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スタンリー・キューブリック回顧展

HAPPENINGText: Victor Moreno

私たちは、幸いにもロサンゼルス・カウンティ美術館(以下、LACMA)での、スタンリー・キューブリックの多分野に渡る素晴らしい展示の最終週に間に合った。すでにこの展覧会は終了しているが、キューブリックファンには、理由はどうであれ、私がこの展示で経験したことをぜひ紹介したいと思う。

アメリカでは、実はキューブリックの回顧展は初の開催だ。展示は、フランクフルトのキューブリック・ステートとドイツ・フィルムミュージアムとのコラボレーションで、アカデミー・オブ・モーションピクチャーズ・アーツ&サイエンスが主催。映画の小道具から衣装、ポスター、オリジナルのプロモーション素材、セットのモデル、製作現場の写真、彼が使用していたカメラやレンズ、未完の作品、スクリプト、ノートブック、1940年代のまだその名が世に知られる前の、若きしのキューブリックの写真作品にいたるまでが展示された。13,000平方フィートの敷地には各映画作品の心理的な視点が説明されていた。

Stanley Kubrick Exhibition

LACMAによると、8ヶ月の展示期間中243,792名が訪れ、美術館はキュレーション的なミッションとして、シネマという分野を引き続き考えていきたいとしている。展示は、監督の並外れたビジョンと手法、一方で彼の作品が近代の芸術作品として世界的に認識されるにあたって、どのようにその影響が広まっていったのかということにもスポットを当てている。

キューブリックが決して完成させることのなかったプロジェクト「アーリアン・ペーパーズ」や、1969年に製作費と諸々の問題で廃止しなければならず、その後も作られることのなかった「ナポレオン」についての展示室もあった。また、「バリー・リンドン」のキャンドルライトのシーンで有名なカール・ツァィストのレンズのf/0.7とf/0.5についてエキスパートたちの間で白熱した話題など、技術的な展示も見られた。

そしてもう一つ注目すべき点が、様々な宗教団体からキューブリックあてに送られた、タイプライターで打たれた手紙である。「ロリータ」に対する非難や、引き破られた「時計じかけのオレンジ」についての新聞のクリッピングが入っていた。当時、若者が「時計じかけのオレンジ」に魅了され、殺人を犯したり、影響されたギャングが攻撃をしたことで、彼の作品は社会的に認められず “危険な映画” とされてしまったのだ。

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「アートミュージアムがこの歴史的な映画監督とその作品の回顧展を展開したことで、スタンリー・キューブリックは、どのように我々が20世紀のアーティストを定義するのかを再評価することだろう。また今後、LACMAによりアートと映画の境目を更に探求していくことにもなるだろう。」LACMAのCEOマイケル・ゴーヴァンとディレクターのウォリス・アネンバーグがそう語っている。

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「突撃」、「ロリータ」、「博士の異常な愛情」、「2001年宇宙の旅」、「時計じかけのオレンジ」、「シャイニング」、「フルメタル・ジャケット」、「アイズ・ワイド・シャット」。数あるキューブリック作品の中でも、これらの作品からは、彼の監督としてのこだわりや、前述の「バリー・リンドン」のキャンドルライトによる撮影や「2001年宇宙の旅」で使用されたフロント・プロジェクション(静止しているものがあたかも動いているように見せる技術など)など、当時の大々的な技術的革新をも見ることができる。事実、キューブリックは特殊効果と技術発展のパイオニアだったのだ。しかし面白いことに、彼は13回もアカデミー賞にノミネートされていながら、たった一度、1969年に「2001年宇宙の旅」で最優秀効果賞を受賞しているのみだ。

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葛西由香
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