ウィーン・アートウィーク08

HAPPENING

オーストリアで見る大胆不敵なアートの挑戦。
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ここだけの話、いわゆるアート狂、ファッショニスタ、デザインオタクなどのやり過ぎ具合に心配になってしまったことがある人もいるだろう。ファッションウィーク、アートウィーク、デザインウィーク…世界中で多くのイベントがまるでキノコみたいに大量発生している中で、我々はどんなしおりを作っていけばいいのだろうか?その際、本当にホットなスポットを見つけるのが重要だと思うが、色々行きたい候補があって迷ってしまうことも多い。今回は、オーストリアのウィーンで打ち上げられた新規構想に注目してみよう。

ウィーンには毎年春に開催されるウィーン・アートフェアがあるが、今年3回目の開催となるウィーン・アートウィークも世界中のアート好きをここヨーロッパの中心に集めている。ウィーン・アートウィークは、あらゆる都市の著名な団体や組織から集まった監督や専門家によって構成されるアートクラスター・ウィーンにより運営が行われ、極めて大掛かりな事業であると言えるだろう。

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Sharon Lockhart and Diederich Diederichsen – ArtistsTalk at Secession. Courtesy of Secession


メインイベントの1つは、専門的な聴衆を対象にしたパネルディスカッションや円卓会議だ。批評の将来、未来の美術館、美術館のアート、アート市場における新しい戦略などをテーマに、国際的に有名な参加者たちが議論を交わした。中には、ジョー・ファン・リースハウトノーマン・ローゼンサルジュリア・ペイトン・ジョーンズ、そしてハンス・ウルリッヒ・オブリストなどの参加もあった。
ローカルアートシーンの解説者たち(例えば、ニューヨークにあるオーストラリア文化フォーラムの元監督のクリストフ・サン・ホーヘンスタインなど)が司会を兼任。加えて、より多くの大衆向けに、いわゆるスタジオ見学が開催された。参加者たちは、アーティスト、キュレーター、ジャーナリストたちによって案内され、アートの裏側に触れたり、各都市のアート界の話を聞くことが可能だ。アーティストで「スパイク・アート・マガジン」の編集長でもあるリタ・ヴィッテロリも、分かりやすいガイドとしてツアーの案内を行った。そのガイドの最終地点は、フローラ・ニューウィースによる「クラブルメン」のプロジェクトスペース。革新的なプロジェクトである「クラブルメン」は、芸術的なプログラム然り、所属のアーティストたちによる素晴らしい作品の数々も然り、そのインタラクティブさ、オープンさ、学際的な活動に注目が集まる。

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Sharon Lockhart / Lunch Break at Secession. Courtesy of Secession

これらは主に、中の人向けのやや内輪のイベントだが、ウィーンアートウィーク会期中はもっと広い大衆向けのイベントも数多く用意された。セセッションは、ウィーンで最も影響力のある美術館で、芸術的な革新という意味でも歴史が深い。このセセッションだが、会期中は、シャロン・ロックハートの個展「ランチ・ブレーク」を開催した。彼女は作品に対して非常に深い考えを持ち「瞬間」や「身近な時間」と言うものに対するアプローチを行ってきた。それはほとんど社会論理学的なアプローチとも言える。今回の作品でも、この態度に忠実に、メインにあるバス・アイアン・ワーク・ファクトリーの労働者たちの食事休憩を収めた写真、映像、音楽の展示を行った。ロックハートはオープニングに際して、自らウィーンを訪れた。ウィーンアートウィークの初日、ロックハートとドイツ人のアート理論家ディーデルリッヒ・ディーデリシェンが公に登場し、アートの自由性、アーティストの社会の中での位置付け、ロックハートの作品に対するアプローチについての会談を行った。この会談は大きく反響を呼び、セセッションのロビーが、アート好きで超満員になった。

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T-B A21. Courtesy of Amar Kanwar and Marian Goodman Paris

無類のアート好きを常に魅了し続ける団体が、ティッセン・ボーネミザ・アート・コンテンポラリーである。創立・監督は、ウィーンのアート好きなセレブたちの第一人者と言われることもある、フランセスカ・ハブスバーグ(マドリッドにあるミュゼオ・ティッセンのコレクションの寄贈者の娘)である。ウィーンアートウィーク会期中は、その展示スペースで「クエスション・オブ・エビデンス」が開催された。この展覧会においては、「政治的独自性」、「人権侵害」、「言論と芸術的表現の自由を制限しようとする試み」などをテーマに扱う南アジア・中央アジアのアーティストたちの多様な立場が集約されている。アーマー・カンウォーによる19チャンネルの映像インタレーション「トーン・ファースト・ページ」は、展覧会における重要な作品の1つ。政権のイデオロギーを淡々と綴った本の最初の1ページを破り捨てたという罪で刑務所に入れられた、ビルマ人の本屋店長コ・タン・テイに対するオマージュだ。アラダナ・セスとダイアナ・バールドンと共に、この「クエスチョン・オブ・エビデンス」の担当者である代表ダニエラ・ツィーマンは、来年に向け「T-B A21ファウンデーション」で開催される大きなプロジェクトのコーディネートも行っている。森美術館とのコラボレーションで、ティッセン・ボーネミザ・アート・コンテンポラリーのコレクションが、2009年東京で開催される予定だ。

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Joep VLieshout / Wellness Skull

様々な美術館、団体、ホワイトキューブスペースなどが、街の組織化されたアートシーンが行き着く終着点を現しているのは間違い無い。しかし、その一方で「その終着点が、パブリックアートに対しどのような貢献をしているか」というのも見物である。クンスト・イン・オエッフェントリシェン・ローム (KoeR)(パブリックスペースにおけるアート)という団体は、街のアート部門の事業部としてパブリックアートの委託と資金供給を担当している。ウィーンアートウィークには、新旧問わずウィーン中に展示されている有名な作品の一部をガイドするための場所であるという側面がある。KoeRの出資による最新のプロジェクトの1つとして、オランダのアートレーベルであるジョー・ファン・リースハウトによる「ウェルネス・スカル」も、カールスプラッツにあるセセッションのビルのちょうど向かい側に先週オープンしたばかりだ。市の北側に位置するプレイターアミューズメントパークとプレイタースターンの近くで開催されている「アーバン・サインズ」というパブリックアートの展覧会も一見の価値あり。

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Sonia Leimer / Urban Signs

記念碑的作品である、ソニア・ライマー作の「Beton, Stahl, Glass, 2008」と書かれた大きな文字のインスタレーション「アーバン・サインズ」は最も注目に値するだろう。ごく最近に改築された駅について、遊び心たっぷりに表現している。「ウェルネス・スカル」も「アーバン・サインズ」も、一時的なプロジェクトだが、パブリックアートを特徴付けるダイナミックな潜在能力を強調している。

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Paul Kranzler. Courtesy of Hilger Contemporary

ウィーンのギャラリーもまた、このフェアにおいて重要な役割を果たしている。セイラーシュタエッテやエッシェンバックガッセ、そして6区7区にあるギャラリーは、ウィーン・アートウィーク会期中、協同開催のイベント、オープニングなどを企画した。ハイルガー・コンテンポラリーは、新しい展覧会「ニュー・クルー」においてポール・クランツラーによる写真の展示を行った。「ニュー・クルー」は、アメリカやイギリスの青年たちと並んで、オーストリアの田舎のティーンズを写したポートレート作品だ。この組み合わせは、世界中のグローバル化した若者の特徴を顕著に表現していると言える。

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Soeren Engsted

メッザーニン・ギャラリーでは、デンマーク人の若手アーティストのソーレン・エングステッドによるウィットに富んだ立体作品へのアプローチを見ることが出来る。「Get Your Gin / Tonics and Run」は、ばらばらの小さな立体作品で構成される非常にコンパクトな展示だ。真面目過ぎる作品や有名なアーティストの硬い動きとは違って、全く型にはまっていないのが特徴的。

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ARTmART – Billboard

これだけ色々な大衆参加型のイベントがあっても尚、ウィーンアートウィークはややお高く止まったアート界のエリートを一緒にした感は否めない。海外アートシーンを刺激する具体的な何かが感じられないのだ。ハイエンドな聴衆に向けてのみ講演を行うのは、少し危険なところがある。しかし、ウィーンアートウィークでは、新しい才能に出会う機会、既存の確立したアートーシーンから脱却する機会を得ることが出来る。こういった意味で、会期中に開催された最も面白いイベントは、ARTmARTアートフェアだったかもしれない。ARTmARTでは、一作品70ユーロと標準的な値段で作品を買うことができる。キュレーターたちお墨付きのアーティストの作品が並び、そのほとんどは、アート市場に参入したばかりの若い有望なアーティストたちのもの。地元のキュレーターたちは、このアートフェアを有望なアーティストをスカウト出来る場所として認識しているのだ。もちろん、大きなアート作品なんて買えないという質素倹約なアート好きのためのオプションも用意されている。

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ARTmART – Christiane Reiter

今期のARTmARTの秘蔵っ子は、クリスチャン・ライター。彼女の繊細なポートレート作品は、訪問者の間でも熱狂的な人気となった。彼女に話を聞くと、「作品の反応がしっかりと伝わってくるし、美術館のキュレーターやギャラリストたちとのネットワークの可能性も開けた」と大喜びの様子だった。

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ARTmART – Peter Wehinger

ARTmARTには、余りに多くの作品が展示されていて、どれかお気に入りをを選べと言われてもなかなか難しい。クリスチャン・ライターの作品の隣には、ピーター・ウェインガーのぬいぐるみの戦車が展示されており、全く害のないオモチャの戦車が並ぶ姿は何だか面白い。ウェンデリン・プレッスルによる訪問者向けに作られた詳細なマップも、まさにこのフェアに合った魅力的なデザインだった。

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ARTmART – Christian Eisenberger

クリスチャン・アイゼンベルガーによるインスターレーションは、ハイアーッシュホルンに似た作風を感じる(ただしこの作品に関してはあまり面白くはない)。また、ニチョス・ラビット・アイによる作品の中では、コマーシャルアートスペースで展開されるストリートアートの傾向が伺える。

一日の終わり、いやフェアの一週間の終わりの日に、主催者はその来場数を振り返って満足するかもしれない(個人的には成功に終わったと思うが)。しかし、長い目で見て、非常に控えめなウィーンのアートシーンを外からやってきた大勢の人々にとって、このアートウィークは本当に魅力的なものになっているのだろうか。そのような議論が内部で十分に行われているかは依然としてはっきりとしない。とりあえず、賞賛が上がっている限りは、このフェアの動向を追ってみてはどうだろうか。まだ3年の歴史しかないが、街のアートシーンへの大きな貢献を感じ取れる。これを考えれば、ウィーン・アートウィークは、秋の終わりの怒涛のアートフェアの後に小休止できる場所としてその地位を築いていくことだろう。

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会期:2008年11月17日〜23日
会場:ウィンーン市内、ギャラリーなど
http://www.viennaartweek.at

Text and photos (except where courtesy indicated otherwise): Daniel Kalt
Translation: Tatsuhiko Akutsu

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