佐々木芽生

PEOPLEText: Miki Matsumoto

これからクラウド・ファンディングが更に成長していくために、何が必要でしょうか?

まずシステム自体としては、ウェブのインフラが日本ではまだ整っていなくって凄く使いづらいので、もう少しちゃんとした方がいいかな。寄付をくれた人に対してお礼のメッセージを書きたいと思っても、そこに行き着くまでが凄く面倒なんです。寄付に参加するシステムがややこしいという声も聞くので、もっと簡単にするとか。皆、興味がないわけではなく、やり方を知らない、抵抗がある、という状況なので、インフラを整えるとか分かりやすいシステムを作ることで、現状を改善していってもらいたいなと思いました。例えばキックスターターの場合、アマゾンにアカウントを持っている人は3クリックくらいで寄付できて、本当に簡単なんです。お金を出す側の立場になって、プロセスを少しでもシンプルにするのは大事だと思います。

私自身、クラウド・ファンディングで寄付を募り始めてから、皆さんに支援をお願いするだけではなく、自分も支援する気持ちを伝えなくてはと思い、毎月10ドルづつ、オバマ氏の選挙キャンペーンに寄付をしているんですが、1度寄付すると、そのアカウントをキープすることもできる仕組みになっているんです。すると大統領選挙の期間中にどこかで討論会があると、速攻で彼のキャンペーンアドレスから『今の討論会、良かったでしょ?いいと思ったら4ドルでいいから寄付して!』といったメールが来る(笑)。そして2クリックくらいですぐに寄付できる。5ドルではなくて4ドルという金額の選び方や、入金するシステムを、ファンディングサイトはもの凄く計算している。そういう工夫やネットのインフラ整備が、もっと必要だと思いますね。

ただ、システムは伸びても、使う側(プロジェクトを作る側)がちゃんとサポーター(寄付してくれた人達)をケアしないと、みんな離れていってしまう。そこまではサイト運営側も管理しきれないので、参加する人それぞれがやるしかないんじゃないかな。

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ローレンス・ウィナーが「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの」のためにデザインした限定スケッチブック

今回のファンディングプロジェクトでは、出資金に応じて様々な特典が用意されている。著名なコンセプチュアル・アーティストであるローレンス・ウィナーが「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの」のためにデザインした限定スケッチブックも、その一例。なおアメリカ版では、サポーターにドロシーからメールが来るという計らいがあった。『アートをコレクションする5つの大事なポイントについてメールが来るというものです。ドロシーからメッセージが送られてきますよ、とかそういうのって、凄くお得感があるじゃないですか。』(佐々木監督)

具体的に、佐々木監督が心掛けていらっしゃることはありますか?

とにかく参加した人が、参加してよかったって思えるようにしたい。それには、やっぱり特典を十分に用意することですかね。例えば今回のモーションギャラリーの場合、3000円のファンディングには前売り券2枚がついてきます。それは映画を見たいと思ってくれている人にとっては、決して損するお金ではない。あとはキャンペーンが終わったときのフォローアップや、フォローしてくれる人達とのコミュニケーションですね。プロジェクトの進捗やこれからの予定を、ちゃんと報告する。お金を貰うまでより、貰ったあとのフォローに6割の注意を払う気持ちでやった方がいいと思います。

ハーブ&ドロシーと約8年間一緒に過ごすなかで、佐々木監督も絵を買うようになりましたか?

全くないですね。物を持つのが嫌いで、 物欲が本当にないんです。アートは美術館やギャラリーで見ればいいかな。逆にこの2作目で、絵を描きたくはなりましたけどね。

これからクラウド・ファンディングに挑戦しようと思う方々に、一言メッセージをお願いします。

とにかく準備周到に行うことが大切だと感じました。お金を集めることだけでなく、献金して頂いた方へのフォローをいかに計画的かつきちんと行えるかが、このシステムを使い続けていく上では重要だと思います。

H%26D1.jpg「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの」より © 2013 Fine Line Media,Inc. All Rights Reserved.
「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの」より © 2013 Fine Line Media,Inc. All Rights Reserved.

クラウド・ファンディングについて、『「一般の人々が支えて行く民主的な文化支援のかたち」という点では、ハーブ&ドロシーのスピリットに通じるものがあります』と佐々木監督は語る。傍観するのではなく、積極的に関わることで見えてくるものがあるはずだ。ハーブとドロシーからのギフトを受け取りに、是非劇場に足を運んでみてはいかがだろうか。(「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの」は3月30日(土)より、新宿ピカデリー、東京都写真美術館ほか全国順次ロードショー)

Text: Miki Matsumoto

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