アムステルダム・ダンス・イベント 2016
HAPPENINGText: Kumi Nagano
視覚と聴覚の融合をテーマにした、より若い世代のアーティストの作品も見られた。
オランダの実験音楽シーンを牽引してきた組織「STEIM」のスタジオでは、「光と音」というテーマに取り組むオランダの女性アーティスト、マリスカ・デ・フロートによるインスタレーション「CineChine」が展示されていた。
「CineChine」Mariska de Groot Photo: So Oish
暗い部屋の中に、映写機のような回転する装置が複数設置され、そこに光線が当たることで影が壁一面に映し出されていた。光線の変化に応じて、複数のスピーカーから出る音も変化する。影の変化が美しく、視覚と聴覚の両方でリズムを感じさせる作品となっていた。
Polaris: official opening ceremony ADE 2016 Photo: Olivier van Breugel
ADEはクラブミュージックのフェスティバルだが、一方でサウンドアートに力を入れることにより、音を使った表現の可能性がエンターテイメントの枠にとどまらないことを表明していた。 大きい会場で開催されるパーティやコンサートだと、アーティストはどうしても大勢の観客を楽しませる必要があるため、自分の作品をエンターテイメントとしてパッケージしないといけない。 しかし、インスタレーションの作品では、観客に足を止めさせ、自分のペースで鑑賞してもらうため、瞬間的な楽しさより、じっくり感じてもらう、考えてもらうことに比重が置かれる。このため、音楽家にとってはコンサートという形では実現が難しい実験的な表現や、コンセプトを掘り下げた作品づくりが可能になる。また、お客さんにとっては「音」というものの捉え方を広げる機会になっていた。
音楽家とビジュアルアートの作家がコラボレートした作品も目立ったが、異なるジャンルのアーティストが共同で作品をつくることで、たとえよく知られているミュージシャンであっても、別の側面が引き出されていたのも興味深かった。ヨーロッパの音楽シーンでは、ADEのようなイベントにおいてサウンドアートを積極的に取り上げることで、クリエイターにとっても、観客にとっても、「音」というものにより多角的に向き合う体験を可能にしていると言えるだろう。
Amsterdam Dance Event (ADE) 2016
会期:2016年10月19日(水)〜23日(日)
会場:アムステルダム市内各所
https://www.amsterdam-dance-event.nl
Text: Kumi Nagano
Photos: So Oishi, Olivier van Breugel