川上りえ
PEOPLEText: Ayumi Yakura
川上りえは、金属という堅牢な素材と様々な方法で向き合いながら、世界各地の滞在制作プログラムへ参加し、大規模なインスタレーションを発表するなど、枠にはまらず多様な表現に挑み続けている。しかし、スケールの大小に関わらず、どんな作品を見ても、彼女のテーマが一貫して「世界から感じる生命観」であることを知ると、共感し、納得させられるのは何故だろう?2014年、北海道の優れたカルチャーを国内外へ紹介するプロジェクト「クリエイティブ北海道」の台北展へ出品し、クロスホテル札幌で開催された凱旋展にも参加したばかりの彼女にインタビューする事ができた。
北海道を拠点とする彫刻家・まず初めに、自己紹介をお願いします。
川上りえと申します。美術家です。石狩にスタジオを構え、札幌を活動拠点として、国内外の展覧会で現代美術を展開しています。
「Zero Gravity」Rie Kawakami, グループ展「DOMANI明日展」, 国立新美術館(東京), 2009年 Photo: 玉井幹郎
どのような環境で制作しているのですか?
トタン板の薄壁でできているスタジオが主な制作場所です。金属加工の設備を備えており、普段はここでインスタレーションや彫刻を制作します。海外のレジデンスでは、与えられる環境がケース・バイ・ケースなので、その中でできることを考慮しながら制作します。
「Living Cube」Rie Kawakami, 個展「Living Cube」, The Lab, San Francisco(USA), 2009年, 観覧者が参加している情景 Photo: 川上りえ
金属は、イメージを具現化するのに、パワーやエネルギーが必要な素材に感じますが、川上さんは金属を用いて幅広い表現に挑んでいますね。一貫しているテーマ等はありますか?
テーマは、私が世界から感じ取る生命観です。素材と私の関わりによってそれを表現しようと模索し続けています。
「Living Cube」Rie Kawakami, 個展「Living Cube」, The Lab, San Francisco(USA), 2009年, 観覧者が参加している情景 Photo: 川上りえ
近年、空間に線素材を行き交わせている作品を多く発表しているのは何故ですか?
ある形の中にまとめ上げると言うよりは、表現のコンテンツを空間に行き渡らせたいからです。
「It was there all the time but you never saw it (II)」Rie Kawakami, 二人展「Conditional Landscape」, Biserica Evangherică Gușterița, Sibiu(România), 2014年 Photo: 川上りえ
海外での活動について教えてください。様々な国で滞在制作や、作品発表をしてきたそうですね。滞在前後で生じた変化や、学んだ事等、また、印象に残った批評はありますか?
海外の滞在制作に関しては、毎回新しい場所で初めての人と関わるので、その前後はいろいろな意味で心が張り詰めます。それは何度経験しても同じだと思いますが、回を重ねるごとに客観的に構えることができるようになったと思います。
滞在先で学んだことは、コミュニケーションの意味や明解さの必要性です。相手の問いかけに対しては、まず、説明の前に、イエスかノーかの結論をはっきり伝えるように意識しています。
印象に残った批判といえば、レジデンス中の個展会場で行ったプロジェクト(インタラクティブ・ワーク)と、その次のオープンスタジオで行った展示の内容が全く違っていたことに対して、ゲストアーティストからネガティブなクリティックを受けたことは忘れがたい経験です。
「Trace」Rie Kawakami, 二人展「Conditional Landscape」, Biserica Evangherică Gușterița, Sibiu(România), 2014年 Photo: 川上りえ
「クリエイティブ北海道ミーツ台北 2014」では、台北プロモーションへ同行し、アートブースに出品されました。現地の反応はいかがでしたか?
細いワイヤで作った立体作品をどうやって組み立てているのかを見極めたいのか、近寄ってまじまじと眺める人が多かったです。携帯などで写真取りをする人が多かったことも印象的でした。
「Trace」Rie Kawakami, グループ展「Sprouting Garden」, 札幌芸術の森野外美術館(札幌), 2014年 Photo: 山岸誠二
2009年にサンフランシスコで個展、2012年に札幌文化奨励賞受賞、2013年に国立新美術館「Domani明日展」へ出品、札幌芸術の森美術館中庭で大規模な屋外インスタレーション作品を発表されるなど、精力的に活動されていますね。アーティストとしてご自身が現在どのような時期にあると感じますか?
向かうべき次のステージについてよく考えて進んでいく時期だと思っています。自分の作家生活は、よりオーガナイズ(整理整頓)するべきだと考えています。
「Folding – Bag (I)」Rie Kawakami, 個展「Shape of Metal Spirit II」, 新さっぽろギャラリー(札幌), 2011年, 鉄 Photo: 川上りえ
「アートフェア札幌2014」では、ギャラリー門馬から出品されました。参加していかがでしたか?また期待などありますか?
「作品が売れる」期待を持つためには、作家としてまだまだ努力が足りないと実感しました。
「Trace」Rie Kawakami, 「クリエイティブ北海道展 in 札幌 2014」, クロスホテル札幌, 2014年, 鉄, 白塗料
「クリエイティブ北海道展 in 札幌 2014」の展示作品について教えてください
エレベーターホールにあるワイヤの犬は、今年「Trace」というタイトルで制作した13匹の犬たちの作品の一部を再構成したものです。2014年春にルーマニアでレジデンスをした折り、現地で野良犬の多さが社会問題になっている情況から触発されて制作しました。
また、錆の色彩で視覚展開した作品や、板材を折り曲げて形状展開した作品たちをギャラリーの壁面と棚に展示しています。
左から「Floating Grid V」「Floating Grid Ⅱ」「Floating Grid III」Rie Kawakami, 2010年, 「クリエイティブ北海道展 in 札幌 2014」, クロスホテル札幌, 鉄, 塗料
アーティスト活動の中で、一番嬉しかったことは何ですか?
札幌文化奨励賞受賞の受賞でしょうか。自分の居場所がよくわからなくなっていた頃、札幌で活動をつづけてもよいのだと言っていただいたような気がしました。
左から「Shell」「Drop」「Puddle」Rie Kawakami, 2010年, 「クリエイティブ北海道展 in 札幌 2014」, クロスホテル札幌, 鉄
アーティストとしてこれから挑戦したいこと、実現したいこと、伝えたいこと等ありますか?
作品のコンセプトを育むために、リサーチを含め、より時間をかけていきたいです。海外での発表の機会を増やしたい。自分の作品集が一冊もないので、作りたいです。
MACHINAKA ART-X_edition vol.14
「クリエイティブ北海道展 in 札幌 2014」
会期:2014年12月1日(月)~2015年2月28日(土)
会場:クロスホテル札幌
住所:札幌市中央区北2西2
出品作家:川上りえ、久野志乃
主催:クロスホテル札幌(企画部 011-272-0051)
キュレーション:大井恵子(ギャラリー門馬)
協力:まちなかアート・プロジェクト
クリエイティブディレクション:大口岳人(クラークギャラリー+SHIFT)
http://www.crosshotel.com/sapporo
Text: Ayumi Yakura