佐々木芽生

PEOPLEText: Miki Matsumoto

続いて、クラウド・ファンディングに関連したお話を幾つか。様々なサイトがある中で、今回、アメリカではキックスターター、日本ではモーションギャラリーを選んだ理由はありますか?

キックスターターは、インフラがすごく整っているし、運営側がプロジェクトをちゃんとキュレーションしていて、凄くいいサイトだと思うんです。誰でもやろうと思ってできるわけではなく、申し込んでくる人の4割程度しか参加できない点もいい。スタッフがハーブ&ドロシーの映画のことを知っていて、私が問い合わせしたときには是非やってくださいと連絡があるくらい乗り気になってくれたのも大きかったですね。もう一つ、インディーゴーゴーという大きなサイトがあるんですが、目標金額に達成しなくても行ったら行っただけお金は入ってくるシステムなんですね。それは中途半端というか、逆に達成しないとお金がなくなるくらいの危機感や真剣さをもってやったほうがいいんじゃないかなと思いました。モーションギャラリーに関しては、映画のプロジェクトを多く扱っていた点、利用者の年齢が比較的、この映画に近いと思われたのが理由です。

キックスターターは2008年にアメリカでスタートした、創造的プロジェクトのための資金調達プラットフォーム。予算は不足しているが、実現したいインディーズ・プロジェクトがあるユーザーが応募し、趣旨に賛同した他のユーザーから投資を受けることができる。2012年には、177カ国の人々がキックスターターのプロジェクトに資金を投じるなど、世界規模でその勢いを増し続けている。

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「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの」より © 2013 Fine Line Media,Inc. All Rights Reserved.

日本における集金目標が、1000万円と高額ですね。この金額に挑戦した理由は何ですか?

クラウド・ファンディングの実用化には、最低1000万円くらいの金額を集められないと意味がないと思いましたし、映画制作にはこれくらいのお金がかかるということをちゃんと言ったほうがいいと思ったのでこの金額にしました。日本でもクラウド・ファンディングの事例が出て来ていますが、大抵数十万円という目標金額ですよね。それで十分な資金調達になるプロジェクトもあると思いますが、映画制作は数千万単位でお金を集められないと実現が非常に難しい。スタッフも全部ただ働きというケースが日本では多いと思いますが、私はプロにはそれなりのギャラを払って、ちゃんとした仕事をしてもらいたい。私は自分でカメラを廻さないし、編集も自分でやらないので、そういうスタッフを雇わないといけないということもあって、そうするとやはり数千万単位のお金が必要なわけです。まぁ、目標はより大きくして、そこに向かって全力で行くという、私の性格も関係しているとは思いますが(笑)。例えば500万円集めようと思ったら、上手くいっても500万円ですが、1000万円という目標なら、多分500万円は簡単に超えられる。行かないとしても700、800万円は行くんじゃないかとかね。まぁ、その人の一番やりたいやり方でいいと思いますよ。

モーションギャラリーでのプロジェクトは、目標金額の1000万円に対し、1月16日現在480万円(期限は2月中旬)が集まっている。詳しくは、クラウド・ファンディング・ページをチェックして頂きたい。

アメリカでは、クラウド・ファンディング専用のスタッフを3人用意したそうですが、日本ではどういった体制になっていますか?

公開事務局を立ち上げて、4人から5人が常駐しています。常駐といっても皆さん他に仕事があるので、その合間に一緒にやって頂いて、私がニューヨークからサポートを入れる形です。フェイスブック、ツイッターといったソーシャルメディアでの活動や、 ニュースレターの発行、大口のサポーターをどうやって集めるかといったことなどですね。それに加えて、今は無料上映会を全国で開いているので、その呼びかけと、色んな素材の発送といったフォローもあります。(無料上映会の意図としては)単にお金を入れてくださいではなく、まずは映画を見て頂くのが一番の近道じゃないかと思ったので、一斉に無料にしました。 それがファンディングに繋がっていく感じにしています。

前回(2012年11月)の来日時には、クラウド・ファンディングと絡めた監督のトークイベント、 今回は「2500上映プロジェクト」(※)など、様々な関連イベントが開催されていますね。

事前に組み込むというよりは、協力をしてくださる声があれば、なるべく全部やって頂くようにしています。現在行っている無料上映会も、前回来日した際に考えついたんです。フェイスブックでは、現時点(2012年12月)で1700~1800人ほどが「いいね!」ボタンを押してくれていますが、ファンディングに参加しているのは230人くらい。つまり8:1程度の割合になります。一方で、日本に先行してファンディングを募ったアメリカでは、 4:1くらいの割合でした。日本の方が、割合がすごく少ない。「いいね!」ボタンは、誰でも押せる非常に気軽なものですが、そういう意味では一つの指標になる。

私が今気にしているのは、日本では何故そういう差があるのかということです。寄付はワンコイン(500円)から可能ですが、それができない理由は何なのか。インターネットでクレジットカードを使うことに対する不安かもしれないし、良いとは思うけど自分で寄付するのは嫌なのかもしれない。米国ではカードを利用して献金するという文化が根付き始めているので、ネットを利用して気軽に支援して下さる方が多いのですが、日本ではその点は大分異なっています。そこで例えば(クレジットカード決済だけではなく)郵便貯金口座からも入金できるシステムを作ったり、前作「ハーブ&ドロシー」を知らない人にも見てもらって、これだったら次作を見たいので応援しようと思ってもらうために無料上映会を企画したり。心理的な戸惑いをなくすにはどうすればいいか、どうやって意欲を引き出すか、といったことだと思います。

※ 続編の公開にあたって、前作「ハーブ&ドロシー」の自主上映会の上映代金を無料にするキャンペーンを展開(2013年3月末まで)。「ヴォーゲル 50 x 50」にちなんで、全国で2,500回の上映を目指している。

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