ヤノベケンジ

PEOPLEText: Kyoko Tachibana

妄想のファンタジーと現実のドキュメントが一体となる物語

ヤノベケンジ
© ヤノベケンジ

子供時代に体験した大阪万博跡地での「未来の廃墟」を原点に、ユーモラスな造形に社会的メッセージを盛り込んだ作品を作り続けているアーティスト、ヤノベケンジ霧島アートの森での展覧会と平行して、ヤノベケンジ初の絵本である『トらやんの大冒険』の出版を記念した展覧会が、現在札幌宮の森美術館にて開催されている。北海道初の個展となる今回は、絵本の展示と共に「トらやん」のインスタレーション作品も公開。本展や絵本出版のいきさつ、北海道でのある思い出まで、ヤノベ氏に話を伺った。

トらやんとは、ヤノベ氏の実父の腹話術人形「ケンちゃん」が進化したキャラクター。ある日阪神タイガースのユニホームを身に纏っていたことから、「トらやん」になったそうだ。ヤノベ作品としてのトらやんの登場は、2003年万博跡地にある国立国際美術館での展覧会でそれまでの集大成となる『メガロマニア』を開催した際に、それまで自身が着用していたアトムスーツ(放射能防護服)のミニ版を着せてみたのがきっかけ。3才児用として作られたそのアトムスーツを着て「一番しっくりきたのが当時3才だった自分の息子でもなくトらやんだった」という。

ヤノベケンジ
© ヤノベケンジ

今回公開となる絵本では、そのトらやんがある日小さな太陽を拾い上げ、旅の途中でたくさんの仲間と出会い、力を合わせながら大きな太陽へと成長させていくというお話。それと重なり合うように、制作過程を記録した写真が物語の原画と交互に載せられており、まるで妄想のファンタジーが現実のものとなったような仕掛けである。本展では、この絵本の原画と制作ドキュメント写真の紹介、『トらやんの大冒険』に加えて、北海道特別エピソード『トらやん雪の街へ』編原画も公開、絵本はアトムスーツを身にまとった特装版も、会場にて限定販売される。

ヤノベケンジ
© ヤノベケンジ

今回の絵本は、1997年に『アトムスーツプロジェクト』として自作の放射能防護服であるアトムスーツを着用し原発事故後のチェルノブイリなどを訪問した際に、チェルノブイリの保育園で見つけた人形、そして太陽をモチーフに作り上げたもの。今までは比較的大きな作品を作るという印象であったが、これはヤノベケンジにとっては最初の絵本となる。「本であっても、他の作品をつくるにしても、すべて作品として作っているのでそんなに変わりはありません。いつも作品を作るときは、映画を撮るような感覚で作っているんです。」ヤノベケンジの作品は確かに「物語性」が強く、多くのストーリーが絡み合ってできている。その「物語性」を活かすためにも、絵本という表現方法が最適であったというわけである。このインタビューでも、様々な体験や出来事がストーリーのように語られ、すべての出来事が複雑なストーリーのように繋がっているようである。

ヤノベケンジ

インスタレーション作品では、『小さな森の映画館』ならぬ『宮の森の映画館』も展示され、ヤノベ氏のお父様とトらやんとの腹話術短編映画が公開されており、楽しくもどこか切ないポーランド語での『森へ行きましょう』と原爆のキノコ雲の映像をバックに、二役の絶妙な掛け合いが繰り広げられる。

ヤノベケンジ
© ヤノベケンジ

ヤノベ氏は以前、実際に装着したり乗って動かしたりできる大型の機械彫刻作品を数多く手がけていた。しかし、チェルノブイリでの体験や国内外での社会的変動、プライベートでもお子さんが生まれたりしたことがきっかけで、制作のテーマがそれまで「サバイバル」だったのに対し、「リバイバル」へと変化している。近年では、子供参加型のワークショップなども展開し、生存する事のみならず、未来を見据えた「再生」や「復活」をテーマにポジティブな方向性をもって活動を行っている。

ヤノベケンジ

ヤノベケンジの原点が大阪万博跡地ということはよく知られた話だが、彼の北海道とのつながりの原点も、実は大阪万博にあった。万博で赤軍と記したヘルメットをかぶって太陽の塔に篭城した「目玉の男」を探しに、ヤノベ氏は北海道まで来ていたのだ。今でも唯一現存する太陽の塔は、時間を駆け上がって未来へと放たれる出口をイメージして作られたものだったのだが、今はコンクリートで塗り固められてしまっている。「僕はその目玉の男こそが、その未来への出口から突破することに成功した唯一の人なのではないかと思ったのです。それで、その人を探すために旭川まで行ったんです。」そして奇跡的にも、旭川でその「目玉の男」に出会うことができたのだそうだ。今回の北海道での個展は、そんな意味でもヤノベ氏にとっては物語の延長であり、実は今回の北海道特別エピソード「トらやん雪の街へ」編にも、この「男」が登場する。

今後の活動は、今月2007年9月25日から中国でも日本人作家によるグループ展に参加するとのこと。経済発展やエネルギー問題などで何かと注目を集め、オリンピックや万博なども計画されている中国で、ヤノベ氏がどのように制作を展開させていくのか、またそれが中国ではどう映るのか、今後も注目したい。

ヤノベケンジ展「トらやんの大冒険」
会 期:2007年9月7日〜10月8日
開館時間:11:00〜19:00
休館日:月曜日休館(祝日の場合は翌日)
会 場:札幌宮の森美術館
住 所:札幌市中央区宮の森2条11-2-1 
    宮の森ミュージアム・ガーデン内
TEL:011-612-3562
観覧料:一般 400円 高大生 300円 <団体100円割引>
企画協力: Akio Nagasawa Publishing
主 催:札幌宮の森美術館

トらやんの大冒険
絵本「トらやんの大冒険
作:ヤノベケンジ
発行:2007年8月1日
仕様:225 x 240 mm、64頁、上製本
価格:[通常版]1890円・[特装版]3990円
販売元:赤々舎

Text: Kyoko Tachibana
Photos: Kyoko Tachibana

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