オープンリールアンサンブル

PEOPLEText: Yu Miyakoshi

オープンリールアンサンブルの演奏器であるオープンリール・デッキ (剥き出しのテープを搭載した旧式のオープンリール式磁気録音機) が一直線に並ぶとき、舞台の上に新しい空間が生まれる。80年後半、90年代生まれの彼らが旧来の機械と現代のコンピュータをドッキングさせてしまったという「楽器」は、私たちに今までに聞いたことがなかった音楽を届ける。テープが発する独特な反響音はきわめてポップで、時にクラシックでもロックでもある。2009年に実験的なプロジェクトとしてスタートしたこのグループは海外でも評価が高く、フランス、スペイン、イタリアからオファーを受け、国内でもソナー・トーキョー、センス・オブ・ワンダーなどに出演している。また、アートのフィールドを意識したという先日のG/Pギャラリーで行われたデモストレーションはアブストラクトな要素が強く、未知の風景と邂逅させられた気がした(「Electronicos On」2011年10月14日)。
今回のインタビューでは、2011年10月30日に行われた武蔵野美術大学の学園祭で行われたライブ前の楽屋で話を聞くことができた。

オープンリールアンサンブル
左から難波卓己、吉田匡、和田永、吉田悠、佐藤公俊 Photo: Yu Miyakoshi

メンバーの皆さんの出会いからグループ結成までの経緯について教えていただけますか?

和田:大学(多摩美術大学情報デザイン学科情報芸術)の時に研究室でパフォーマンスの発表みたいなものがあって、佐藤君と僕と、他にも何人かで集まって何かできないかな、ということで僕が知人から譲り受けて持っていたオープンリールという機械を持ってきたのが始まりです。

佐藤:和田君がオープンリールを3つぐらい持ってきて、「これ。」って、ドーン、と。初めて見た時は「なんじゃこりゃ」という感じでした。テープが剥き出しですもんね。カセットテープはケースの中に収まってるじゃないですか。それが剥き出しっていうのが新鮮でした。

和田:大きさといい、ビジュアルといい、発掘されたものみたいだったよね。

佐藤:デッキが並んだ時は壮観でしたね。

和田:ちょうどその時に機械をコンピューターで制御するみたいなことも勉強していたので、オープンリールとコンピューターをドッキングさせたらどうかな、とか言ってオープンリールの中を開けて、配線を切ったりして動かしたら、「キュ!」なんて言うんで、これはやっぱり楽器みたいなものだろうと。それから佐藤君がシンセサイザーを持って来て、繋いでみたりもしました。それで、このオープンリールというもはや遺物と化したものを使って楽団をやったらいいんじゃないか、ということでプロジェクト名をホワイトボードに書いたりしていて。その時にオープンリールアンサンブルという名前が出てきたんです。

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他の三名の方がメンバーに加わったのはその後ですか?

和田:三人とはもともと中学と高校(私立和光中学校/高等学校)が一緒だったんです。

吉田(悠):和田君とは高校の時にバンドを組んで音楽を一緒にやっていた繋がりがあって、2009年にオープンリールのプロジェクトとしてNTTインターコミュニケーション・センターでコンサートがあるという時に、もう一回招集されたという感じで、その時に今のメンバーになりました。

和田:彼らは僕の家にオープンリールがあったことも知っているんです。オープンリールは僕が中学の時に知人から譲り受けたんですが、その頃は家で音を録音して遊んでいたりしていて。

吉田(匡):和田君がそういう機械いじりが好きなんだ、ってことは皆知っていました。(笑)

当時はバンドの楽器としては使っていなかったのですか?

難波:3~4人で即興の演奏をする時にリールで遊んだりしていたことはありました。

吉田(悠):その時は飛び道具みたいな感じで、ちょっとセッションに加えてみようとか、そんな感じで。

和田:その道具、つまり録音機自体を中心に演奏するっていうのが、今のプロジェクトです。

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最初にプロジェクトにオープンリールを取り入れようと思った時から、オープンリールを使って音楽を作ろうというイメージはあったのですか?

和田:音の出るものなので、最初からこれは楽器だろう、みたいな感じでした。それでこれを楽器として、どれだけ使えるか、みたいなところから始まっているんだと思います。それから、「オープンリールアンサンブル」という名前がでてきた時に、一つの風景を見ちゃったんですよね。僕らが音楽を作る仮定では、風景や作り話みたいなものが、曲やパフォーマンスをつくる土台になっていることがあって。それは、他愛ない会話の中に混じっていたり、妄想として膨らませていたり。

その風景というのはどのようなものだったのですか?

「オープンリールアンサンブル」そのもののイメージに関しては、例えば・・、冒険家がアマゾンのような奥地で茂みをかき分けていくと、向こうから不可思議な音色が聞こえてきて、どうやら、そこに住む人々によるお祭りが始まっている。冒険家が双眼鏡でよく見てみると、複数の人が座り込みながらオープンリールテープレコーダーを演奏している。なんでこんなところにオープンリールが?こんなところで?、と冒険家は驚きながら、演奏を終えた長老に話を聞いてみると、どうやら、歌を録音するために訪れた人類学者が落としていったものを拾ったのだそうで、その人類学者は森の中で運悪く野獣に襲われ、すでに白骨化した死体となっていた。彼らはその死体の隣にあったオープンリールをたまたま見つけたらしく、恐る恐るスイッチを入れていじくり回すと、内蔵のスピーカーから音が出たので、一種の楽器のようなものだと解釈したそうだ。更に、壊れた時のために学者が持ってきていた大量のオープンリールと発電機が彼の船に残されていて、そのことがカオス理論的に影響して、複数のオープンリールでアンサンブルを行う表現が生まれたらしい。その人たちは、それが古くから伝わる「時間を司る円形のアルコトルプルコ」だと信じて疑わない様子だった。その光景を見て「ハッ」とした冒険家は、故郷のドイツに戻ると、早速友人たちを集め、テレフンケンのテープレコーダーによるDJユニット、ザ・テレフンケンズを結成したのだった…。その頃、遠く離れたベトナムのホーチミンでは、今日も極度に変形した磁気ヘッドのオープンリールが、カオダイ寺院の中でクルクルと回っていた・・。

おもしろいストーリーですね!音楽をやっている方から、「物語」が出てくるというのが驚きです。

難波:物語は、語る人や毎回の思いつきによって、その都度ころころ変わるんですけどね。和田君の場合は多分、イメージが映像で出てくるから物語になっちゃうんですよ。でしょ?

和田:どこかにいて体験している感じ。そこに流れている音楽、みたいな。でも音楽ってそもそも物語を感じさせるし、風景と結びついていることって多いのかなぁ。そういった意味で、物語の中にいるような感覚がありますね。

それが例えばアマゾンのイメージだったりするのですね?

和田:そうですね。ありえるかも、というところがミソなんですけどね。そういうことが起きていたとしても、なんら不思議はないという。例えばこう、「ハッ」と目覚めたら記憶が無かったりして、どこだろう、って見回すと水平線があったりして――、これは先日僕らがリリースした「Tape To Tape」にも絵が載ってあったりするんですけど。これは吉田(悠)君のイメージだよね?
吉田(悠):話の中から出てきたようなものですけどね。例えば海の水平線から、巨大な石碑がそびえ立っている。

和田:こう、ゴ――・・、と生えてくるんですよ。

難波:そう、見てたらなんか――

吉田(悠):だんだんせり上がってくる。

和田:スピードもそれなりのものがあって。

吉田(悠):ゴゴゴゴゴ・・。

吉田(匡):それで、よく見たら上にオープンリールが乗っている。

そういったイメージから音楽が生まれてくるのですか?

吉田(悠):――から、なのか。

和田:同時、なのか。でもやっぱり、オープンリールって異世界っぽかったんですよね。どこかで魔術として使われているとか、そういったイメージが想起させられたりして、そこから浮かんだ音をそのままオープンリールで演奏するという。それでその時に、捨てられた「エレクトロニクス」が、楽器に変形して「エレクトロニコス」になるんじゃないかなって。

それは和田さんが作った言葉ですか?

和田:最初は言い間違えただけなんですけど。エレクトロニクスというものに、祭り的な汗臭さと、人間臭さが入ってる、それが「エレクトロニコス」。ニクスかニコスかで、人間が道具と対決しながら、更に創造的に使い倒そうとする、そういう攻防みたいなものが繰り広げられているイメージもあったりして。

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コンサート・ホール「ブルックナーハウス」で行われたアルス・エレクトロニカでの一幕(オーストリア 2011) © rubra4

ライブで聞いているだけだと、どうやって演奏しているのかよくわからないのですが、オープンリールでどのように演奏しているのですか?

難波:オープンリールはその場で録音して、その音の時間軸を歪めたりっていうのが結構直感的にできるんです。

和田:その場で音や声を録音して、テープが巻いてあるリールの部分を手で触って回すことで、レコードでいうスクラッチのようにリズムを作ったり、テープを物理的に振るわせて音を加工したり。曲によってはコンピュータを使って動作を反復させたり。スイッチを高速でオン・オフさせたり。あらかじめ音が録音されているリールや、その場で音を録音するリールがあって、それぞれの回転のタイミングやスピードをとにかくパズルのように組み合わせて、演奏しています。回転と音とがリンクしていて、特に高速で回っているのを見ると、興奮しますね。でも、演奏中にテープが切れたりすることも多々ありました。今はこれ以上はやばい、っていうのがわかるようになったので、ほとんど起きなくなったんですけどね。

和田:佐藤君なんかトラウマがいくつもあるよね。テープがひっくり返ったり。

佐藤:そうなったらテープを一回はずして、ねじりを戻してまた付けて、っていうことを演奏中にやるんですよ。

難波:あとは、トラブルの根源というのがテープだけじゃないんですよ。自分たちで作っている基板を演奏中に破壊してしまったり。ライブ中にハンダ付けしたこともあります。今は改良して取り外しを簡単にしたので、壊れたところだけ外して新しいもの刺せばいいんですけど、それができなかった頃、ライブ中になんか焦げ臭いな、と思ったら煙が出ていて、佐藤君がライブ中にハンダ付けしてたんです。

佐藤:あれはパフォーマンスの一環ではないですよ、もちろん。

和田:あれ、またやってよ。(笑)

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公演終了後のオープンリールデッキ。和田さんいわく「メディアを引きちぎり、引きずり回し、引っ掻き鳴らす、とはこのこと」© a.kold

パーカッションは生楽器として使用されているのですね。

吉田(悠):そうですね、パーカッションとベースは楽器としてあります。

難波:リールはギター、キーボードみたいなところです。

和田:変わったりもするんですけど、ライブ感もあって、その編成でパフォーマンスすることが今は多いですね。

便利な機械やシンセサイザーがある中で、オープンリールにこだわるのは何故ですか?

吉田(悠):その理由をさかのぼると、最初にリールを触った時かもしれないです。

和田:そう、壊れたオープンリールを手で触って変な音が出たっていう体験がずっと積み重なっていて。僕はもともと自然科学が凄い好きなんですけれど、オープンリールはシュミレーションじゃなくて、お風呂で「あー」と言ったら反響するような、物理現象としての面白さがあるように感じたんです。それは必然的なもので、どこか生楽器的なんですよね。弦を弾いたら音が出る、みたいに。特徴が顕著に現れるのはやっぱりエラー音の時なのかなあ。レコードの針飛びにあるビニールと針らしい音色とか、デジタルのグリッジにある非連続的なノイズもそうなんですけど、そういうメディア自身が持っている正常じゃない時の音って固有で、表現っていうことになると、更新されない価値があるのかなって。不便なんですけど、オープンリールにしか出せない不確定要素と人間の身体性との親和性というか、それによって生まれる世界というか、そういった部分に惹かれるんだと思います。でも、こだわりというよりは、やっぱり単純に楽しいからからなあ。

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今でも遊びの要素もあるのですか?

和田:遊びの連続ですね。実験、実験の組み合わせで。その中からどんなことが生まれるのか、という。

難波:オープンリールは、遊んでるうちにどんどん拡張していってるんですよ。ここがこういう風に伝わって音が出た、じゃあこれを自動でできたらいいね、ってことで機能が追加されていっていて、今では最初の頃とは比べ物にならないくらい色々付いています。

機械から生まれた音が音楽になってしまう、というのが不思議です。

和田:何でも音楽になりますからね。(と言ってそばにあった空き缶をはじきながら)誰でもできるんですよ。楽器だとか楽器じゃないっていうのは、その人が「楽器だ」って言っちゃえば楽器になっちゃう、と思っていて、それをどう演奏するかというところに面白さがあるのかなぁ、と思います。

ジャムのように、5人で演奏した時に掛け合いの中から生まれてくる音楽というのはあるのですか?

和田:ありますね。思考のパズルでもあるし、即興だったら探り合いにもなるし、何か作っていく時に、かけ算みたいなところはあると思います。最初にセッションをして「いいね」って思った部分をコラージュして一曲に仕上げるという感じ。今日のライブは作りこんであって、物語も練ってあるんです。

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アルス・エレクトロニカでの一幕。(オーストリア 2011)© a.kold

オープンリールアンサンブルの音楽は、実験的でありながらも分かりやすいというか、エンターテインメントな感じもありますよね。

吉田(悠):もしかしたら、録音して再生するっていうところに執着してるっていうところが、一つの分かりやすさかもしれない。

和田:展開や構成は大事にしています。これからの課題でもあるけど。音楽の構造が、オープンリールを通すことで見えるということもあって。録音して再生するっていう、それだけのことに宿ってる感動を追体験できるように曲をつくったりもしています。

吉田(悠):録音機を使って何ができるか、というところに僕らがやっていることは集約されている。それが音楽的に実験的か、ポップかっていうことを横断して、分かりやすさになっているのかもしれないです。

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アルス・エレクトロニカ公演にて、スタンディング・オベーションへ向かって。(オーストリア 2011)© a.kold

アート方面からのオファーもありますが、アートとしての表現は意識されていますか?

和田:一つの文脈だけで語れてしまうのは面白みがないのかな、と思っているので、横断的な活動を展開できればと思っています。でも枠組みからものをつくったり、価値を変形させてみたり、そういった点はとにかく大事にしていきたいですね。

難波:逆に、オファー頂いたイベントに僕らも触発されています。それこそこないだのG/Pギャラリーでやったデモンストレーションだとすると、こういう環境だったらこういう表現やりたいね、という感じで。

佐藤:だから、また完全に音楽方面のところから呼ばれたら変わると思います。

難波:今日はオーストリアのリンツで開催されたアルス・エレクトロニカの公演の時に形になったものがあって、それを演奏するんですけど、即興の部分もありますし、来月からはまた変わると思います。アメーバ的な感じなのかもしれないです。その時、その場所で変化していくという。

来月からは変わるということでしたが、どういう活動をしていかれるのですか?

和田:またライブが何本かある中で、新曲を作っていく予定です。

難波:いくつか試したい案があるんですよ。それが、こうなるであろう、と思っても実際にはそうならなかったり、もっと良くなったりする。そのイレギュラーで起こったことが凄かったりすると、そこから発展して爆発的に生まれる時は生まれるので、そこを期待して実験してみようと。

和田:オープンリールの特性を更に掘り下げていく感じかなあ。今やりたいのは、コンピュータとオープンリールを同時に使って曲をつくりたいな。これはライブではなくって録音作品の話。

吉田(悠):オープンリールがどういう挙動を示してどういう機構で動いてるから、こういう演奏方法の可能性がある、とか、こういうことをやったら面白いんじゃないか、という辺りをとにかく探っていきます。

最後に、私のような一般人でも皆さんのように音楽が身近に感じられたらといいな、と思うのですが、そんな風に感じている人たちに向けてメッセージをいただけませんか?

和田:それってもう、意識次第な気がします。電車の走行音にのってみるとか。

難波:高速のつなぎ目を通る時の音にのってみるとか。

和田:おお!

難波:その音と、その時流してる曲のBPMが合った時の感動――。

和田:そういうこと、よくありますよ。工事現場の電飾の点滅と、聞いている音楽のビートが微妙にずれてる時のセクシーさとか。どの部分で “音楽” を聴いているのかっていうと、不思議なんですけどね。響きなのか、旋律なのか、浮かんで来る映像なのか、見ている風景とのマッチングなのか。色々な楽しみ方があって。音楽があらゆる音に宿っているとすれば、あらゆるものが音楽だ、と思っちゃうんですけどね。音楽と音楽でない境目は謎なので。だから楽しみ方を見つけて、楽しんでしまえってことに尽きると思いますけどね。

Open Reel Ensembleプロフィール
2009年より、和田永(1987年生まれ/リール)を中心に佐藤公俊(1988年生まれ/リール)、難波卓己(1988年生まれ/リール、バイオリン)、吉田悠(1987年生まれ/リール、パーカッション)、吉田匡(1990年生まれ/ベース)が集まり活動を開始。旧式のオープンリール式磁気録音機を楽器として駆使するパフォーマンスは海外でも評価が高く、2011年ソナー・フェスティバル(スペイン)、アルス・エレクトロニカ(オーストリア)公演後はヨーロッパ各地からオファーが殺到。国内でもソナー・トーキョー、センス・オブ・ワンダーに出演した。メンバーの和田永はブラウン管テレビを楽器として演奏する作品「Braun Tube Jazz Band」で第13回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞、第8回ベストデビュタント賞 映像・グラフィック・アート部門受賞するなど注目を集め、国内外でソロ活動を展開。また吉田悠と吉田匡は、長兄の吉田能との吉田兄弟3人によるジャズバンド「花掘レ」のメンバーでもある。佐藤公俊はDJとしてSountrive(サウントライブ)という名義で都内で活動。難波卓己はヴァイオリン奏者としてもソロ活動している。
http://www.steamblue.net

Text: Yu Miyakoshi

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