力石 咲
PEOPLEText: Aya Shomura
最高にチャーミングな笑顔で、手のひらに収まる小さな作品から街ごとジャックするパワフルな作品までを繰り出すハイパーニットクリエイター、力石 咲(ちからいし さき)。彼女のニット作品は「モノを創り出す」というより、見慣れた景色や使い慣れた品々を、次々にカラフルなニットで「編み包む」インスタレーションだ。時にはいたずらを仕掛けるかのように、点心蒸籠の中にニットで作った小龍包を忍ばせてみたり、機内のヘッドセットにニットを編みつけてみたりと遊び心が溢れ、作品の大小に関わらず、私たちにその場や物に対する「愛着」や「柔らかい眼差し」を与えてくれる。そして、すっと心に入り込んでは、言葉を自在に操ることができなかった子供の頃の感覚を思い起こさせる。7月1日より始まった「カウパレード・ニセコ」にも選出アーティストの一人として参加し、ニセコで滞在制作していた彼女に、色々と話を聞いた。
Saki Chikaraishi, Photo: Kazuhiko Tsuchida
まず初めに、自己紹介をお願いします。
1982年生まれ。編み物をコミュニケーションメディアとして操るハイパーニットクリエイター。世界を緩やかに繋いでいくことをテーマに、街や空間を編み包むインスタレーションを制作。2004年多摩美術大学美術学部情報デザイン学科卒業。2014年ルミネ・ミーツ・アートアワード グランプリ受賞。
Installation “Knit Invader”, Exhibition “ICC Kids Program 2014 Inspiring Questions – Questioning Inspiration”, NTT InterCommunication Center[ICC], Tokyo, Variable size, Materials: Yarn, knitting machines, motors, etc, 2014, Photo: Kosuke Natatsuka
「ハイパーニットクリエイター」という肩書きについて教えて下さい。
自分で名乗りだしたのではないのですが、やはり「ニットと言って思い浮かぶようなことをやっていない」というところでしょうか。
Project “Reality and Fantasy”, York District(UK), 2014, Photo: Saki Chikaraishi
小さい頃から編み物に親しんでいらしのですか?コミュニケーションのひとつとして、ニット(毛糸)を選んだ理由も教えて下さい。
編み物との出会いは大学3年(2003年)の春休みです。2009年、オーストラリアでのアーティスト・イン・レジデンスからニットをコミュニケーション・メディアとして創作活動をしています。まず、編み物というのは世界中の人が知っているものです。編み物と聞いてイメージするものは、「温かい」「繋がる」といった、コミュニケーションに重要なコンテンツが含まれています。技法の特徴としては柔軟性や即興性、どんな形にもなるし何にでもフィットすること。オーストラリアでの滞在では制作の時間をなかなか取れないなか、毛糸と針を常に携帯し、すきま時間を縫っては編んで、その辺のモノ、例えばビーチに転がる流木や街中の椅子等を包んでいったんです。そうすると、見慣れた景色が変わって、周りの人からの反応がすぐに返ってくる。言葉がそんなに通じなくてもニットは世界共通で、誰にでもイメージするものがあるから作品を介してお互い仲良くなれるというか。また、この一連の即興性がとても心地の良い経験でした。編み物というのはこのような性質のものだから、家で一人で黙々とやるよりもどんどん外へ出していくんです。
Project “Reality and Fantasy”, Tokyo, 2012, Photo: Masafumi Maruyama
対象物を編み包む時点では、その形状やサイズをよく観察し、途中途中でニットを合わせながら完成させていく。いわば、私と対象物とのコミュニケーションです。そこから生まれた作品が今度はそれを観た人と繋がる、人と人を繋げる、街と人を繋げる。一本の糸が編まれて面となってどんどん大きく繋がって行くように、作品を介して色々なモノが繋がればよいですね。
編み物との出会いとなったという2004年の作品「マングローブ」はどういった作品なのでしょうか?
インタラクティブな地球儀の作品です。毛糸編みの地球儀の五大大陸にそれぞれひとつずつ目がついていて、人が来ると瞬きをします。
“Traveliving Project”, Hong Kong, 2014, Photo: Ventola Milk
「トラベリビング・プロジェクト」についても教えて下さい。飲茶の蒸籠の中や、機内のヘッドフォンなど、少し「さりげなく潜んでいる(馴染んでいる)」ような「間違い探し」のような遊び心もとても楽しいのですが、どのようなコンセプトでしょうか?ライフワークに近いですか?
ライフワークですね。コンセプトはその時々であったりなかったり。地域の特徴やそこでの生活からインスパイアされたモチーフで編むこともあれば、対象物の形状から思い付きで編むこともあります。例えば、今回のニセコ滞在でも街中をちょこちょこ編み包みましたが、行ってから数日は大自然のところだから何となく花のモチーフで編み包んでいました。が、ある日キタキツネを目撃して、そこからはキツネのモチーフで。街中にニットのキタキツネを出現させていました。
Installation “Knit Invader”, Exhibition “COSMIC GIRLS”, (marunouchi) HOUSE, Variable size, Materials: Yarn, knitting machines, motors, etc, Photo: Gosuke Sugiyama / Gottingham
東京が活動拠点ですが、東京での日々の生活よりも旅に出た時の方が感覚が研ぎすまされる気がします。あとは旅先でのほうが「もう二度と訪れられないかも」と思うので「ここでやっておかなくちゃ!」という感覚に駆られます。
“Traveling Knitting Machine Project”, London & Lake District & York District(UK), Machine body size: 31 × 80 × 24cm, Materials: Yarn, knitting machines, prastic, etc, 2014, Photo: Saki Chikaraishi
「旅するニットマシン・プロジェクト」のマシンは一見スーツケースにも見えますが、本当に引いて歩いて転がすだけで編み物が製造されるマシンなのですか?このプロジェクトに込めた想いも聞かせて下さい。
人自体を編み包むことは普段あまりないのですが、この作品は人の腕や首を編み包む作品です。きっかけは育児中の時間のないなか、移動するだけで作品が作りたかったから。転がすと編み物が作られるのですが、編み物の長さは移動した距離に比例します。
“Traveling Knitting Machine Project”, London & Lake District & York District(UK), Machine body size: 31 × 80 × 24cm, Materials: Yarn, knitting machines, prastic, etc, 2014, Photo: Saki Chikaraishi
これを持ち歩いて、「なんですか?これ?!」と声をかけられたら、そこまで移動してできたニットをプレゼントするんです。腕とか首とか好きなところを包んでもらって。その人を別の土地に連れていく、土地と人を繋げていくというコンセプトです。
Project “Reality and Fantasy”, Tokyo, 2014, Photo: Kosuke Natatsuka
屋外でのインスタレーションも多いですよね、使用なさる毛糸はどういった素材なのでしょうか?
素材は色々です。蛍光の色を使うことが多いです。
“Traveliving Project”, Gold Coast(AU), 2009, Photo: Saki Chikaraishi
最近、興味や関心のあることは何ですか?
いつも大きな大きなモノを編み包みたいです。建物とか単発ではなく、エリアを編み包みたいです。それを2020年のオリンピックでもやりたいです。競技施設そのものや期間中の東京の街をインベージョンしたい。ニットで包むことでその場所を私の風景にするという征服的なものではなく、街の良さや特徴を際立たせるものでありたい。インベージョン作業は私にとってその街を知る作業です。そしてニットという魔法がかかったいつもと違う風景の中で街と人、人と人がどんな関係性を築いていくかを観てみたいです。でも魔法なのでその風景はオリンピックの期間中だけ。ささやかで儚いけれど、訪れた人の記憶にずっと残る。そんな体験を東京に来る世界中の人、地元の人に提供したいのです。
影響を受けた人物、事象があれば教えて下さい。
大竹伸朗さん。大好きです。私もひとつでも多くの作品を作らなければ!頭で考えずにとにかく作らなければ!
“Knitting Cattle Mutilation”, CowParade Niseko, Niseko(Hokkaido), 2015, Photo: Saki Chikaraishi
今回参加なさっている「カウパレード・ニセコ2015」での作品は、グラスファイバーでできた等身大のカウ(牛)がベースですね。どのような作品でしょうか?
ニットで包みます。キャトル・ミューティレーション風に。乳のところから小さいUFOが牛を征服しているので見逃さないで下さい。そこに滞在制作中に収集、収拾したものも一緒に編み付けています。
Installation “Knit Invader”, Exhibition “COSMIC GIRLS”, (marunouchi) HOUSE, Variable size, Materials: Yarn, knitting machines, motors, etc, Photo: Gosuke Sugiyama / Gottingham
今後のご予定や、新しいプロジェクト、作品の構想をお聞かせ下さい。
今年春にメディアアート・フェスティバル「アミット」(AMIT)に参加して東京・丸の内の街をインベージョンしましたが、そんなふうにエリアを編み包むプロジェクトを頑張っていきたい。先にお話したオリンピックも。旅するニットマシンは一生継続していきます。あとはパフォーマンス時に着るニットスーツ、そろそろニュースーツを作りたいですね。それから、7月25日からは兵庫県尼崎で展示、8月は京都の高島屋など、今夏は関西方面での展示が多いです。11月まで長野の美ヶ原高原美術館でも展示しております。ぜひお越しください。詳細はオフィシャルサイトのトップページに随時掲載していきます。
Project “Reality and Fantasy”, Tokyo, 2013, Photo: Kosuke Natatsuka
最後に、メッセージをお願いします。
北海道でもエリアをインベージョンするプロジェクトをやりたいですね。
CowParade Niseko
会期:2015年7月1日(水)〜10月1日(木)
会場:倶知安町、ニセコ町各所に点在(地図ダウンロード)
アーティスト:小林俊哉、SHUUN、シンヤチサト、末次弘明、力石咲、文月悠光、松岡亮、米澤卓也、ワビサビほか(五十音順/全47体)
主催:一般社団法人ニセコプロモーションボード
協賛:池内グループ、シャレーアイビー、HTホリデーズ、ニセコグラン・ヒラフ、ニセコHANAZONOリゾート、デロイトトーマツ、木ニセコ、ニセード、MnKニセコ、エクスプロア・ニセコ、フレッシュパウダー・ニセコ、シレーニ・エステート、エヴィアン、サンクチュアリー・ニセコ、ニセコプロモーションボード、リングプロジェクト、スカイバス、坐忘林、雪華、スキージャパン・ドットコム、ザ・ヴェール・ニセコ、ニセコ町、ザ・ニセコ・カンパニー、吹雪、ザ・バーン、四季ニセコ、ウエスト・カナダ・ホームズ、アルペン・リッジ、ザ・ニセコ・サプライカンパニー、オージービーフ、株式会社双葉工業社、株式会社中山組、岩田地崎建設株式会社、清水建設株式会社
TEL:0136 21 2551
観覧無料
http://cowparadeniseko.com
Text: Aya Shomura