川内倫子展「照度 あめつち 影を見る」
HAPPENINGText: Yu Miyakoshi
次の部屋には、二つのスクリーンが左右に並び、イルミナンス・シリーズの映像作品が投影されている。もともと大学ではグラフィックデザイン科の映像コースに籍をおき、映像を学んだ経験があるという川内氏だが、その撮影方法は独特だ。本作品の映像に使用されたカットのほとんどは、写真を撮っている時と同じタイミングで撮影されたという。写真と映像をこれほどニュートラルに扱える作家は、希有ではないかと思う。
無題 シリーズ「Illuminance」より, 2009 © Rinko Kawauchi
そこに写されているのは、子ども、ご飯の支度をする手、円を描くもの、シーラカンスのような魚の尾ひれ、歩く速度で写された田舎の道など、これといったストーリーもない、もの珍しさもない風景だったが、個人的には興味深い装置だった。それはたとえば、見ているうちに気持ちが純化されていくような反応。ここに来るまでぼんやりと連絡をとりたい、と思っていた程度の人の顔が、はっきりと思い浮かんでくるような反応、身体が暖まっていくような反応。その反応もまた、玉虫色のように変化するつかみどころのないものだと思ったが、写真とは違った、時間をかけて醸成されるものがあるのは確かだった。
シリーズ「あめつち」「影を見る」展示風景 Photo: Yu Miyakoshi
川内氏は、『映像は写真よりも身体的なもの』と語っている。瞬間を写しとる写真よりも、映像の方が普段のリアリティに近いという。たしかに見る側にとっても、なにか自分よりも大きく秩序だったものの鼓動を追体験するような感覚を得たのは、視覚がわかりやすく身体に作用する映像体験だったと言えるかもしれない。
続きを読む ...
【ボランティア募集】翻訳・編集ライターを募集中です。詳細はメールでお問い合わせください。