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マトモス

PEOPLEText: Krister Olsson

会場は、本物のスタジオのようにセッティングされ、シンセサイザー、コンピューター、グランドピアノなどで一杯だった。マトモスは、「アーティストのステージ」を彼らの耳に置き換えるという考え方をしていた。大抵、アーティストのステージというのは、アーティストにとって快適なように設計されている。アーティストと観客の橋渡しの役割もあるからだ。実際、アーティストが演奏を始めると、彼らがスタジオにこもって作曲活動をしているときと同じような、近寄りがたさがよく感じられるものだ。


Wobbly and People Like Us

しかし、マーティンとドリューはそうではなかった。2人は、イエルバ・ブエナ・センターで、11月7日から23日の間、96時間をそこで活動すると公表した。そこで、午前11時から午後1時まで、ドリューはセンター内の、彼らのいるスタジオに一番最初にやってきた人をインタビューし、その内容をもとに、マーティンとミュージックポートレートを作り、午後2時から5時までは、ウォブリーやピープル・ライク・アスなどのようなゲストを招いてのパフォーマンスを行うというものだった。

僕は、その「音楽のポートレート」というアイディアが気になった。モマスのポートレートみたいに、経済的な窮地から逃れる為に作られるようなものだろうか?よく海岸沿いにある、どれも同じように見える風刺画のようなものなのだろうか?あれこれ想像しても仕方がないので、実際に見に行くことにし、ある日の12時頃にそのセンターに足を運んでみた。僕が着いた頃にはもうすでに終わりに近づいていたので、次の日の朝に行き、ポートレートが制作される過程をもう一度最初から見ることにした。

午前11時、 僕はインスタレーション会場に入った。マトモスの友人である、ビクター・スカッグが、ミュージックポートレートに使われるインタビューに答えていた。まず、名前、年齢。これらの情報は、曲のリズム部分を決める骨組みとなった。ビクターは、彼の人生で重要な出来事を聞かれ、(ポートレートは、その人の生まれたときから現在までを追うものになるようだ)。この出来事は、曲の流れを変えるような部分となって使われた。その他、沢山の質問がされ、中には、ルネサンス心理学に基づき、怒りっぽさ、凶暴さ、鬱性、無気力さなど、ビクターの性格を探るようなものもあった。これらの質問は、曲の中で微妙な色を加える要素として使われた。

質問が終わると、ドリューは実際に作曲を開始した。しだいに曲が完成していくのを見ているのは面白かったが、もっと気になったのは、時間が過ぎていくごとの3人の反応で、作曲終了時間の午後1時にはそれが顕著だった。途中で、マーティンがピアノを弾いている間、彼の携帯電話が鳴った。また新たにレコーディングをする時間はなかったにも関わらず、携帯電話の音がポートレートに加えられることになった。日常にあるものをユニークな方法でそれを楽器として使うマトモスに感心した。そして、携帯電話の音は、ビクターの妹の泣き声として使われることになった。

ポートレートの創作は、アルバム曲の作曲と、即興演奏の中間のようなものだった。時間は短かったが(マトモスは普通、1曲作るのに1ヶ月かそれ以上かける)、即興とは違って、まず最初に構成が決められた。そのような限られた時間内で作曲するというところから考えると、完成する曲のクオリティは、そのときによって様々だ。完成したポートレートはやはり、マトモスの実際の作曲過程ほどは興味深いものではないだろう。しかし、インスタレーションとして最も興味深い点は、素晴らしい楽曲を作ることではなく、ある個人の体験を音楽という形にしたということだ。

Matmos
住所:800 Hampshire Street, San Francisco, CA 94110, USA
matmos-2@sbcglobal.net
https://vague-terrain.com

Text: Krister Olsson
Translation: Naoko Fukushi
Photos: Victor Scaggs

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