葛西由香

PEOPLEText: Ayumi Yakura

葛西さんの作品は、日本の伝統的な表現技法である「見立て」や「やつし」を用いているのが特徴であり、襖絵を見た人々が、一つだけ潜むモグリ(たけのこを被ったきのこ)を探して楽しんでいる姿も印象的でした。『若い世代も純粋に楽しめる身近な日本画』を目指しているのはなぜですか?

日本画の印象がとても古いところで止まってしまっているような気がするからです。私が日本画を描いていることを友達に言っても「日本画って…水墨画とか?」といった反応が多くて、いまいちピンとこない人が多いみたいです。現代の日本画の定義はあやふやで説明する側としても毎回難しさを感じています。近代までの日本画を簡単に説明すると、明治以降に西洋から入ってきた油彩画と区別するために「日本画」という言葉が使われるようになったので、それまで日本で扱われていた絵画(墨で描かれた山水画や、木版で刷られた浮世絵など)はすべて一括りに日本画になります。

ただ、現代では画材さえ日本画のものなら何を描いても日本画に分類されるので、多種多様な絵がたくさんあります。昔ながらの、墨一色で描かれた渋い風景画や着物を着た淡い美人の絵ばかりではないんです。現代的な抽象画もあれば、キラキラしたおとぎ話みたいな絵もあります。そんな多様な日本画の一端を同世代の子たちが知るきっかけに私の作品がなったらいいなと思っています。だからこそ、日本画についての知識がなくてもシンプルに興味を持ってもらえるような作品を作りたいと思っています。

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長谷川等伯「山水図襖」, 安土桃山時代(1589年), 紙本墨画 © 高台寺 塔頭 圓徳院(京都)
画像提供:「綴プロジェクト」(文化財未来継承プロジェクト)by 特定非営利活動法人 京都文化協会 / Canon Inc.

「見立て」や「やつし」は日本の伝統的な技法ですが、例えば過去にどのような作品が残されているのですか?好きな作家や作品があればご紹介をお願いします。

「見立て」と「やつし」は混同されてしまうことも多くて、私もまだまだ勉強中なので上手く説明できるか不安ですが…(笑)「見立て」は今でも動詞として使われることが多いので、なんとなく分かっていただけるかなと思うのですが、私が初めて作品として「見立て」を知ったのは長谷川等伯の「山水図襖」でした。当時京都にあった大徳寺三玄院の襖なのですが、住職の留守を狙って忍び込んだ等伯が墨で一気に描き上げたという襖絵です。襖に施されていた白い桐紋を、降る雪に「見立て」て雪景色が描かれています。短時間でぐるっと三十二面も描き上げてしまう気迫もさることながら、下手をすればめちゃくちゃ怒られて画壇から干される危険があったにも関わらず、その度胸と絶対的な自信に画家としての強い覚悟を感じました。当時の年齢が50歳と考えると、なんてガッツのあるおじさんなんでしょう。憧れます。ちなみに、襖絵の出来があまりにも良かったため、お咎めはなかったそうです。

さて「やつし」ですが、こちらは正直私も完全に理解しきれていません。なのでもしかしたら間違っている可能性もあるのですが、今の私が認識している限りをお話しします。もともとは『目立たぬ姿に変える』という意味の動詞「やつす」が名詞化したもので、歌舞伎や浮世絵などでは『身分を隠して忍ぶ』『古典的な画題を当世風にアレンジする』『権威あるものを当世風に卑近して表す』というように使われる表現技法です。「見立て」が元からあるものを使って別の何かに見せることを言うのに対し、「やつし」で表されるのは人物に限られ、その姿や設定が変わっていても表現される人物は変わりません。

例えば、鈴木春信の「やつし芦葉達磨」という錦絵では、インドから中国まで芦の葉に乗って川を渡った達磨大師の説話を当世美人の姿にやつしています。姿は美人に変わっていますが、この絵で表されているのは達磨大師です。頭まで覆いかぶさった赤い着物が、達磨大師の朱い法衣を思わせます。ちなみに達磨大師は、合格祈願などで使われる縁起物のだるまのモデルになったとても偉いお坊さんです。張子の赤いだるまを想像していただければ、作中の美人の姿が達磨大師を模しているのがお分かりいただけると思います。

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「蝦夷富士茶漬之図」葛西由香, 2017年, 白麻紙、銀箔、洋箔、胡粉、辰砂、黒箔、金箔, 198 × 260 mm

現在、クロスホテル札幌のロビーで開催されている「超日本」展と、11月25日、26日に同ホテルの「アートフェア札幌 2017」に出品される新作で、琳派の様式を用いて羊蹄山をお茶漬けに見立てた日本画「蝦夷富士茶漬之図」のコンセプトや技法について教えてください。

私の描きたい日本を考えてみました。日本は「日出ずる国」です。日出ずる…朝…一日のはじまり…朝ごはん…と辿った結果、私の定番の朝ごはん「お茶漬け」にたどり着きました。言葉遊びです。上に乗せた梅干しは日の出をイメージしています。蝦夷富士は羊蹄山の別称です。冬の羊蹄山を初めて見た時、真っ白に雪化粧された羊蹄山がとても美味しそうに見えて、黒蜜かけてみたいなぁなんて淡い夢を抱いたことをふと思い出したので、お茶漬けにしてその思いを昇華させました。

作中では「光琳波」を参考にしています。琳派を代表する絵師、尾形光琳の「紅白梅図屏風」に見られる独特な波模様です。実際に光琳が波を描いた手法には諸説ありますがその内の一説、焼箔技法といって硫黄を使い箔を硫化反応させ変色させる技法を用いています。硫化させたところは黒変し、硫化させずに残した波の波紋はそのままの銀箔の色が残っていますが、この波紋もゆくゆくは空気中の酸素に反応しゆっくり時間をかけて色を変えていきます。変化を含めて楽しんでいただきたい作品です。

2018年3月にはクラークギャラリー+SHIFTで初個展を開催されますが、どのような個展になるのでしょうか?

私は、人の話を聞いている時や日常風景を眺めていて『今の、こうだったら面白いのにな』と別のことを考えだして心がお散歩することがよくあるんです。そんな『こうだったら、』を並べてみたいなと思っています。肩の力を抜いた楽しい展示にしたいです。

MACHINAKA ART-X_edition vol.26「超日本」展
会期:2017年10月4日(水)~2018年1月14日(日)
会場:クロスホテル札幌 ロビー
住所:札幌市中央区北2西2
主催:クロスホテル札幌(企画課 011-272-0051)
キュレーション:クラークギャラリー+SHIFT
協力:まちなかアート
http://www.crosshotel.com/sapporo/

アートフェア札幌 2017
会期:2017年11月25日(土)11:00〜20:00、26日(日)11:00〜19:00
プレビュー:11月24日(金)18:00~21:00(招待客のみ)
会場:クロスホテル札幌(札幌市中央区北2条西2丁目23)
入場料:1,000円(情報アプリ「Domingo」をインストールすると入場無料)
フェアディレクター:大口岳人(クラークギャラリー+SHIFT)
アドバイザー:戸塚憲太郎(NEW CITY ART FAIRディレクター)
主催:アートフェア札幌 2017 実行委員会
共催:クロスホテル札幌
http://www.artsapporo.jp/2017/fair/

Text: Ayumi Yakura

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