大竹伸朗展

HAPPENINGText: Alma Reyes

大竹の作品の多くは、記憶の断片を記録したものである。それは例えば、世界各地への数多くの旅の記憶を、心に留め、忘却に抗うために貼り合わせた切り抜きである。これらの「記念品」は「記憶」セクションに展示されており、その中には大竹の有名な「残景」シリーズも含まれている。《残景 14》(2020年)や《残景 32》(2020〜2021年)、他には「音」セクションで《残景 0》(2022年)が展示されている。多層的な油絵に大理石の粉末や砂、小石などの素材が組み合わされ、立体的な構造が備わっている。大竹は、これらの作品は記憶の果てに浮かび、光や視点によって表情を変えると考えている。鑑賞者は重ねられた色と素材を注意深く眺めて、隠れた側面、見つけられることを待っている側面を理解する必要がある。


大竹伸朗《残景 0》(2022年)Photo: 岡野 圭

また、同「記憶」セクションでは、素材を重ね合わせた極めてカラフルなコラージュ作品、《憶景 14》(2018年)が展示されている。写真や和紙、シガレットペーパー、ふすま紙、ガムテープ、ヘンプ布、蚕糸などが貼り付けられた抽象構成の作品である。一つの層を別の層の上から密封することで、様々な表情が余白から浮かび上がってくる。物を重ねる技術は、二次元構成と三次元構成の隙間にある大竹の革新的なアプローチの典型といえる。


大竹伸朗《憶景 14》(2018年)

マッシミリアーノ・ジオーニによるインタビュー「臨界量(クリティカルマス)」の中で大竹は、アッサンブラージュ的ロジックという流れのなかで作品をつくることは、自分自身にとってまったく自然であると述べている。ポップアートと19世紀~20世紀の西洋近代絵画に深い関心を持った大竹は、『本人がまだ気づいていないような時期の「未完成作品」に、よりアートの本質がある…… 得体の知れないどうにもやり場のない表現衝動が、何かの拍子に事故的にポロリと表に出てしまったかのような痕跡を発見したときに今でも心を強く動かされます』と同インタビューで述べている。


大竹伸朗《網膜(ワイヤー・ホライズン、タンジェ)》(1990〜1993年)東京国立近代美術館

この考え方を反映した作品が「記憶」「時間」「夢/網膜」セクションの「網膜」シリーズで見て取れた。加工したり引き伸ばしたりした写真の上に透明なプラスチック樹脂を塗り込めた作品だ。樹脂と光沢色のテクスチャーは二層構造を持ちながら独立した層を成している。《網膜(落下する銀の記憶)》(1994年)は、スプレー式塗料、 油染み、プラスチック樹脂、和紙、麻布、ダンボール紙、紙幣などで作られているが、これにより心をとりこにするような効果がもたらされている。まるで物質の多様な要素が新たな動く触媒に進化するのを目の当たりにしているようである。《網膜 #31(キャンドル・スモーク)》(1990-1991年)では、ラミネート加工を施した発色アナログプリントの上に布粘着テープを貼って樹脂を塗り、木製パネルに取り付けられている。

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