展示室のさらに奥に、母豚が天井から吊るされ、腹部が半分開いて内臓が見えている、少々不穏なインスタレーションがある。また、サエボーグの代表的な映像作品《Slauterhous（スローターハウス）》（2019年）では、農場の家畜たちの日常の姿を描いている。彼らは食物連鎖のために搾取されるような、彼らを取り巻く過酷な状況を生き抜いているが、消費者でもある飼育し世話をする人間には愛情を示している。パフォーマンスでは、人工授精、牛の搾乳、羊の毛刈り、豚の屠殺が実演され、来場者はかなりの衝撃を受けるかもしれないが、同時に、特に畜産における今日の現実を問う繊細な瞬間でもある。

サエボーグ Enchanted Animals 展示風景、2024年、黒部市美術館　Photo: Alma Reyes

女子美術大学を卒業したサエボーグは、弱く脆いものに惹かれ、家畜のスーツを作ることを始め、その制作過程で動物福祉にも興味を持ち始めた。人間と家畜の残酷な行為を観察し、自然環境における家畜へのケアと思いやりの必要性を痛感したサエボーグは、変化、変更、身体の拡張の可能性を持つラテックス素材を使って、半分人間・半分玩具の「不完全なサイボーグ」として自分自身をデザインし直した。その結果、サエボーグは自分自身を解放し、心理的障壁を解放することとなる。

『生物学的には私は女性ですが、ステレオタイプの女性像を押し付けられることにはいつも抵抗がありました。これが本当の私ではないことを知りながら演じることに嫌気がさしたのだと思います。女性像のセクシュアル化から距離を置くためには…人間ではない姿になる必要があった。おそらく私の作品は、新しいジェンダーと自由なセクシュアリティを創造するために存在しているのでしょう。』— サエボーグ

黒部市美術館開館30周年
サエボーグ Enchanted Animals
会期：2024年11月16日（土）〜2025年1月13日（月・祝）
開館時間：9:30〜16:30
休館日：月曜日（但し1月13日は開館）
会場：黒部市美術館
住所：富山県黒部市堀切1035（黒部市総合公園内）
TEL：0765-52-5011
https://kurobe-city-art-museum.jp