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飛鳥デザインウィーク 2016

HAPPENINGText: Tomohiro Okada

同じくこの地に都があった時に創建された里山に佇む古刹、岡寺では、50年に渡り日本の伝統工芸をイタリアの創造性と融合させ、世界のデザインに新たな流れを作ってきたプロダクトデザイナーの喜多俊之が、地方の特徴で世界にインパクトを与えられるデザインの力を語った。

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ASUKA DESIGN WEEK 2016「飛鳥会議」、左から喜多俊之、生駒芳子、飛鳥寺(明日香村)

日本が急成長を続けていた1970年代。一方で多くの伝統工芸は売れなくなり、手作りであるほど競争に合わず、多くの和紙産地では昔からの製法を護る匠であるほど廃業の途を考えるまでに追い詰められていた。当時イタリアに単身乗り込み家具分野を中心に活動を始めた喜多は、和紙によるランプシェードをデザインし、それが今では欧州で意匠のひとつになるほどの大ヒットプロダクトとなった。各地の匠が「もはやこれまで」と考えていた時、イタリアのメーカーからの大量注文が入り、多くの和紙産地が息を吹き返したのだ。

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明日香村

手作業である故の素材の美しさ、長年に渡り自然からの恵みで培われた原料と製法により百年単位でも変わらない品質は、今なおプロダクトにおいて欠かせない要素として、各産地とイタリアとの間での取引が続いている。

喜多はデザイナーとして、イタリアの伝統産業が得意とする「現代的な暮らし方のためのものづくり」と、日本の伝統工芸が得意とする「長年の積み重ねによる自然と調和した美しさと強さを兼ね備えたものづくり」のそれぞれの長所を活かしたデザインにより、世界に広がる普遍性、さらに美と機能を持ち合わせたプロダクトを創り出し続けている。

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飛鳥寺

イタリアには、地域の特徴をとことん極めることにより、全欧州や世界を市場にした地方が沢山あるという。空気がいいなら生ハムを造り、いい森があったならきのこやトリュフを極める。同じように伝統産業としてのデザインもとことんやる。だからこそ、極東の日本から来たデザイナーであっても、いい仕事なら活躍もできるし招かれもする。つまり、日本で「地方創生」と呼んで特別に行おうとしていることが、イタリアでは普通に存在しているのだ。

けれども日本でもデザインによる地域づくりの希望が生まれているという。デザインを取り入れながら古民家を改修することで、国内外から人を集めるようになった兵庫県の篠山市にように、デザインを潤滑油として取り入れることによって、次の世代に繋がる値打ち、つまり伝統が将来の宝物となっていくことに気づき始めているのだ。

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