シンガポール・アート・フェスティバル 2012

HAPPENINGText: Fann ZJ

1977年より、本年までシンガポールのローカルな様々な次元のアートを支えて来たシンガポール・アート・フェスティバルが2013年の開催を見送る事が発表された。長きに渡るアートフェスティバルの一段落となる本年度。

2012年度のシンガポール・アート・フェスティバルのテーマは「失われた詩」(Our lost poems)と名付けられ、2010年度の「あなたと私の間」(between you and me)、2011年の「忘れたくないもの」(I want to remember)に続く、三部作の最終章であり、13カ国からの物語や神話を探求し、異なる次元のアートへと昇華する、というものであった。

会場はエスペランドパークの中心に据えられ、マリーナベイと国道に挟まれたユニークなロケーション。スカイラインからの眺めは、その独特な配置を強調し、より一層の興味をかき立てる。

Singapore Arts Festival 2012
© Singapore Arts Festival

「パラレル・シティーズ」は工場などでの反復的で退屈な労働を暗示する演劇プログラム。労働者からの実話を元に、ブエノスアイレス出身のジェラルド・ノイマンと同郷の映像チームである「ドラマボックス」の協力により構築された。労働者の日常を切り取ったストーリーの中では、隣国への出稼ぎ、また反対に移民労働者の流入問題を扱い、登場人物に同一性を持たせたり、労働生活の退屈さを演出する事で観る者の共感を狙った。彼らの働く理由を示すとともに、急速なグローバリズムにより第三次産業が中心となった現代における重労働者の担う役割を問うた。

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The Wind-Up Bird Chronicle © Little Red Ants Creative Studio

「ウィンドアップ・バード・クロニクル」は村上春樹の代表的な小説の世界観にハリウッドの美意識を取り込むパフォーマンスアート。演劇、人形劇、インスタレーション、サウンドスケープにより、まるで小説の世界に入り込んだ様な一大スペクタクルに仕上がった。内なる葛藤と混乱は、マルチメディアによって、音波と視覚の泉となって表出され、言語翻訳では表現しきれない、心理描写や物音(例えば真夏の午後のセミの音)までもを描写した。

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The Wind-Up Bird Chronicle © Little Red Ants Creative Studio

「ア・ランゲージ・オブ・ゼア・オウン」は各々の持つ言語によって隔てられる、他人との関係性や言語の認識、理解を表現した演劇ドラマ。英文を中国語訳する際に生まれる美や、苦痛、内在する動揺が、実は恋人達を暗闇から光りへと導く様子を上演した。

アートという観点において、文化的砂漠地帯とも形容できた70年代から、洗練された世界都市へと変貌し、世界標準のアート発信地となるまで、シンガポールのアートシーンは長い道を歩んできた。シンガポール・アートフェスティバルもローカルからインターナショナルな催しへと変化したが、実の所、シンガポーリアン・ポエムその他、古来のアートフォームの存在を希薄にした側面もあった。来年度開催の見送りは、関わる全ての者にとって、シンガポールの「失われた詩」を再発見し、掘りさげ、シンガポール・アートフェスの真価を見極めるには、良い休息期間となる。来たる2014年の開催が、アートシーンに新たな立ち位置を見出すものとなる事を祈って。

Singapore Arts Festival 2012
会期:2012年5月18日〜6月2日
会場:シンガポール市内各所
http://www.singaporeartsfest.com

Text: Fann ZJ
Translation: Andry Adolphe

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