マルタン・マルジェラのインテリア展

HAPPENINGText: Kana Sunayama

マルタン・マルジェラという固有名詞が喚起させるものは何だろうか。マルジェラの「白」。マルジェラの「木綿」。マルジェラの「トロンプルイユ」。どれも「マルジェラの」と付けないわけにはいかないことに驚く。
そんな「マルジェラのインテリア」を2009年10月末までフランスの建築遺産博物館で堪能することができる。

パリのトロカデロ、セーヌ川をはさんでエッフェル塔を包み込むかのように両翼を広げるシャイヨー宮。その東側に広げられた翼に、フランスの建築と文化遺産を総括する美術館が、2007年9月に開館した。

マルタン・マルジェラのインテリア展
Photo: Courtesy of Cité de l’architecture et du patrimoine, Paris. © Marie-Pierre Morel pour Elle Décoration

フランスの代表的インテリア雑誌である「エル・デコ」の主催で始まった この「ラ・スイート」と名付けられた企画は、1930年代にシャイヨー宮の建築家であったジャック・カルルが居住していた、エッフェル塔とパリの景色を眼前に見渡せる広いテラスを備えた220平米にわたるアパルトモンを利用して、毎年個性の強いクリエーターに「まるごとおまかせ」でインテリアを担当してもらう、というものだ。

第一回目の2008年は、現代アートコレクターとしても有名なクリスチャン・ラクロワによって、若手アーティストたちの作品がラクロワの色彩とスタイルの中で躍っていた(去年の様子はこちらから)。

2009年の今年には、ラクロワの色彩とは正反対のスタイルを持ち、「ウルトラモダンの神殿」とも呼ばれるメゾン・マルタン・マルジェラが選ばれた。

1989年の春夏パリコレクションで世界のファッション界にデビューしたマルタン・マルジェラ。アントワープ王立芸術学院出身デザイナーの代表格であり、現代のファッション業界において、最もアーティスティックなコンセプトとフォルムを持つ強いコレクションで私たちを驚かし続けている。

完全予約制のこのマルジェラのインテリア展は、毎時間20人のビジターだけがその世界に入って行くことができる。

迷路のように入り組んだシャイヨー宮のひとつの扉が開かれる。扉の中に入ると、そこは渋めのシルバーの、ゆったりとした生地に覆われた通路の真ん中だ。ここは客人を迎える際、最も重要な玄関であるはずなのに、早速そのような私たちの固定概念をくつがえすスタート。そしてその印象は通路の右側の奥から漏れる光によって導かれる、第一の間でより一層強いものとなる。そこはまるでマルジェラの新しいコレクションの撮影が数時間前に行われたかのような、白とグレイに囲まれたスタジオだった。この部屋に元から置かれていたであろう椅子やテーブル、傘立て、実物大の犬の彫像、円形のソファなどが部屋の真ん中に積み重ねられ、マルジェラの「白い木綿」で覆われている。撮影用の照明や乾いたペンキのはりついた梯子も無造作に置かれ、壁には、きっと一度もそこには存在しなかったであろうエル・デコのポスターや額縁の跡が煤けたように残っている。窓には白い半透明のビニールがテープで貼付けられたままだ。 過去にそこに存在していたという跡を残すことによって、より一層その存在を浮かび上がらせる。

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