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飛鳥デザインウィーク 2016

HAPPENINGText: Tomohiro Okada

また、伝統と先駆性、デザインとの関係を語ったのは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムを設計する建築家の隈研吾。今や隈による建築は世界中に広がり、建築を目的に旅行者が集まっている。彼は、自身の建築の特徴を「街や大地とつながっている建築」であると語る。

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ASUKA DESIGN WEEK 2016「飛鳥会議」、隈研吾、橿原神宮会館(橿原市)

公共施設としての建築において隈が重視していることは「地域を中心に人々が集まる場を創る」こと。今年完成予定である英国のデザインと工芸の博物館、「ヴィクトリア&アルバート」(V&A)のスコットランド分館の建築は、この地の長い厳冬期を前提に、「博物館」としてだけではなく、多くの人々が様々な文化的体験ができる「広場」であることも主軸に置いた。設計にあたって、隈は常に「納得するまで現地の空港や駅を利用して移動し、街を歩き、現地の人々と語る」という。そうしたフィールドワークにより「地域にとって必要とされる建築」が生まれているのだ。時には巨大な予算とともに任せられるのだが、「早く作って欲しいのでわざわざ現地に行かなくても…」と資料やビデオが彼の元に寄せられて来ることも少なくない。それでも、現地を肌で感じるために必ず赴く。この感覚こそが、スコットランドの風土と気質にあったV&Aのような「求められる建築」「期待できる建築」を実現させているのではないだろうか。

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ASUKA DESIGN WEEK 2016「飛鳥音話祭」、国営飛鳥歴史公園石舞台地区 あすか風舞台

人々によって1,500年近く営まれてきた里山、護られてきた自社の佇まいは、デザインを語り合う上で、大きなインスピレーションを与えてくれた。飛鳥デザインウィークは、様々な人々が、このような風土から豊かなインスピレーションを得られる地域をめざして展開された。その飛鳥の象徴といえる「権勢を極めた貴族の墓」とされる7世紀に作られた石舞台古墳は、四季の里山の景観を風景とした大きな草原の公園となっている。その美しい景観を今に活かす試みとして、最後にポップミュージックによるフリーコンサート「飛鳥音話祭」が開催された。

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ASUKA DESIGN WEEK 2016「飛鳥音話祭」、GAKU-MC、国営飛鳥歴史公園石舞台地区 あすか風舞台

日本語ラッパーのGAKU-MCは、草原に集ったあらゆる世代に向けた「一緒に踊れるリズム」「一緒に歌える曲」を披露し、夕闇迫る美しい時間に幸福感を与えてくれた。

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ASUKA DESIGN WEEK 2016「飛鳥音話祭」、Salyu、国営飛鳥歴史公園石舞台地区 あすか風舞台

そしてステージは、森が夜の暗さを深める幻想的なライトアップのなか、女性ボーカリストのSalyuへと引き継がれる。「日本随一の歌唱力」と一青窈など多くのミュージシャンからリスペクトを受けるメロディアスな歌声に会場は魅了され、最後の曲とともに軽い夕立が訪れたにも関わらず、ライブ終了後30分にもおよぶアンコールの声が続くなど感動溢れる心地よいライブで締めくくられた。

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国営飛鳥歴史公園石舞台地区

このように日本のクリエイティブをリードする人々が多くの会話をしたくなる飛鳥地方。そこには、1,000年に渡る日本の里山文化の美しさが凝縮されている。1,500年近く前に生まれた都の面影は古墳や石造り、寺に遺されたその時代の仏像を通じてしか窺うことはできない。しかし、最初の国際都市の立地を示すように、人々にとって暮らしやすい自然環境は豊かな田畑や山林となって受け継がれ、権力ではなく人々の手によって寺社が護られ続けてきた。

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岡寺

日本が経済成長を果たし、便利さと引き換えに全国で開発が進むなか、人々が護ってきた飛鳥地方の歴史的ともいえる景観は、地域の人々や近隣である大阪の財界人である松下幸之助(松下電器パナソニック創始者)の働きかけにより中心地にある明日香村の保全と持続を目的とした特別な法律(明日香法)までも作られ、現在に続く文化的風土の保護と継承への全国的な流れへと繋がっている。

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明日香村

橿原市・高取町・明日香村によって構成される飛鳥地方。そこで歴史とともに護られてきた文化的景観と風土を、大阪・京都それぞれより電車で1時間足らずで訪問することができる。景観地域もまた、先端技術の実用化実験により借りることができる小型電気自動車やレンタル自転車を利用すれば半日で周ることができる。日本をもっと極める訪問地として、いかがだろうか。

ASUKA DESIGN WEEK 2016
会期:2016年7月16日(土)、17日(日)
時間:プログラムごとに異なる
参加クリエイター:浅葉克己(アートディレクター)、喜多俊之(プロダクトデザイナー)、隈研吾(建築家)、茂木健一郎(脳科学者)、今村有策(トーキョーワンダーサイト館長)、渡辺賢治(慶応義塾大学教授・奈良県漢方推進顧問)、海豪うるる(ASUKA DESIGN WEEK総合プロデューサー)、西野亮廣(芸人)、土佐信道(明和電機)、中田英寿(一般財団法人TAKE ACTION FOUNDATION 代表理事)、森田恭通(デザイナー)、川上麻衣子(女優/ガラスデザイナー)、中川淳(株式会社中川政七商店代表取締役社長 十三代)、生駒芳子(ファッションジャーナリスト)
会場:奈良県橿原市、高取町、明日香村の8会場
参加料:無料(一部のイベント・入山料・拝観料を除く)
主催:飛鳥デザインウィーク事業推進協議会
協力:TOKYO DESIGN WEEK、Design Association NPO
https://asukadesignweek.jp

Text: Tomohiro Okada
Photos: Tomohiro Okada

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