自然と魂 利根山光人の旅 — 異文化にみた畏敬と創造
HAPPENINGText: Alma Reyes
来場者は、1950年代の読売アンデパンダン展で展示されたことでも有名な〈佐久間ダム〉シリーズの油彩、版画を含む利根山の初期作品に出会う。利根山は、1954年に公開されたダム建設のドキュメンタリー映画に触発され、戦後の日本の復興を捉えたいという強い衝動に駆られた。彼は静岡県の建設現場を訪れ、労働者たちと共に生活することを決意した。過酷な状況下で命を落とした者もいた。彼の感情的な回想から生まれたのは、当時の建設現場における厳しい労働環境を浮き彫りにする挑発的で抽象的なイメージであった。
利根山光人《堰堤(A)》(佐久間ダムシリーズ)1955年、リトグラフ、世田谷美術館蔵
1955年に東京国立博物館で開催された「メキシコ美術展」は、利根山のメキシコへの純粋な情熱のきっかけとなった。オルメカ文化の静謐な美しさは、古代文明メソアメリカの核心に迫りたいという彼の飽くなき欲望を高めた。彼は頻繁にメキシコを旅し、同じくメキシコの民族芸術と伝統の豊かな物語性に魅了された岡本太郎、北川民次、深沢幸雄といった芸術家たちと交流を深めた。こうした表現者たちと同様に、利根山はメキシコの壁画家ディエゴ・リベラ、ダビッド・アルファロ=シケイロス、ホセ・クレメンテ・オロスコ、ルイス・ニシザワを深く敬愛した。
利根山光人《王者の墓室》(王塚古墳、福岡県嘉穂郡桂川町)1973年、鉛筆・コンテ・パステル・紙、一般社団法人アルテトネヤマ蔵
利根山はメキシコ以外では、アメリカ、ヨーロッパ、アジア、中東を広く旅した。スペインのアルタミラ洞窟壁画や、インドのコナーク寺院、カジュラーホ寺院、アジャンタ石窟群の時代を超えたレリーフを調査した。日本では九州の古墳群を歩き、東北地方の鹿踊りや鬼剣舞をモチーフとした作品を発表。熊本県山鹿市のチブサン古墳を基にした作品《円文と人物》(1973年)、福岡県桂川町の王塚古墳に由来する《王者の墓室》(1973年)は、幾何学的形状とイマジネーションで原始文明を描き出している。
利根山光人《フィエスタ》1977年、油彩・キャンバス、一般社団法人アルテトネヤマ蔵
「祭り」は、共同体の習俗や儀礼の根幹を成すものであり、利根山を大いに刺激した。彼が最も興味を抱いたのは、メキシコのキリスト教聖週間の祭事であった。そこでは、色鮮やかに彩られた身体や仮面、骸骨、紙粘土の牛、悪魔の像が飾られていた。彼はそれらを、光の闇から現れる姿として視覚化した。《律動》(1976年)、《フィエスタ》(1977年)、《祝祭》(1978年)といった明るく陽気な構図は、音と動きを生き生きと表現し、心を躍らせた利根山の感動が絵筆から伝わってくる。
最後に、利根山が深く研究したドン・キホーテの多様な描写に一節が割かれている。彼は最晩年に、現代の不安や矛盾が克服される夢の世界を彷徨う〈ドン・キホーテ〉シリーズを構想した。この認識は、想像力の複数の領域を自由に航海してきた彼自身の芸術の方向性と一致している。
自然と魂 利根山光人の旅 — 異文化にみた畏敬と創造
会期:2025年9月13日(土)~11月9日(日)
開館時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
休館日:月曜日、及び 10月14日(火)、11月4日(火)※10月13日(月・祝)、11月3日(月・祝)は開館
会場:世田谷美術館
住所:東京都世田谷区砧公園1-2
TEL:03-3415-6011
https://www.setagayaartmuseum.or.jp
Text: Alma Reyes
Translation: Saya Regalado
Photos: Courtesy of Setagaya Art Museum
