越後妻有アートトリエンナーレ 2009

HAPPENINGText: Sachiko Sekiguchi

4日目の天気は生憎の曇り。出発の前に三省ハウスの庭に出てみると、目の前には素晴らしい里山の風景が広がり、庭の畑は作物は瑞々しく熟していた。気持ちのよい空気を胸いっぱいに吸い込み、最終日の朝、気合いを入れる。

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まず、目指したのは造形実験カロスの「田野倉環境感知器09 三九郎道」。地元に伝わる三九郎狐をモチーフにした吹き流しが空き地一面に広がる作品だ。入り組んだ集落の中にあるのでなかなか見つけられない。困った挙句、地元のおじさんに道を聞いたら快く教えてくれた。ふと見ると家の軒先には作品と同じ狐の吹き流しが。アーティストが配って回ったのだろうか。お礼を言い、別れる時のおじさんのピースサインが素敵だった。

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酒百浩一「LIFE works + みどりの部屋プロジェクト」。古い家屋の1階部分には集落各戸の大黒柱を丁寧にフロッタージュした作品が並び、長い時間家を支え続けてきた柱の力強さがそのまま写し取られている。2階に上がると、いきなり緑色に包まれた。数十色の緑色の色鉛筆で写し取られた葉っぱが部屋を埋め尽くしている。近所に住んでいるおじいさんがボランティアで作品の説明をしてくれ、実はこの部屋には秘密があるんですよ、と誇らしげに話す。部屋の一角の扉を開けると、赤く紅葉したようにフロッタージュされた葉でいっぱいの壁が現れ、歓声が上がる。フロッタージュは来場者も体験できるので、気軽に参加してみてはどうだろうか。

鞍掛純一と日本大学芸術学部 彫刻コースの学生達による「脱皮する家」と今年の新作「コロッケハウス」。空家をアートとして再生させるこの試みは、その作品の存在感と制作の執念に、ただ圧倒されるばかりだ。

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「脱皮する家」は時を経て黒くなった木肌を彫刻刀で彫っていき、その痕跡が床、壁、屋根裏にまで及び模様を描いている。内部を彫ることによって空間を広げ、そこに新しい価値を生み出した。それとは対照的な「コロッケハウス」は、彫るのではなく家を包んだ作品で、金属で包まれた家はまさにコロッケである。「彫る」と「包む」、この2つの対比が隣接している風景はとても興味深い。

森の中に突如現れる、不思議な形をした建物は「 森の学校キョロロ」だ。大きな蛇を思わせる赤錆色の建物は異様だが、何故か格好よく見える。キョロロという可愛らしい名前は森に住むアカショウビンの鳴き声からとったそうで、近隣の自然情報が得られる。昆虫をモチーフにした作品が展示され、子ども達に人気がありそうだ。

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次は塩田千春「家の記憶」。外から家の中を見ると、真っ黒で恐怖さえ感じる程黒い毛糸が張り巡らされた空間には、使い古しの家具や衣類が編み込まれ浮き上がっている。家や物に染み込んだ、人の温もりや記憶が時間を超えて立ち上るようだった。

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最後の作品は、またもや廃校の校舎をまるまる使ったクリスチャン・ボルタンスキーとジャン・カルマンの「最後の教室」。暗い校舎の中を手探りで進んでいくと、音や風、僅かな光の揺らめきで何かの気配を感じるが、人の姿はなく、あるのはかつての学校を思い起こさせるような思い出の品のみだ。暗く静かな校舎は少しだけ怖い気もした。

気になる作品もまだまだあるが、4日間はあっという間に終わってしまった。後ろ髪を引かれる思いで妻有の地を後にし、車で中心部へ向かう。
最終日を駆け足で巡り、帰りの時間ギリギリについた新潟駅。帰りのラッシュの時間帯だが、妻有帰りのせいか街の風景までのんびりして見える。初めて訪れた新潟の地だったが、芸術祭で得た大きな満足感と、人の温かさが心に残る旅になった。

棚田が広がり、農業が産業である妻有地域。昔から変わらない田園風景は先人達の計り知れない努力と知恵の積み重なりでもある。歴史がありながらも、過疎と高齢化に追いやられていたこの地域を元気づけようとしたのが、大地の芸術祭の始まりだった。アーティストやボランティアの努力、住民の理解と協力が、9年目を迎えた今年も見事に実を結んだ。皆で作品を作ったんだと嬉しそうに、そして誇らしげに話す地域の人たちの笑顔は、全国から集まったお客さんに幸せを与えたのではないだろうか。
ものを創造することが人のパワーになることを改めて確信できた芸術祭だった。3年後も楽しみである。

ちなみに、「大地の芸術祭2009 秋版」10月3日〜11月23日も開催されているので、まだまだ楽しむことができる。詳しくはHPで。

大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2009
会期:2009年7月26日(日)〜9月13日(日)
開催地:越後妻有地域 [新潟県十日町市,津南町] 760km2
主催:大地の芸術祭実行委員会
共催:NPO法人越後妻有里山協働機構
実行委員長:関口芳史(十日町市長)
名誉実行委員長:泉田裕彦(新潟県知事)
副実行委員長:小林三喜男(津南町長)
総合プロデューサー:福武總一郎
総合ディレクター:北川フラム
アートアドバイザー:トニー・ボンド、トム・フィンケルパール、ウルリッヒ・シュナイダー、入澤ユカ、中原佑介
https://www.echigo-tsumari.jp

Text: Sachiko Sekiguchi
Photos: Sachiko Sekiguchi, Takahumi Kimura

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