

+81Creativesが主催する初のクリエイティブ・イベント、TOKYO GRAPHIC PASSPORTが、10月11〜12日の2日間に渡り開催された。「Tokyo Visualist Symposium」と「International Magazine Conference」と題した2つのメインイベントでは、世界各国の第一線で活躍するクリエイティブ・マガジンのアート・ディレクターやクリエイターをパリ、ベルリン、ニューヨーク、シンガポール、アムステルダム、ロンドン、そして東京の各地から招き、「ものを創造する」者の声をたっぷりと届けるカンファレンスを実施。盛況の2日間となった。
1日目に開催されたのは、様々なジャンルの32名の日本人クリエイターとその作品を紹介するアート・ブック「Tokyo Visualist」にフィーチャーされた、東京から世界に向けて発信するヴィジュアル・アーティスト6名によるシンポジウム「Tokyo Visualist Symposium」。

入口ではチケットと引き換えに“GRAPASS”と書かれたパスポートが交換され、会場に入る為の、入場パスの代わりにもなった。会場は原宿にあるベルサール原宿。
初日はゲストスピーカー3名ずつによる2部入れ替え制。1部は、鴻池朋子(アーティスト)、蜷川実花(フォトグラファー)× 後藤繁雄(編集者)、名和晃平(アーティスト)、2部は川上俊(アートディレクター/デザイナー)、小山泰介(フォトグラファー)、稲葉英樹(グラフィックデザイナー)× 山下悟(+81編集長)のプレゼンテーションになった。

会場では、スポンサーブースや物販があり、物販ではクリエイター本人が作品を手売りする場面もみられ、出演者と身近に接する事の出来る雰囲気であった。
初日のTokyo Visualist Symposiumからは、2部に行われたプレゼンテーションを紹介する。

Tokyo Visualist Symposium2部の最初は川上俊によるプレゼンテーション。
川上氏は、2000年に「artless」としての活動を開始し、海外での展示会など、クライアントワークに留まらない活動をしてる。今回のトークでは今までのアートワークやエキシビジョンを中心に話が進められ、JAGDA TOKYOにて10月10日まで行われた、川上俊と河田孝志によるエキシビジョンの様子を語った。人との出会いによって作品が生まれ、出会うべき人にはだいたい出会うといった話が印象的だった。グラフィックコラージュについての制作過程、コンセプトなどが詳細に話され、デザイナーにとっては注目すべき話ではなかっただろうか。

2組目は小山泰介によるプレゼンテーション。
今、最も注目されている若手写真家の一人である小山泰介。写真家になるきっかけは、デジタル一眼カメラを買った事。そして学校には通わず、独学で今まで活動を続けてきたそうだ。今まで写真を撮影しに行った所の地図や、その写真がどのような場所で、どのようにして撮影されたかなど、小山氏の写真を見ながら、気になっていたものすべてが話されたような内容となった。写真を撮る時に決めている事として、晴れた日の昼だったり、トリミングをしないなどがあり、一点一点の作品すべての説明を聞きたくなるようなトークであった。今後も更なる活躍が期待できそうだ。

Tokyo Visualist Symposiumの最後を締めくくったのが、+81のクリエイティブ・ディレクター 山下悟と共に登場した稲葉英樹によるプレゼンテーション。
稲葉氏は、90年代後半より「+81」、「SAL magazine」などのデザインを手がけ、タッシェンの人気書籍「Graphic Design Now」のカバーに選ばれるなど、国内外から高い評価を受ける、注目すべきグラフィックデザイナーの1人である。
パソコンがなければ自分のデザインはなかったと、デザイナーになったきっかけからトークが始まった。過去の作品から、最近の作品まで、ミクロまでこだわる稲葉氏の話はとても面白かった。最近はグラフィックに興味はあるが、デザインにそこまで興味がない事に気がついたそうだ。よく、今はなにしてるのかと聞かれるが、表に告知して行くのが得意ではないらしい。淡々とやっていくのみと言う。近々ではTDCの審査員や、来年にはエキシビジョンを予定しているとのこと。今後の展開に期待したい。

2日目は、世界の雑誌のアート・ディレクターや編集者を招いて、雑誌のクリエイティブを考えるカンファレンス「International Magazine Conference 」を開催。1日目と会場が変わり、九段下にある歴史ある建造物、九段会館にて行われた。2日目はGRAPASSと共に「+81 Voyage」の最新号「Tokyo Graphic Passport」が配られた。会場では7組のゲストスピーカーにより「雑誌のクリエイティブを考える」プレゼンテーションが行われた。

クリストフ・ブルンケルは、1993年〜2006年までの13年間、フランス発のマガジン「Purple Fashion」のアート・ディレクターを務め、最近ではアーティストとしても活躍している。Purpleの制作過程は根気のいる作業で、1日に進められるのは2ページほどだったそうだ。中身よりも大切な事は構成。子供心になり常識を打ち破る形で作っていると語った。『みんな雑誌をやってみてはどうだろう。既製服ではなく、若者の為のオートクチュールのような雑誌を』と最後に語り、雑誌への興味を注ぐ内容となった。

ベルリン発のクリエイティブカルチャーマガジン「032c」。雑誌の名前である032cは、パントンカラー番号に由来している。常に新しいクリエイティブに取り組んでいるこの雑誌を手がける、発行人兼編集長のJoerg Koch によると『雑誌は、質問を投げかける。そして、我々の雑誌の中でその結果を取り上げた。可能性やポテンシャルの蓄積、決まりきった物を定義する方法はとっていなかった。読者を真剣に受け止め、このようなアプローチをとった結果、非常に多種多様の読者層をつかむ事ができた』そうだ。雑誌のタイトルやデザイン、背景などが詳細に語られたプレゼンはとても貴重な物となった。

通称F.I.Tの名で知られるニューヨークのにあるファッション工科大学で出会った4人のデザイナーで構成される、グラフィックデザイン・スタジオ「スタジオ・ニューワーク」。彼らが2007年より実験的に始めたメディア「Newwork magazine」におけるデザインの重要性を定義し、「コントラスト」「リズム」「スタディー」などのカテゴリーに分け作品を紹介した。どの作品もコンセプトやテーマに沿って作られ、スタジオ・ニューワークのデザインに対する興味深さを感じられた。

ゲルト・ヨンカースとヨップ・ヴァン・ベネコムは、2001年、ホモ・セクシャル文化にフォーカスを当てた「BUTT」を創刊し、2005年には、メンズ・スタイル誌「FANTASTIC MAN」を創刊した。

“FANTASTIC MAN”というタイトルの由来については、面と向かっては言わない言葉をわざと選び、それをタイトルに使用したそうだ。この雑誌では、他の仕事に従事している人をモデルに起用し、プロのモデルは例外をのぞいては誌面に登場しない。モデル選びに定義はなく、どういった人がいいのかを、吟味して選んでいる。FANTASTIC MANの大きな特徴の1つとして、基本的にすべてセンタリングしている。イメージとタイポグラフィーを別々に切り離していると考え、どちらのほうをより重要視し、強調することができるのか。それを工夫する余地を残していると語った。「COVER」「NAMES」「STYLE」「TEXT」という項目に分けて、FANTASTIC MANについての詳細な内容が語られたプレゼンはとても興味深かった。最後に雑誌は年に2回発行なのでウェブサイトの方にもぜひアクセスしてほしいとのこと。

2001年よりロンドンに拠点を移し、Dan Ross、Rankinと共に雑誌「Intersection」を創刊したのが、フランス出身のアート・ディレクター兼デザイナー、ヨルゴ・トゥルーパス。Intersectionの話だけに止まらず、最初に雑誌の仕事となった「CLASH」の話からトークが始まった。21歳のときに初めて雑誌の仕事をしたのが、CLASH。支払いを受けない、その代わりに自由が与えられたそうだ。そしてCLASHの次に手がけ、無料で配布したという「magazine」についても触れていた。magazineのカバーデザインでは、同じグリットを使いながらも毎回タイプフェイスを変えるやり方をとっていたそう。

Intersectionの読者に対しては、平均的なスタイルの雑誌とは違ったアプローチをしてる。読者はマーク・ジェイコブスが誰なのかを知らないかもしれないが、スタイルやデザインに興味をもっているので、違ったやり方でグラフィックな要素を使う事によってディテールを示そうとした。また、彼は『今日紹介されているような雑誌、実験的な雑誌よりはもっと主流の雑誌に近い物があると言える』と語っていた。
最後に面白い動画を見せてくれた。毎回、ユーモアという感覚のものを取り入れたり、違った事をやろうとしているが、多くは非合法的な行為だったりする。考え方としては自分が自転車をこいでいるのではなくラジコン任せ、なのだそうだ。

中島英樹は、NY ADC賞金賞5回、銀賞7回、東京ADC賞など、多数の受賞歴を持ち、坂本龍一とのコラボレーションを行うなど、日本を代表するグラフィックデザイナーである。
雑誌は不況の時代。最初に、東京においての現在の雑誌の状況について語った。自身の作品集「リバイバル」を自費出版した話の中で、『分かりやすいデザインは忘れやすい。分かりやすく誘導するデザインではいけない。』という話は面白かった。

最近では「LUMEN#05 Street view / Line」を出版。G/Pギャラリーに所属しているが、『自分ではアーティストと思っていない。グラフィックデザイナーは何をしても良いと思っている』と語った。
カメラマンがストリートスナップを辞めたら終わりだ、という話を森山大道とした時に、それを聞いたグラフィックデザイナーが街に出たらどうなるかと思ったことがきっかけでLUMENの作品が生まれたそうだ。朝の5時に街にでて、フロッタージュをした様子など、とても興味深い話が聞けた。

TOKYO GRAPHIC PASSPORTの幕を閉じる最後のプレゼンテーションを披露したのがが、「WERK」のクリエイティブ・ディレクター、テセウス・チャン。1997年に事務所「WORK」を立ち上げた後、2000年に「WERK」を創刊。その後、東南アジアで唯一のコムデギャルソンのゲリラストアを運営し、ヴィジュアル・ブック「Guerrillazine」も同時に制作する。

『WERKは私のインスピレーションや考え方、アイデアをそのまま反映している』と語る彼にとって、作品を作るにあたり、素直さや純粋さとがとても重要であるようだ。シンガポールの国の特徴に、間違えや弱さを無能と見なしてしまうところがある。そんな思考回路の反発から不完全の中にある美しさに目覚めたと語った。「人にとって良くないことが、時として良いことになる」ということが、ただ受け入れられないという考えから、彼は、間違いと共にある雑誌を作り始めたそうだ。WERKがどのように作られたか、どのようなやり方でボロボロな素材を選択したかなど、とても面白い話が聞けた。ちなみに紙はカモミールを気に入っているらしい。その紙を使うのはアンチデザインを表しているそうだ。彼のプレゼンはとても謙虚で面白く、WERKを買いたくなる内容だった。
2日間にわたり開催された、今回のカンファレンス。東京で活躍するスピーカーの話を聞けたのも良かったが、一度にこれだけの雑誌に関わる人達の話を聞けたのは、+81だからこそ出来たカンファレンスではなかっただろうか。雑誌という同じステージながらも、それぞれが違った考えを持ち、雑誌に対する思いを語る所は、とても貴重な体験となった。
カンファレンスは、最新号「+81 Voyage」と連動しており、カンファレンスが終わってからも、雑誌を見る事によって、より理解し、思い出す事が出来るのではないかと感じた。今後も+81ならではのカンファレンスを期待したい。
TOKYO GRAPHIC PASSPORT
会期:2009年10月11日〜12日
Tokyo Visualist Symposium
開催:10月11日
会場:ベルサール原宿
住所:東京都渋谷区神宮前2-34-17
International Magazine Conference
開催:10月12日
会場:九段会館
住所:東京都千代田区九段南1-6-5
主催:+81Creatives
http://www.grapass.net
Text: Kayo Tamura