シンケル・パビリオン

PLACEText: Kiyohide Hayashi

ベルリンには多くの美しい展示空間を持ったギャラリーや美術館などの美術施設がある。世界遺産にも選ばれている博物館島の旧博物館や新博物館などはその代表例と言えるだろう。一方規模が小さいとはいえ私設のスペースであるシンケル・パビリオンの存在を忘れてはいけない。博物館島など無数の名立たる建築が集まるベルリン中心部で、それらに埋もれること無く異彩を放つシンケル・パビリオン。その美しい建築空間では現代美術の作品が展示されている。

シンケル・パビリオン
Photo: Thorsten Klapsch

ベルリンの中心部にはウンター・デン・リンデンという大通りがある。通りはかつてベルリン王宮があった博物館島からブランデンブルク門までを結ぶ昔からの目抜き通りだ。通りに並ぶのはドイツ歴史博物館(旧武器庫)、ノイエ・ヴァッヘ(旧衛兵所)、フンボルト大学、ベルリン国立図書館など。それらは過去の街の姿を今に伝えてくれる。このような大通りを脇道にそれて少し進むと、シンケル・パビリオンが見えてくる。通りからは際立った特徴が無いように見えるが、ひとたび展示室に入ると驚くに違いない。作品だけでなくベルリンの風景が眼に飛び込んでくるからだ。八角形の形をした展示室は入り口部分を除く残り7面がガラス窓で覆われており、屋外からの光と風景が来場者を包み込む。そのため展示室は小さな空間にも関わらず、ベルリンの風景を取り込んだ圧倒的な広がりを生み出しているのだ。

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Photo: Thorsten Klapsch

シンケル・パビリオンの名前は19世紀のドイツ人建築家カルル・フリードリッヒ・シンケルに由来している。彼は当時の王室に仕えベルリン中心部の都市計画を担い、ノイエ・ヴァッヘや旧博物館といったギリシア建築に影響を受けた荘厳な建築物を多く生み出した。実際のところシンケル・パビリオンの建物はシンケルでなく建築家リチャード・パウリックによって1969年に建てられたもの。だが歴史的な景観に馴染むように建てられており、そこには取り壊されたシンケル建築の一部分が取り込まれている。また展示室のガラス窓には隣接するシンケルによって設計された教会が大きく写り込むため、建物が持つシンケルとの繋がりや、彼が生み出したベルリンの景観との繋がりを強く意識させられるだろう。

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Photo: Thorsten Klapsch

シンケル・パビリオンが現代美術作品を展示するスペースとして始動したのは2007年のこと。立ち上げたのはアーティストでもあるニナ・ポール。彼女はシンケル・パビリオンの運営だけでなく、展覧会のアーティストなどを決めるキュレーションも行っている。スペースはギャラリーのように作品販売を専門としておらず、展覧会の入場料を取っていないため、運営資金の多くをドイツで良く見られるクンスト・フェアアイン(美術協会)形式で得ている。それは一般の人々が協会(ここでの協会はシンケル・パビリオン)のメンバーとなり、年会費を支払うことで協会の企画運営を助けるもの。そのためギャラリーにありがちな作品販売に重きをおいた商業主義一辺倒の展示や、美術館でありがちな入場料収入を狙った来場者を増やすための通俗的な展示をここで見ることはない。見ることができるのは非常に質の高い展示なのだ。

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Karla Black, For Another Purpose, 2012, Cellophane, Sellotape, Paint, Plaster powder, Powder paint, Nailvarnish, 160 x Ø445 cm, Installation view, Schinkel Pavillon e. V., Berlin. Photo: Nick Ash, Courtesy Galerie Gisela Capitain, Ko¨ln

今までシンケル・パビリオンで展示を行ったのは、ヨーン・ボッククリスチャン・ヤンコフスキーイザ・ゲンツケンなど国際的に活躍するアーティストたち。ガラス張りの小さな一室での展示となるため、空間を利用したインスタレーション作品や彫刻作品を見せるアーティストが多く登場している。スコットランド人アーティスト、カーラ・ブラックはその最たる例だろう。彼女は無駄無くデザインされた展示スペースの中心に、今にも壊れそうな歪んだセロファン製の巨大なリングを設置した。天井の照明に合わせて形作られた作品は、完全性を追求した空間に対して、脆さや形のくずれた様を美しく際立たせる。彼女はこの完成された空間に変化を持ち込み、作品と空間との共鳴を生み出すことに成功していた。

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Performance in conjunction with the exhibition, ‘What it Does to Your City’, Schinkel Pavillon, Berlin, 09/13 – 10/21/2012. Photo: Linus Dessecker. © Cyprien Gaillard, Courtesy Sprüth Magers Berlin London

現在開催中(2012年9月から11月まで)のシプリアン・ガイヤールの展示はベルリンの街を巻き込むものとなっている。破壊のプロセスや文明の姿をテーマとするアーティストは展覧会のコンセプトとして「未来の博物館」を掲げ、工事現場で使用される掘削機械のシャベルの爪を展示している。それらは時間が経てば、博物館に展示されるであろう今の時代の遺物であり、我々の生活を紐解く展示物の役割を担うことになる。またそのシャベルは展示室の窓越しに見える建設現場を背景にして、今なお変化を続けるこの街の姿を気付かせてくれる。何より印象的だったのは展覧会のオープニングに合わせて行われたパフォーマンスだった。それはシンケル・パビリオン横にある建設現場で、数台のシャベルカーが夕闇の中で音楽に合わせて動き回るもの。焚かれた発煙筒の光の下、シャベルカーはこの街で繰り返される破壊と再生を演じてみせた。そこではアーティストが見せようとするものが、展示室の作品やそこから見える風景だけでなく、ベルリンの街そのものであることに気付かせてくれた。そして同時に、シンケル・パビリオンの展示がベルリンの街と切り離すことができないものであることを見る者に強く印象付けていた。

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Installation view, ‘What it Does to Your City’, Schinkel, Pavillon, Berlin, 09/13 – 10/21/2012. Photo: Jens Ziehe © Cyprien Gaillard, Courtesy Sprüth Magers Berlin London

シンケル・パビリオンに訪れた者誰もが気付くに違いない。この展示空間の魅力はベルリンの街との繋がりが生み出していることを。展示室の窓にはベルリンの街並が広がっている。かつての東ドイツのシンボル的な存在だったベルリンのテレビ塔や、東ドイツ時代に撤去されたベルリン王宮の再建現場も見える。一方で古い建物を破壊して新しいモダンな建物にする建設現場も見える。つまり、ここからは過去と現在が混じり合う場を一望できるのだ。このような圧倒的な空間はアーティストを魅了すると同時に彼らの前に立ちはだかる。時として作品の良さを押し殺すまでに展示空間は美しいのだ。それゆえ、アーティストはベルリンの街や建築空間とのせめぎ合いを繰り広げる。そう、ここでは共鳴ともいえるその素晴らしいせめぎ合いに立ち会うことができるのだ。

Schinkel Pavillon
住所:Oberwallstraße 1, 10117 Berlin
開館時間:12:00〜18:00(月・火・水曜日休館)
TEL:+49 30 2088 6444
info@schinkelpavillon.de
http://www.schinkelpavillon.de

Text: Kiyohide Hayashi

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