ラリー・サルタン

PEOPLEText: Reto Caduff

バリーは、サルタンの心の中に長くあった場所だ。彼は1983年に「ピクチャーズ・フロム・ホーム」(下の写真はそのシリーズに収録されている彼の両親)というシリーズを撮り始め、彼自身 “おかしな場所” と呼ぶバリーの生活をとても個人的に切り取った。


My Mother Posting for Me, from series Pictures from Home, 1984 © Larry Sultan

どういうわけか、その “おかしさ” は彼の心を放さなかったようで、6年前にポルノシリーズを撮り始めた。しかし彼は『私が性に関する写真を撮るなんて自分でも驚いているよ。』と話している。そして、写真がそれを物語っているのだが、このシリーズは軽はずみなものではなく、撮影のためにサンフランシスコの自宅からこの場所まで約100回も足を運んだという。

写真は、セックスの行為自体ではなく、奇妙ではあるが魅力的なこの環境と、そこに存在する “ゲスト” とのコンビネーションを美しく表現している。『快楽とミステリーというカップルほど私の心を動かす物語には出会ったことがない』と彼は説明する。


Backyard, Laurel Canyon, from series The Valley, 2003 © Larry Sultan

だが、みんながポルノ“スター”であるこの業界の人間との関係はどうなのであろうか?写真のなかでは、ほとんどの場合が全裸かほとんど何も着ていないのが常である彼らとしてはめずらしい、繊細さやカジュアルさを見せ、そこでは “スター” としては写されない。それが演出の幅を広げるのだとサルタンは考えている。

『彼らは、サーカス団のように、とても強くつながったコミュニティなんです。私がこのようなセットを好きになればなるほど、周囲も快く応じてくれます。ポルノ映画を撮影しているアシスタント達は、ライティングの仕方について、プロデューサーは私の作品にとって興味深いセッティングについて助言してくれます。』そして映画に出ているモデルの繊細さを引き出すのは想像以上に難しいようだ。『彼女達はポーズが一番の決め手である “かわいい女の子” を演じるのに慣れているのです。私がそういう写真を撮りたいのではないというのを理解してもらうのには苦労しました』と話す。


Woman in Garden, Mission Hills, from series The Valley, 1999 © Larry Sultan

コマーシャル・フォトグラファーとしての側面を持つ彼は、構図やその色彩感覚において素晴らしいセンスの持ち主で、彼の写真を見れば分かって頂けるとは思うが、冴えたユーモアセンスの持ち主でもある。(ちなみに現在ニューヨーク現代美術館(MoMA)で開催中の展覧会「ファッショニング・フィクション」で展示されている、ケイト・スペードのキャンペーンは彼が手掛けたもの)

決して簡単なテーマではない彼の「ザ・バリー」シリーズと新しい作品集は、彼を次なるジェフ・ウォールやジョエル・スタンフェルド、フィリップ=ロルカ・ディコルシアのような、本物のビジュアル・ストーリーテラーへと導くであろう。

Text: Reto Caduff
Translation: Naoko Fukushi

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