リン・イ

PEOPLEText: Emma Chi, Gene Gao

あなたは「この舞台で表現したかったテーマは何ですか?」といった質問がお好きではないと伺いました。それなぜですか?

演出家の中には、舞台に自分の個性を盛り込んで自己を主張するのを好む人もいます。ですが私は自分が誰かということに対してでなく、脚本に対して誠実な表現者でありたいのです。私はその脚本の中に既に表現されていることを自分の視点から見るのであって、そこにある主題を変える必要はないと考えています。私は自分の視点を観客に押し付けたくありません。観客は同時に演者であり劇の一部であるからです。観客一人一人が演劇体験を通じてそれぞれの考えを持つべきです。私は観客にただ褒めてもらおうとは思いません。ストーリーの中に入り込んで、自分自身のこととして体験して欲しいのです。

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探偵〈スルース〉,2010

「ホロー荘の殺人」について、どうしてこの作品を作ろうと思ったのですか?

この作品は、アガサ・クリスティー生誕120周年記念シリーズのひとつです。この作品の他に『招かれざる客』と『そして誰もいなくなった』なども上演します。

「ホロー荘の殺人」は単なる推理劇やサスペンス劇ではなく、倫理に関する劇に仕上がっていますが、それはなぜですか?作品のスタイルを変えようとしているのですか?

私たちは今回「ホロー荘の殺人」で新しい何かに挑戦しようと考えました。推理劇であることには変わりありませんが、今回はより人間関係に焦点を当てたかったのです。これは愛の物語であり、一人の女性の本質の物語です。私たちの社会では愛はあまり高尚なものと考えられていませんが、一方で喜劇では愛が頻繁にテーマとして扱われます。愛はとても高尚なものなのです。今回も推理の要素はもちろんあってそれが物語の鍵ではありますが、全体的にこの作品は愛と、記憶と、理想の人生についての物語です。

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探偵〈スルース〉,2010

これまで多くの推理作品を作ってこられましたが、何か創作の秘密のようなものがあれば教えてください。

沢山ありますが、教えることはできません。マジシャンのように、みんなが何を望んでいるのか、どうしたら楽しませられるか、全ては観客に見せる前によく考えているのです。いったん劇場に入ったら、観客は演出家に導かれながらも自らの意志で先導的に舞台のあらゆる部分を旅していきます。いつも感じていることですが、ビジネスと芸術を区別することも、作り手が観客の評価を気にすることも無意味です。実際は、観客一人一人も舞台の参加者であるからです。

Text: Emma Chi, Gene Gao
Translation: Shiori Saito

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