リオ・ネグロ
PEOPLEText: David Gray
最近、ボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞したこともあって、あなたのこのプロジェクトはとてもタイムリーですね。
ハハ。私がボブ・ディランでないことは明らかですけどね。でもタイミングは本当に予期せぬ幸運でした。ディランは詞の中に多くの社会的な、また哲学的な問題を取り上げているし、それらは本当に詩のパワーを感じさせます。音楽は真に詩を魅力的にするし、またその反対も然り。とても人間的です。私たちの心の中の動きや人間性についての観察眼を与えてくれます。それはまるで仮面と、演じる役柄のように、最高の状態で人々を持ち上げてくれます。私たちを照らし出してくれる、人生における灯台みたいに。リオ・ネグロのトラックの中に人々をインスパイアするものがあると良いな、と思います。
このプロジェクトで一番のチャレンジは何でしたか?
多分、このプロジェクトで一番難しかったのは、詩と音楽を良い形で合わせることでした。何か有機的に成長させ、進化させていくものでした。少し、映画音楽を作るような感覚です。詩はビデオや映画のように即時性があり、音楽はその詩の背景を包含する。そしてその反対も。その化学が必要なのです。これでよし、と分かるまで私は作曲や作詞のアレンジやチューニングをやめませんでした。詩を音楽的に表現する最良のアプローチをコンスタントに続けたのです。
これは他の誰のためでもなく、私自身のために行いました。私的な旅とも言えるでしょう。EMSでのレコーディングも大きな刺激となりました。彼らは驚くべきライブラリーを持っていて、レコーディングの合間に休憩を取るときは、お茶を入れて、そこへ行って面白いものを読むのです。私のムードに少なからず影響していたでしょうね。事前に詩を書いていたとしても、予期せぬ出来事に私が部屋を去る時には音楽は影響を受けます。それが私たち皆が話したいマジックなのだと思います。ですから、はい、EMSはとても特別な場所で、私は何ヶ月間かをそこに引きこもって過ごしました。でも興味深いことに、レコーディングの作業が終わってしまうと、プロセスは反対になりました。全く外側からの視点で次のレベル、フェーズ1へ持っていく。シェアすることが全てになりました。そしてそれは続きます。
Cover photograph: Lux, 2009. Courtesy of Wolfgang Tillmans
最後に、EPのカバーは有名なドイツ人写真家でアーティストのウォルギャング・ティルマンによる雲の写真が使われていますよね?これには何か思いがあるのですか?
ウォルフギャングがこの写真をリオ・ネグロに寄付してくれるなんて、私は最高に運が良く、ラッキーだったのです。彼には別の機会に会っていました。私のプランを説明した時、彼はこの写真を喜んで寄付してくれたのです。私は友人、ジェイコブ・フーリライネンにEPのカバー編集をお願いしました。彼の繊細さとヴィジュアル・コミュニケーションの目は素晴らしいから。最初のミックスを何曲か聞いた後、彼は抽象的な夢のような感覚で行こう、と提案しました。それはすぐに私の心にあった煙のイメージを呼び起こしました。うわー、これいいね。いや、本当に。と。私は煙の形に魅了されたのです。その密度、霧のような、空気の振動に。ですので、このウォルギャングの雲の群れの写真のイメージはすぐに私の心にひらめきました。そしてウォルフギャングが私に、その写真のタイトルは「Lux」、ラテン語の「light」であると教えてくれた時、私は、わお、なんてぴったりなのだ、と思いました。雲の下には暗闇が広がり、やがて光の中へ入っていく。それは私にとって、神性や永遠の感覚で、私の詩や音楽と同じスピリットだったのです。
では、次は何を考えていますか?
実はまだわかりません。どうなるか、流れに任せてみようと思っています。幾つかのアイディアと作成中の新しい詩と楽曲はありますが、それは後で展開させて、今は「An Abrupt Solidity To The Light」のパフォーマンスを行う準備をしたいと思っています。ライブツアーか、もしくはインスタレーションの形になるかもしれません。私たちが体験する今日の音楽は、主に新たらしいテクノロジーのおかげで変化しているという真実。例えば、私は最近、ロンドンにある、カフェ・バー・スタイルの「リスニング・クラブ」がオーディオファンを夢中にさせているという記事を読みました。パーティー好きな人はいますが、それとは別に、このようにハイファイの音楽環境に目がない人も確かにいるのです。私のショウはこの方向に持っていけたらと考えています。それが現時点で考えていることかな…。
Text: David Gray
Translation: Fuyumi Saito