ヨシ・ホリカワ

PEOPLEText: Hiromi Nomoto

とても科学的に考えて制作しているのですね。

「ものづくり」には絶対技術が伴っていると考えています。そもそも「アート」という言葉には、技術という意味も本来備わっていると聞いたことがあります。技術が伴ってこその「ものづくり」です。音楽だったら、なぜこの音がこんなにカッコいいのか、何ヘルツの周波数が体に心地良いのだろうなど、技術的な側面からつくるのが好きです。

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録音の際に足がほんの少し動いただけでも影響してしまう。同行者たちはみな静かに録音を見守っていた。 Photo: Tiger Translate

どんなことに注意して録音しますか?

あ!これは録っておきたい!というのがあります。録りたいと思ったときにすぐ録れるようにマイクのセッティングを考えました。それに風よけをしています。風にふかれてしまったら、ボソボソボソという音がして使い物になりません。致命的です。

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ヨシと映像アーティストのトム・グールドはヨシの映像を撮影した。Photo: Tiger Translate

制作過程を見せてもらいました。録音した音をパソコンに取り込んで、それから曲をつくっていました。驚いたのは、音をそのまま使うのではないところです。

やはり自分の耳で聞いたのと、録ったのとでは違います。例えば人間の耳には響いているように聞こえていても、録音したものは響きが思った以上に録れてないというのはよくあります。そういう場合に自分のイメージに近づけるような手の加え方をします。けっこう加工してたでしょ。(実際に、森でとった鳥の声は現地で聞いたものと、録音とで違う印象だった。それにエコーをつけたことで、森の空気感が再現された。加工することで、よりリアルになった。)ああいうことはよくやります。やりすぎると原型を留めません。できるかぎり生々しさを残した上で、でも最終的に曲として面白くなかったら、何の意味もない。そこを自分のさじ加減一つというか、最も難しいところです。

今は全てパソコン上で操作できる。それだけでは面白くありません。だから、録音して制作するということをしていてよかったと思います。

作品制作の過程でどのようなことを考えているのですか?

曲「Skipping」(縄跳びの音でできている曲。ヨシ自身の兄弟たちの幼い頃の声も入っている )は、最初つくっていて、ダサイなぁ、これは無理だなぁ、と思いました。いつも必ずそういう瞬間があって、でもなんとか使えるようにしようとします。違う音を一つ足したら急に面白く聞こえるようになったり、ちょっとしたことで変わります。途中で投げ出したら全部パーです。諦めずにやってよかったということがよくあります。やっていくうちに、これはいけそうと分かるようになってきました。

ニュージーランドの制作では、あなたは録音に1日、音楽制作に1日、コラボレーションに1日というような、時間的に厳しい状況でしたね。録音の翌日の1日で音楽の大きな形をつくりあげてしまいました。

こういう音は失敗しないとか、そういう慣れが重要で、それを未だに探っいては、あそこまでできません。これは失敗しないとかいうのをライブラリー化していて、その引き出しにあるものだけ使います。限られた時間の中でできるだけのことをする。マイナスの意味だけではありません。ただ、自分で曲を一からつくるときは、自分の引き出しに無いものをやろうという意識があるので、時間がかかります。

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葛西由香
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