ヘンリック・ヴィブスコブ

PEOPLEText: Peta Jenkin

世界が興味を示していて、ヴィブスコブはとても忙しい人である。ディレクターや “クリエイティブなニセ医者” としての、ぎっしり詰まったスケジュールから数分だけもらえないかと説得し、いくつかの質問をさせていただいた。

デンマークの田舎ではどのように育ちましたか?

兄と姉がいましたが、すごく年が離れていたので一人でいることが多く、そのうち一人の世界で一人遊びをするようになりました。時間をもて遊んでいましたね、特に両親と海にでかける時は。自分で楽しみを作らなければならなかったので、レゴで遊んだり、想像の世界で楽しんでいました。

クリエイティブ分野の名門セントラル・セント・マーティンズ・カレッジのアート・デザイン専攻だそうですが、学習経験としていかがでしたか?

セント・マーティンズに行く前に、随分長い間クラシック・ドレスメーカーのある老婦人の下で学んでいました。面白かったのですが、ティークラブみたいになっていましたね。紅茶にあきた時に、セントラル・セイント・マーティンズ・カレッジでもっと正式に学ぶことを決めました。当時26歳だったので、そこにいた多くの学生よりは年上だったわけです。なので少しばかり技術知識や人生経験がみんなよりもありました。学校自体は何も与えてくれません。自分の道に進むチャンスを与えてくれるだけなのです。それが僕には通用しました。そこには沢山の可能性がありますが、それは自分自身で切り開かなければなりません。

2006年のメンズウェア・コレクションでは、奇跡のドクター、フィリップス・ボンバトゥス・フォン・ホーエンハイムにインスパイアされ、そのコレクションの基礎となったそうですが、彼について少し教えてください。

彼は水銀を実験している教授でした。いくつかの実験に失敗し、水銀のせいで狂ってしまい、オーストリアに逃亡しなければならなくなりました。長くて白いひげの僕の隣人が、この奇跡のドクターにそっくりだったのですよ。しばらく彼を観察していて、この男は誰だろう?と思い、何か一緒にできたらと彼にアプローチしました。僕がプロジェクトの話をすると、彼は自分のベトナム戦争での体験について驚くべき話を聞かせてくれたのです。それからいつも彼の家のドアを叩く元気なおばあさんがいましたね。ほんとに面白かった。そうして結局、彼が実世界のインスピレーションとなったわけです。

実生活のキャラクターにインスパイアされるというのは、制作によくあることですか?

いいえ。このキャラクターを起用したのは、特定のこのプロジェクトにしたことです。でもそれに変わる要素はこれまでにもありましたね。まじない師、社会実験(隣人を起用して)、それからジャンピング・ジャックス。ジャンピング・ジャックスはインスタレーションの構成でした。生まれ故郷の町の小さなギャラリーで披露したのです。面白かったですよ、誰もプロジェクトについて理解できてなくて。みんな、何だこれは?という感じで… 可笑しな体験でした。

今一番印象のあるビジュアル・アーティストやデザイナーは誰ですか?

エルネスト・ネト。主にファブリックの作品を手掛けるブラジル人アーティストです。ファブリックから空想の景観をつくり出すのですが、全て本でつくられた彼の驚くべき彫像を覚えています。最近スウェーデンとチューリッヒで彼のソロ・展覧会がありました。彼の作品がとても好きです。

アーティストであり、ファッションデザイナー、ソロのドラマー、それに沢山の映像も手掛けていますが、何に一番クリエイティブな満足感が得られますか?

ファッション・ビジネスを運営するのは、もう定職という感じで、毎日オフィスに行きます。ファッションだろうがアートだろうがフィルムだろうが全て繋がっているので、つまらないものはないです。その中でも、音楽は長い間やってきたことですが、未だにとても面白いと感じます。過去数年はそこまでできていなかったのですが、最近ソロ・ドラムのルーティーンをデンマーク人アーティスト、タンデミラとやる機会があり、また始めました。彼は確立したエレクトロニック・ミュージックのプロデューサーで、ペット・ショップ・ボーイズのリミックスを手掛けています。僕のドラム・ソロは、この秋にリリースになる彼のトラックに収録されます。実はたった数日前にそれを知ったのですが、とっても嬉しくて。僕のパートはちょっと聞きにくいですが!

デンマークの文化庁を批判する小さな記事をサイトの中に見つけたのですが、その理由を教えていただけますか?

ベスト・ファッションネーム・オブ・ザ・イヤーを受賞したのですが、その賞はコペンハーゲンのチボリ・コンサート・ホールにてデンマーク文化庁から贈られました。みんなが拍手をする中、プレゼンターの彼は、クリエイティブ人に政府がこうしてサポートできることなどについて、これがどんなに素晴らしいことかを演説していました。でも、僕のレーベルが成功した理由の一つには、新しい政府団体の一部として廃止されたロイヤル・デニッシュ・アート財団からの助成金があげられるのです。彼はそこに平然と立っていて、僕は受賞者としてのスピーチで、ありがとうございますと言いました。でも、僕がこのプロジェクトをスタートできたのは、実際には彼らが廃止にしたプログラムからの助成金のおかげなのです。それはなんだか偽善的です。主催者たちは「ありがとう、ありがとう」と、僕のスピーチを妨げ、ほぼステージから押し出された恰好になりました。僕はイラク戦争についての話をしようとしていたのです。政府が打ち出した決定に僕はどれだけ賛成しなかったか、と。つまり、明らかに僕はこのイベントにとって都合のよくない方向へ行こうとしていたということです!

次のレディース&メンズウェア・コレクションの準備を始めていると思いますが、どんなものになるか少しヒントをいただけますか?

濡れ輝く女たち!というのは、ただ今のところ僕たちがやってきている全てがまだ遊びの段階であるからなのですが。今のところそれしか言えません!

今月のSHIFTカバーについてはどうですか?

このSHIFTカバーは、この7月にパリで開催のメンズファッションウィークに向けて僕が手がける、インスタレーション、ショーの小さなスケールモデルです。それにSHIFTスパイスを加えました!

あなたのクリエーションの全てがパーティに出るとしたら、どこで何を飲むでしょうか?

屋外のプールに座りウォッカのカクテルを飲んでいる大人たちがいて、小さな子供は子供用のプールで水を掛け合ってはしゃぎ、ジュースを飲んでいることでしょう!

Text: Peta Jenkin
Translation: Yurie Hatano
Photos: Courtesy of Agentur V and Henrik Vibskov

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