑貨屋、セレクトショップ、GAS ONLINE SHOP
http://www.hellogas.com
Text: Noriyuki Abe
Translation: Ayako Ishii