川内倫子展「照度 あめつち 影を見る」

HAPPENINGText: Yu Miyakoshi

川内倫子デビュー作品集「うたたね」の発刊から11年目を迎えた今年、東京都写真美術館にて、首都圏の美術館では初となる個展「照度 あめつち 影を見る」が開催された。

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Photo: Yu Miyakoshi

その写真は、言葉よりも先に生まれた不文律な、作家自身も語っているように “タイムレスで場所性のない” ものなので、 書き手としては言葉でその世界を詮索することができずにいた。 もし、これを読んでいる方がこれから本展覧会を見に行きたいと考えているなら、できればこのレポートを読む前に、本物を見ていただきたいと思う。そうはいうもののこのレポートをまとめさせて頂いたのは、本展覧会を体験をした後に言葉を続けていくことは、いくらかでも今の時代の写真について語ることになるかもしれないと思ってのことであり、また、シェアできればと思ってのことだった。

展示会場は、川内氏がデビュー当時から約15年かけて撮りためた「Illuminance」(イルミナンス)シリーズが並ぶ明るい印象の空間と、4×5インチの大判カメラで撮影された「あめつち」、「影を見る」シリーズが並ぶ照明を控えた空間という、対照的な展示方法によって構成されている。

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無題, シリーズ「Illuminance」より, 2007 Photo: Yu Miyakoshi

入口を入ると一番最初に目に入ってくるのは、学校の階段を写したイルミナンス・シリーズの1枚。どこにでもふりそそぐ光が、こんな風にひとすじの線を落とし、都市の自然と交差する瞬間を見たことがあっただろうか。昨年、このシリーズを中心とした作品集「Illuminance」が発売されたが、当初、そのタイトルの候補は宮澤賢治の詩*にインスパイアされた “Iridescence”(イリデッセンス) という言葉だったという。
*あのほのじろくあえかな霧のイリデスセンス(宮澤賢治「氷質の冗談」より「春と修羅 第二集」収録)

イリデッセンスには玉虫色という意味があり、川内氏はプレスリリースに『その日の気持ちで同じものが玉虫色のようにいろんな色に見える、世界はいろんな見え方をする』という言葉を寄せている。エントランスの角を曲がると、白い空間にさらにイルミナンス・シリーズが続く。1枚1枚が波のような光を放ち、乱反射をおこしていると思うほどに明るかった。

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