ヒルマ・アフ・クリント展「抽象絵画の先駆者」
彼女の直接的な表現が私たちを驚かす一方、その作品や展覧会は別の驚きを与えている。それは抽象絵画にヒルマ・アフ・クリントという別の源があったことだ。従来源流として見なされているのは、ワシリー・カンディンスキー、カジミール・マレーヴィチ、ピエト・モンドリアンなどの画家たち。
Hilma af Klint, The SUW series, 1914-15 © Stiftelsen Hilma af Klints Verk, Photo: David von Becker
1910年頃から始まる彼らを起点とした抽象絵画の歴史だが、1906年から抽象画を始めた彼女を先駆者として見なすのであれば、再考を求められることになる。今回現代美術を見せる場所で開催された意味はそこにあるのだ。歴史とは過去と現在を繋ぐものであり、過去は現在を生み出す役割を果たす。過去の作品であっても歴史の見直しによって現在に影響を与えることができる。つまり、現在を反映するのは今現在の作品だけではないのだ。
Portrait of Hilma af Klint, c. 1902 © Stiftelsen Hilma af Klints Verk
この時代を越えて今に影響を及ぼす表現とは、抽象絵画の問い直しを求める私たちの願望なのだろうか。いや、そうではないだろう。ヒルマ・アフ・クリントが抽象絵画について意識していたかは判らないにせよ、自らの表現を未来へと託していたことは間違いないはずだ。それゆえ、死後20年を機に作品を公開することを決めていた。彼女は気付いていたに違いない。人々が将来その精神的で直接的な表現を必要とすることを。そして作品が必要とされた時に、作品は最も効果的に表現を伝えることができることを。それはまさに未来を変えるために時代を越えて投げられた表現であるのだ。彼女の作品は時代を経てもなお、それどころか、より一層私たちの心を掴んで離さない。過去のアーティストであるヒルマ・アフ・クリントの作品は、現代に生きる私たちの胸に響き、大きな驚きをもたらすのだ。
ヒルマ・アフ・クリント展「抽象絵画の先駆者」
会期:2013年6月15日(土)~10月6日(日)
時間:10:00~18:00(木曜日20:00まで、土・日曜日11:00から、月曜日休館)
会場:ハンブルガー・バーンホフ現代美術館
住所:Invalidenstr. 50–51, D–10557 Berlin
TEL:+49 (0)30 266 424242
https://www.hilmaafklintinberlin.de
Text: Kiyohide Hayashi
Photos: David von Becker, Albin Dahlström Courtesy of Moderna Museet © Stiftelsen Hilma af Klints Verk