パリ・ファッション・ウィーク SS 2012

HAPPENINGText: Shotaro Okada

また今回、東洋をはじめとした、ヨーロッパ圏外の衣服の在り方を汲み取ったコレクションを多くのブランドで見ることができた。民族衣裳のニュアンス、ドレープの使い方、1部で述べた「肩で着る」ようなシルエットが目に映えた。「ヨーロッパ圏外」のモチーフを露骨に使うのではなく、各々のデザイナーが自らの足でその国々へと「旅」をしている様な感覚を覚えた。

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アン・ヴァレリー・アッシュ 2012春夏コレクション

アン・ヴァレリー・アッシュは、「ブルー・タンジリン」と名付けられたコレクションを披露。このデザイナーがもともと得意とする柔らかなドレープやパターン使いに、ほんのりとエスニックのテイストをプラス。目の覚めるようなブルーや、柔らかいテーラリングと交わることによって、新鮮な印象を与えていた。

ツモリチサトでは人魚のイラストが登場したが、インスピレーションを海の中へと求め、「旅」するデザイナーもいた。
ジバンシィのコレクションは、その最たる例で、海の世界を服に落とし込んだデザインが多くあった。クロムメッキで作られたというサメの歯のようなネックレス、魚の鱗を思わせるスパンコール使い。そして、ラッフルをふんだんに用いることによって、人魚のような優雅なシルエットが描かれていた。ラッフルの動きは非常にエレガントである。魚の革を使用したジャケットは潮の香が漂い、まるで浜辺に打ち上げられた人魚姫のために作られたコステュームのようであった。

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マド・エ・レン 2012春夏プレゼンテーション

再び「心の旅」に話を戻そう。
ここでは、パリコレ期間中に行なわれる「トラノイ」という大きな展示会で、マド・エ・レンという香水ブランドに出会った話をしたい。
南仏のサン・ジュリアンで製造を行なっているこのブランドの香水は、ひとつひとつがユニセックスでジェンダーレスな香りを放ち、性的に誘惑するのではなく、匂いを身にまとうことによって瞑想や精神の安らぎを導くようなもの。これらの匂いを通して、自分の奥深くに眠る魅力が、優しく引き出されるような体験をすることができた。匂いひとつだけで、時空を超えた「旅」をできるということを知った、貴重な体験であった。

様々な場所や空間を、ファッションを通して「旅」することは、きっと豊かな心を育んでくれる。

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