異人問津館

PEOPLEText: Noriko Tojo, Shinobu Koike

さて、肝心のこのアルバムについて紹介しよう。まずCDは、ダンスミュージック、ハードコア・テクノ、トリップ・ホップ、軍歌(?!)…… など、異なるスタイルの曲が続きちょっと戸惑うのだが、聴き進んで行くと、このアルバムが「渾沌と再生」をテーマにしていることがわかる。それは広い意味で言えば、20世紀末から21世紀へという今の時代そのものだし、もっと身近な例でいえば、バブルがはじけてオロオロ状態の現在の香港の姿でもある。「大[人+老][人+尓]想点?(まったく、どうしろっていうんだ?)」などはそのものズバリだし、続く『作鬼作邪』には「打小人(呪いババア)」が登場、いよいよ神だのみかよ…と、広東語の歌詞がわかる人ならノックアウトされる、ハードな1曲もある。

ビジュアルの方は、さらにカオス感が強調され、彼らの独特のユーモアに溢れている。特にCD-ROMの中に出現する自動打小人機。打小人というのは、特定の日にガード下などに現れる祈祷師のおばあさん達のことで、呪い料(日本円で1000円くらい)を払うと、呪いの対象となる人物の名前を書いた紙を靴で叩き、依頼人のために呪ってくれるのである。

こんな原始的な呪術儀式が今も残っているだけで十分驚きなのに、私がさらに仰天したのは、ある時たまたまこの日、銅鑼湾・鵝頸橋のガード下を通りかかったら、会社帰りのOLたちが押すな押すなの行列を作っていて、通り抜けできないほど賑わっていたのである。呪いがそんなに日常化していていいのかしらん、くわばらくわばら…。異人問津館の描く世界では、呪いはさらにコンビニエンスになり、コイン一つで呪ってくれるのだ。

以前、彼らに、興味のあるアーティストを尋ねたことがある。すると、三島由紀夫、寺山修司、梅図かずお、丸尾末広らの名を挙げた。彼らの作品に描かれるグロテスクでエロティックな世界は、香港人(中国人)の常識ではタブー。だからこそ、あえてドロドロした人間の内面を表現したい、と意欲を見せる。とはいっても、そこは現代っ子の彼ら。エログロと今どきのドライな感性がどうミックスするか、異人問津館の見どころの1つが、そのあたりにありそうだ。

最後に。異人問津館の音楽のプロダクション・チームは、カナダのトロントに拠点を置いている。ジェームスのメインスタジオがカナダにあるためで、この「EVERYBODY…」の音楽のほとんどもカナダで製作された。

参加ミュージシャンもカナダ在住者が中心である。香港からの移民が多く住むカナダは、香港人の感覚では「隣街」なのだそうで、「大[人+老][人+尓]想点?」も、ジェームスと家慶が国際電話で相談しながら、音楽と映像を完成させたのだそうだ。引き続き、多民族国家であるカナダの特徴を生かして、華僑以外のアーティストとのコラボレーションを計画中ということで、東と西のミックスから何が生まれるかも楽しみだ。

香港の常識からいうと「型破り」という言葉がピッタリな異人問津館。繰り返すが、今、香港は社会全体に元気がなく、音楽シーンも、アイドル不振を乗り越える次なる活路を見い出せないでいる。異人問津館が起爆剤となって、若い才能が登場し、音楽シーン、いや、アートシーン全体に新しい風が起こったらどんなに楽しいだろう。期待を込めて、異人問津館のこれからを見つめて行きたい。

Text: Noriko Tojo, Shinobu Koike

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