今村育子展「わたしのおうち」

HAPPENINGText: Shinichi Ishikawa

作品がギャラリーの中の「家」。そんな非日常性が、受け手の幼少の記憶を通して日常的に感じさせていった今村育子の個展「わたしのおうち」を紹介しよう。

CAI現代芸術研究所は、札幌の代表的な現代美術を中心とするアート施設。展覧会やスクールを行っている。中心部から離れた静かな住宅街の中に位置している。今回、紹介する札幌在住のアーティスト、今村育子の展覧会はギャラリースペース内をフルに使い、その中に「自分のおうち」を実際に建築したユニークなもの。建物内に入れ子のように建物があるように感じられる大規模なものだ。

階段を下がって、外の光を遮断するカーテンをくぐる。中に入ってみると、上下左右の感覚が狂うぐらい真っ暗。少し動揺する。自分の体が、巨大な空間に放り投げられたようだ。僕の目は、なかなか暗闇に慣れることはなくて、いつまでも何も見えない。

突き当たりの壁に手をつきながら、次の部屋へのドアがあると聞いた右側にゆっくり移動する。ドアにあるわずかな隙間から漏れる光によって、ドアの存在がわかった。ノブをみつけて中に入る。

次の部屋は明るく、細長い廊下のよう。壁面を見ながら、突き当たりにドアがある。そこ開けると、最後の部屋になり自然光の光が差し込む空間。壁面には平面作品10点以上が展示しており、普通の展示スペースという感じとなっていて、ここで終る。

今村育子は、現代美術作家。もともと彼女は、高校時代から美術より音楽が好きで、レコード・ジャケットのデザインしたくてグラフィック・デザイナーを目指す。卒業後、「CAI」のアートスクールに入学。講義やドイツ等の研修を通して、いろいろな作家に興味を持ち、現代美術の表現に興味を向ける。何度かのグループ展を経て、今回初めての個展を開催した。

今村は、自分の表現とは、自分の頭の中のイメージを実体化したものだという。ただ、表現を通してなにかメッセージを送る、という感覚は希薄で、観た人の共感を得られて「少しつながった」感じになれれば嬉しい、と語ってくれた。

「私の部屋」は、子供のころ、一人部屋で寝かされた時、布団の横になり眠りにつくまで、他の部屋ではまだ両親がまだ起きていて、光や音の気配が感じれるイメージを作品にしたそうだ。最初の部屋、暗闇が自分が寝ている部屋であり、ドアを空けて明るい廊下のような空間には、自宅の壁紙をはがして貼り付けており、そこには過去があり、現在があるという。

「私の部屋」は、誰もが子供のころが持っていて、共有できる「感覚」を作品にしたものだ。それを実際のスケールで作品化したことが最大の魅力ではないかと、僕は思った。

今村育子個展「my house わたしのおうち」
会期:2006年4月22日〜5月27日
会場:CAI現代芸術研究所
住所:札幌市中央区北1条西28丁目2−5
https://www.cai-japan.com

Text: Shinichi Ishikawa
Photos: Shinichi Ishikawa

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