佐々木芽生

PEOPLEText: Miki Matsumoto

実在するアートコレクター、ヴォーゲル夫妻を追ったドキュメンタリー映画「ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人」。郵便局員のハーブと図書館司書のドロシー夫妻が30年にわたり購入し続けた作品は、いつしか世界屈指の現代アートコレクションとなり、最後には一点も売られることなくナショナルギャラリーに寄贈されることとなる ― おとぎ話のような実話を描いたこの映画は、2008年に公開されるやいなや口コミで広がり、世界各地の映画祭で数々の賞を受賞するなど大きな話題を呼んだ。そして2013年春、その続編である「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの」が公開される。

今作でフォーカスするのは「ヴォーゲル 50×50」と呼ばれる大規模な寄贈プロジェクト。ヴォーゲル夫妻のコレクションは、寄贈後も増加の一途を辿り、遂にナショナルギャラリーでは収容不可能な量に達してしまう。そこで「50作品を50州に」というコンセプトのもと、全米50州の各美術館に、合計2500点を寄贈する前代未聞のプロジェクトが始動する。本編では、コレクションが全米各地に散り、そのコレクションを元にした展覧会が開催される様子を追うなかで、ヴォーゲル夫妻、アーティスト、全米各地の美術館および地元コミュニティといった、関係各者の反応を捉える。

「社会にアートは必要か。文化を支援し、後世に残すには何が必要か」と問いかけるこの映画は、制作および配給の実現にあたって、クラウド・ファンディングを活用している点でも注目を集めている。既に2011年、アメリカで8万7千ドルの資金調達に成功し、資金不足でストップしていた映画制作を終えることができた。そして現在、続編を世界に先駆けて日本で劇場公開するための資金として、1000万円を目標に掲げたクラウド・ファンディング・プロジェクトが進行中だ。来日中の佐々木芽生(ささき めぐみ)監督に、映画にこめられた思いやクラウド・ファンディングの可能性についてお話を伺った。

佐々木芽生

原題は「ハーブ&ドロシー 50×50」(フィフティ・バイ・フィフティ)ですが、日本版は「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの」となっています。その意図や込められた思いについてお聞かせください。

「50×50」というタイトルは、日本の方にはちょっと分かりにくいですよね。読み方が分からないようなタイトルはまずいんじゃないかということで、ハリーポッターシリーズのように、各エピソードの副題がメインタイトルになる雰囲気がいいのではという話になりました。今作では2人のコレクションが全米の美術館に散っていくというギフトプロジェクト(寄贈計画)にフォーカスしていますが、アートのギフトだけではなく、彼らの精神など、2人から貰った様々なギフトに対する思いを込めています。

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「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの」より © 2013 Fine Line Media,Inc. All Rights Reserved.

前作は、ヴォーゲル夫妻の暮らしや、アーティストとの交流がメインだったと思います。今回展覧会にフォーカスして撮影するなかで、前作と違った発見や驚きはありましたか?

一番驚いたのは、作品に対する子ども達の反応です。これをどうやって見ればいいのか、と大人が首をかしげるような作品が沢山ある展覧会に、小さな子ども達が学校の授業で来るのですが、彼らの方がそういうアートに対して凄く反応する。作家は色々な思いを込めてアートを作るのだろうけれど、その作家の思いを伝えるためだけに、展覧会は作品を見せるわけではない。アートに対してそれぞれが持っている答えは違う。それは映画の大きなテーマでもありますが、子どもたちのピュアな反応を見ていて、アートに間違った答えはないと確信した感じです。それが大人になるにつれて、何でこれがアートなんだとか、こんなのうちの孫でもできるとか、そういう反応になっちゃう。子ども達のほうがよっぽど純粋に反応しているのが面白かった。

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「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの」より © 2013 Fine Line Media,Inc. All Rights Reserved.

この映画の制作は、私にとって「アート探しの旅」みたいなところがあったんです。人としてのハーブとドロシーについては良く知っていたのですが、彼らのコレクションのことを全く分かっていなかった。2人のコレクション展を撮影しに行ったインディアナポリスの美術館で、きちんとした環境のもとで改めて作品を見たとき、そう思ったんです。そこからはアートって何だろうということを、2人のコレクションを見ながら自分でも探していきたいという思いでした。

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