ウィリアム・ケントリッジ「周辺的思考」展

HAPPENINGText: Shuhei Ohata

現在、韓国国立現代美術館のソウル館で開催中の展覧会「周辺的思考」は、ウィリアム・ケントリッジが世界的に活躍し始めた90年代から現在に至るまでの代表する作品で構成されている。彼は1955年生まれ。南アフリカ出身の白人で、アパルトヘイトなどの社会問題を扱う作家として知られる。演劇の仕事や美術を教えながら、美術家としてのキャリアをスタートさせている。主な表現形態はコマ撮りによるアニメーション。切り絵や実写を扱うが、何と言っても木炭やパステルのドローイングで描かれたものが印象的だ。

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“Johannesburg, 2nd Greatest City after Paris” William Kentridge, 1989, 8’02”, Mixed media installation with video

その最初の作品となったのが「ヨハネスブルグ、パリの次に素晴らしい都市」である。ここに登場するのが「ソーホー・エクスタイン」と「フェリックス・タイトルバウム」というケントリッジ自身の夢が元になって生まれた二人の中年男性である。作品の中で度々登場する彼らがどんなキャラクターなのかも、ストーリーも夢の世界のように展開されるため、私にははっきりとは読み取れない。しかし曖昧な表現と言うよりは、むしろ直接的な表現で政治的なスタンスも明確ではある。観ていると徐々にどこか薄暗く退廃的で抑圧された感覚や、孤独な気持ちへと向かう。だが、不思議と目が離せない。ドローイングそのものが持つ力、アニメーション特有のコマ落ちした様なぎこちない動き、断片的に現れる言葉、次々と移り変わる場面の展開、それらが言葉では説明しがたい感情の揺れを引き起こすからだろう。

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Still from “Shadow Procession” William Kentridge, 1999, Animated film and edited film from Ubu Tells the Truth 7’00”

今回の展示でもこの作品に関する作品がいくつか紹介されていたが、会場に訪れて先ず目に飛び込んでくるのが「影の行進」だ。展示会場の入口の左脇に映し出された映像作品で、タイトル通りシルエットだけで表現された人々が左から右へと移動する様が映し出されている。アコーディオンと掠れた声が魅力的な男性の歌声が重なりあい、行進する人々の高揚感を感じる。気がつくと自分もそこに混じって自然と部屋へ引き込まれていった。 

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“The Refusal of Time” William Kentridge, 2012, Five channel video installation wit

この空間は、さらに三つの部屋に分かれていて、その一つは気付かれないようなひっそりとした場所に入口が設けられていた。劇場の舞台裏に迷い込んだような空間で、作品の梱包箱や、舞台の大道具のようなオブジェ、椅子が無造作に置かれた空間全体に映像が映し出されている。椅子に座ってぼんやりと見始めるうちに、自分が何処にいるのか忘れてしまうような、白昼夢のような体験をした。この作品は「時間の抵抗」で、ドクメンタ13で発表されて話題になり、日本でも一昨年「パラソフィア:京都国際現代芸術祭2015」のプレイベントでも紹介されていたことを後で知った。部屋全体まで作り込まれた密度の濃い作品だ。

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“Notes towards a model Opera” William Kentridge, 2014-15, Three channel video projection, color, sound, 11’14”

「オペラ上映のための記録」(Notes towards a model Opera)は、激しいアフリカンビートに乗って目まぐるしく展開する映像作品。乾いた大地、生きる強さ、そんな言葉がフツフツと湧き上がってくる。共に異なるトーンの作品だが、イメージの広がりや展開が素晴らしく、特に印象に残った。展示の構成も含め、鑑賞者を巻き込んでいく仕掛けが巧みで、アーティストとして活動する以前の演劇の仕事や、俳優としての経験が活かされているのだろう。

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William Kentridge

アクティビストから見れば、彼のように直接的な活動からは距離を置きながら世界との関係を築くことに、もどかしく感じるかもしれない。しかし世界は私たちが目に見える世界だけで構成されてはない。もう一つ、目には見えない世界があることを知る者にとって、現実と同じ位に、その世界の重要さを証明しようとしているのではないだろうか。その受け皿としてアートの役割は大きいと思う。

ケントリッジは60代を迎えたが、感覚は衰える陰りもなく、近年の仕事の方がより自由で、豊かなイメージを生み出しているように見える。まだまだ今後の展開が楽しみでならない。

ウィリアム・ケントリッジ「Peripheral Thinking」展
会期:2015年12月1日(水)~2016年3月27日(日)
時間:10:00~19:00(水曜・土曜日は21:00まで)
休館:月曜日
会場:韓国国立現代美術館 ギャラリー2、3、4
住所:30 Samcheong-ro, Sogyeok-dong, Jongno-gu, Seoul
入場料:4,000ウォン
TEL:+82-2-3701-9500
http://www.mmca.go.kr

Text: Shuhei Ohata

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