野口哲哉展「アンティーク・ヒューマン」

HAPPENINGText: Kengo Michizoe

樹脂やプラスチックなど、現代的な素材を駆使して古びた姿の鎧武者を造形し、それらの織りなす嘘とも現実ともつかない魅力的な世界観を構築する美術家・野口哲哉の展覧会「ANTIQUE HUMAN」が東京南青山の「ギャラリー玉英」にて、2016年12月15日から24日まで開催された。

侍の兜や甲冑の一部にシャネルのロゴを家紋として取り入れた立体作品「シャネル侍着甲座像」(2009年)や侍が猫を散歩させている様子を描いた「着甲武人猫散歩逍遥図」(2008年)などの作品がSNSなどを通じ話題となり注目を集めている。特に「着甲武人猫散歩逍遥図」は作品の作られた経緯を知らない人々が本物の歴史的作品と誤解してしまうほど精巧に仕上がっている。

コレクターは国内外に及び、個展での評価も高く、現在、初の作品集・野口哲哉ノ作品集「侍達ノ居ル処。」青幻舎より発売されている。ギャラリー玉英での展覧会は立体作品、平面作品、それぞれ数点と本展のために制作された新作が発表された。

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「Avatar 1・2 〜現身〜」野口哲哉(2016年)© ギャラリー玉英

時々、そっくりな顔の肖像画が残っていると思ったら、実は親子や兄弟などの血縁者を描いた物であったり、同じ人物を描いている筈なのに、絵描きの個性や目的によって一人の人物がまるで別人かのように描かれていることがあったりするようだ。また、それぞれ勲功を立てた武将と思っていた人たちが実は同一人物であったり、逆に一人の人物と思っていた武将が複数の人物のエピソードが混ざってしまった場合もあったり、実にややこしい。「Avatar 1・2 〜現身〜」と題された作品では、骨格から顔つきまで瓜二つの人物が異なる鎧兜を身に纏い佇む、不思議な光景が表現されている。そのなんとも言い難い表情は、今となっては確認しようのない史実に振りまわされ、疲れてしまったかのような、嫌気が差してしまったかのような感情を滲ませているようにも見える。

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「lady beetle」野口哲哉(2016年)© ギャラリー玉英

一見、中年の武者が天を仰いでいるように見えるこの作品は、よく見ると触覚を模した兜にてんとう虫の模様を反映したような鎧を身にまとっている。この作品の名は「lady beetle」。日本語で「てんとう虫」を意味するこの作品は、太陽へと羽ばたく美しい模様のてんとう虫をイメージして作られた作品のようだ。一目見ただけではその違和感に気付くことはできず、巧妙に仕込まれたフィクションに見事に騙されてしまった。フィクションと言ったが実際に動物を象った兜も存在したことから、もしかしたら実在したかもしれないと思わされ、現実と空想の狭間を行ったり来たりさせられるような作品であった。

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「鳥人酉兜」(ちょうじんとりかぶと)野口哲哉(2016年)© ギャラリー玉英

本展の作品の解説は全て野口哲哉自身によって書かれている。「鳥人酉兜」(ちょうじんとりかぶと)と題された絵画作品では、“苦役に喘ぐ罪なきものが、鳥を奉る鳥謄大社(けいとうたいしゃ)に無垢なる祈りを捧げた時、蓮の花びらを吹き散らしながら馳せ来るもの、それは鳥人酉兜(ちょうじんとりかぶと)である”と実際には存在しない架空の人物があたかも存在したかのように、ダミーキャプションと呼ばれる偽りの解説文で空想の歴史が語られている。実際に時を経たかのような風合いを醸しだし、古色を帯びている本作品は、現代に創作されたものだと知らなければ、本物の歴史的作品だと勘違いしてしまいそうだ。

野口哲哉の作品が作り出す世界は、古くも新しい、真実よりも真に迫った空想の世界で、時々冗談を交えながら今も昔も変わらない人間の普遍的な姿が表現されていた。時代は変われど人間の本質的な部分は変わらないということに気付かされた。

野口哲哉展「ANTIQUE HUMAN」
会期:2016年12月15日〜24日
時間:10:30〜18:30
会場:ギャラリー玉英
住所:東京都港区南青山6-8-3
TEL:03-6410-4478
http://gallerygyokuei.com

Text: Kengo Michizoe

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