マルコス・ウェスカンプ

PEOPLEText: Ayako Yamatomo

様々な情報が溢れ、飛び交う現代。その形を持たない情報を、アカデミックで興味深いコンセプトと技術でビジュアル化したプロジェクトを代表作に持つマルコス・ウェスカンプにお話を伺った。

まずはじめに、自己紹介をお願いします。

1977年、アルゼンチンのロサリオに生まれました。大学では、建築、ファインアート、グラフィックデザインを学びました。建築のクラスでは、日本の現代建築についての授業をきっかけに日本に興味を持ち、図書館でよく日本の伝統技術を研究していました。日本文化のシンプルさ、清楚さ、そしてまた控えめなところがとても好きでした。

1998年、日本の文部省から奨学金を受け、日本にやってきました。1年間語学学校に通い、その後グラフィックデザインの学校へ入学しました。アナログのツールを使ったスケッチやペインティングを主にしながら、実はコンピューターフリークでもあります。10歳の時に、シーモア・パパートの、幾何学とコンピュータープログラミングを学ぶには素晴らしいツール、レゴをきっかけにコンピューターと出会い、それ以来コンピューターは私の良き仲間です。

同年、インターネットの商用利用が日本でちょうど始まったころでした。PCを手に入れ、プロバイダーと契約するのに、アルバイトで貯めたお金を全て使いました。通っていたデザイン学校を卒業した時には、すでにフリーランスでウェブの仕事をいくつか経験していましたが、ただそれはその日の食事代を稼ぐためのようなものでした。そのような中で、素晴らしい人達と一緒に仕事をして刺激を受けることができ、とても幸運だったと思います。

現在の活動内容を教えてください。

昨年の9月にイタリアに引っ越し、インタラクションデザインでマスターコースに在籍しています。これは2年間の集中コースで、僕は様々なバックグラウンドを持つ学生や研究者と一緒に過ごしています。プロトタイピングの他、コンセプチュアルな作品を強調しています。今は、実在の空間と同じ様にバーチャルの空間に参加する人たちの間で可能なコミュニケーションに、興味があります。

ウェブサイトでの仕事の多くは個人的な実験作品のようですが、クライアントのいる作品としてはどのようなものがありますか?また、個人的な作品とは、どのように線引きをしていますか?

そうですね。主なものは実験作品です。幸い、今、僕はあまりクライアントのいる作品を制作していないので、多くの時間を自分の作品研究に費やすことができます。今も、そしてこれからも、クライアントから仕事を引き受けるのは、プロジェクトが本当に面白そうだと思う場合ですね。だいたいはコンセプトとコンサルタントの段階で決めます。

ソーシャル・サークル」や「ニュースマップ」のサイトに見られるように、「情報のビジュアライゼーション」にこだわっていますよね。どういった点に面白さを感じていますか?

「情報のビジュアライゼーション」というよりは、「情報の中にあるパターンのビジュアライゼーション」と言ったほうが良いかもしれません。街中、電車、テレビ、ラジオなど、私たちの身の周りには様々な情報が飛び交っています。インターネットは素晴らしいコミュニケーションツールですが、情報が溢れ過ぎてしまっているという側面もあります。今日、インターネットは新しい試みを見せつつあると思います。

情報が広く、規制にとらわれず提供される環境により、新しいビジュアルのパラダイムが、膨大なデータを集め、整理し、分析することが求められてきます。新しいユーザーインターフェースは、その増え続ける情報を処理するために開発されています。つまり情報のビジュアライゼーションとは、グラフィックデザイン、科学的ビジュアライゼーション、人間とコンピューターの相互作用の結果なのです。

しかし僕はそこから一歩踏み込んで、情報自体が表現できるものにすることに興味があります。ベン・フライは、「情報の代謝」という表現を使い、こう述べています。『ビジュアライゼーションは、データを消費する。もしそのデータが“栄養のある”ものであれば、そのビジュアライゼーションは“肉付きの良い”ものになる』今日、ネットワークをメディアとして利用することにより、僕たちは核となるエンジンを作ることができます。そこに事前に育てていたもの、あるいは、リアルタイムのデータを付加する。そのデータの質と量によって毎回全く異なる結果を見せながら、ビジュアライゼーションとして様々な形で表現されていくのです。

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