ヨーゼフ・ボイス展
ベルリンで現代美術を鑑賞すると言えば、まずは「ハンブルガー・バーンホフ・ミュージアム」である。サイ・トゥオンブリー、ウォーホール、ラウシェンバーグからキーファーにいたる豊富な欧米の20世紀美術コレクションに加え、今なら戦後最大級の現代美術コレクションであるフリードリッヒ・フリック・コレクションからの企画展をあわせて鑑賞することが出来る。
この中でも特筆すべきはヨーゼフ・ボイスの常設展示である。脂肪彫刻、フェルト彫刻、といった一連の大作、代表作が展示されており、来場者は常に彼の作品を見ることが出来る。
蛇足かもしれないが、彼について補足しておくと、現代美術史の文脈から見ると、政治の概念を芸術に取り込んだことが白眉であるが、様々なアクションを行った事により、当時の西ドイツに於いてはアートシーンのみならず社会的な影響力を持ったスター的存在であった。例えばエコロジーという概念が広まったきっかけは彼のアクションにあると行っても過言でないし、その関係上後に“緑の党”から彼は国政選挙に出馬した(生憎当選にはいたらなかったが)。また、その思想イメージを具体化した作品そのものは、神話的/呪術的なモチーフと統一されたビジュアル・イメージがあり、一目で彼の作品と分かるスタイルを持っていた。
1986年に没した彼の死後20年を記念した企画展が始まった。同美術館では「fast nichts」(フリック・コレクションからセレクトしたミニマル・アート展)が9月から引き続き続いている事もあり、展示規模はいつもの常設展示に加えてその手前の二部屋を使用した小規模なものであった。
しかし、特筆すべき点は幾つか存在する。
まず、各地で行われた際に印刷された大量のポスターを一度に見る事ができた。こうしてこれらのポスター群を見ると、前述したように自身のビジュアル的なアプローチへのこだわりが手に取るように分かる。すべてが洗練されており、古くささを感じさせない、かつ的確なメッセージだった。
そして、代表的な映像ドキュメントが上映されている事。もはや伝説となっている1974年のニューヨークのギャラリーで行われたパフォーマンス「私はアメリカが好き、アメリカは私が好き」をはじめ、他数本が常に壁に投影され視聴が可能となっていた。
さらにもうひとつ、同美術館と遺族の協力の下設立されていたヨーゼフ・ボイス・メディアアーカイヴから、これらの映像群や音声資料がCD、DVDコレクションとして今までの5タイトルに加えて、さらに5タイトルが予定されている。これらの中で未出版の映像も逐次上映されている。
参考までにヨーゼフ・ボイス・メディアアーカイヴから出版(予定)のタイトルと注釈を以下に掲載しておく。(注釈の無い項目は既に出版済み)
1. コヨーテ III (1984) 本+DVD
ナムジュン・パイクとボイスが東京草月会館で行ったコンサート。
新版を2006年秋予定。
2. ヤーヤーヤーヤーヤー、ネーネーネーネーネー (1968) CD
デュッセルドルフ国立アカデミーで上演された実験音楽パフォーマンス。
3. 挑発 社会の布 芸術と反芸術 (1970) 本+DVD
討論シリーズ「意見に対する意見」にて収録された彼の芸術見解を説いたパフォーマンス。
4. トランスシベリッシェ・バーン (1970) 本+DVD
ユーラシアをまたぐ存在を象徴するシベリアについて、屋外での対話を収録した作品。
5. ユーラシアの杖 (1970) 本+DVD
1968年アントワープで行われたアクション「ユーラシアの杖」を収録。
6. アトランティス (1964,1965) 本+DVD
60年代のフルクサスの活動中に現れる、アトランティスという概念を中心に収録。
2006年夏予定。
7. 如何にして人は死んだウサギに絵画を説明するか (1965) 本+DVD
1965年デュッセルドルフで上演された同タイトルのパフォーマンスを収録。
2007年新春予定。
8. ハンドアクション、ドラマ・ティッシュ (1968) 本+DVD
1968年に行われたボイスの「ハンドアクション」と平行して行われた彼の弟子アナトール・ヘルツ フェルドのパフォーマンス「ドラマ・ティッシュ」を収録。
2007年秋予定。
9. ボイス・イン・アメリカ (1974) 本+DVD
1974年のアメリカ滞在時のインタビュー、講演を収録。
2008年秋予定。
10. ケルト族 + ~ ~ ~ ~ (1971) 本+DVD
幾度となく上演されたアクション「ケルト族」のバーゼルでの公演を収録。
2009年秋予定
Joseph Beuys Lebenslauf = Werklauf
Hommage an Joseph Beuys Anlaesslich des 20. Todestages
会期:2006年1月21日〜4月23日
会場:ハンブルガー・バーンホフ・ミュージアム
住所:Invalidenstrasse 50- 51, 10557 Berlin
http://www.hamburgerbahnhof.de
Text and Photos: Yoshito Maeoka