リン・イ

PEOPLEText: Emma Chi, Gene Gao

上海の演劇ファンの間で最も人気があるのがサスペンスだ。毎年数多くの推理劇やサスペンス劇が制作され、世間に熱く迎えられている。

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若き演出家、リン・イは、1982年上海に生まれ、2000年に上海戯劇学院演出部に入学、2004年に学士を取得して卒業し同年上海演劇芸術センターに所属。2007年にアガサ・クリスティーのサスペンス「そして誰もいなくなった」で独立後初の演出を飾った。この作品は上海、北京、杭州などで上演、そのエネルギッシュな舞台が社会的大反響を巻き起こした。2008年、彼女は再びアガサ・クリスティー作品に取り組み、戯曲「ねずみとり」を演出。その後多くの作品を演出し、俳優としても7作品に主演した。3作目のアガサ・クリスティーとなる「招かれざる客」では、上海を皮切りに2009年12月から2010年2月まで47回の上演を果たした。イギリス人作家アンソニー・シェーファーのサスペンス「探偵〈スルース〉」はリン・イにとって初めてのアガサ・クリスティー以外の作品である。コメディとサスペンスをミックスしたこの作品で彼女は非常に大胆な演出を試み、観客の賞賛を受けた。ここから演出家としての彼女の力は大きく飛躍したのである。2010年末から2011年4月まで、彼女は新作となる2つのアガサ・クリスティー作品、「ホロー荘の殺人」そして「殺人をもう一度」を演出する。現在「捜査」と「ホロー荘の殺人」を上演中の彼女の元を訪れてインタビューを行った。

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探偵〈スルース〉,2010

「捜査」は再演になりますが、何か新しく変えたところはありますか?

はい、この作品は去年も上演したものです。前回の上演から1年が経っていますから、もちろん調整をしました。俳優と台詞の内容は変わっていませんが、基本的にはすべてを新しくデザインし直す必要がありました。例えばセットも上演会場も新しくしました。今回のセットは新たな視点を取り入れるために、古典的で豪華なスタイルのものに変えました。

近年のあなたの作品は、主に推理ものや探偵ものが多いですね。ご自身はどのようなタイプの劇が好きですか?

今作っているようなジャンルが一番好きです。作品そのものもとても魅力的ですし、こうした現実的な演劇には、たいてい人物がとても豊かに描かれています。それが私がこのジャンルを選ぶ理由です。

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探偵〈スルース〉,2010

将来的には違うタイプやスタイルの演劇に挑戦しようと思いますか?

いつになるかは分かりませんが、将来的には必ず挑戦するでしょう。もちろんサスペンスや推理劇も続けていきます。最近私たちはアガサ・クリスティー事務所と合作の打ち合わせをするためにロンドンを訪れたのですが、その時たくさんの演劇を鑑賞しました。生活に密着した演劇や、実験劇がたくさんありました。それらを見て気づいたのです。都市生活に生きる人々は皆多くの問題を抱えていますが、その問題はどれも似ていると。人々は現代的な都市生活の未来に不安を感じていて、それが現実の生活に反映されているのです。

演出家でありながら、なぜ俳優としても活動しているのですか?

俳優であれば、舞台に近いところにいられるからです。役者としてその舞台がどう見えるかを知ることができますし、小道具やスケジュールなど細かいことについてもはっきりと感じることができます。演じるとき私は一種の鏡になるのです。俳優が演じる役を私が反射して、俳優たちが自分の役を理解するための手助けをするのです。

あなたは「この舞台で表現したかったテーマは何ですか?」といった質問がお好きではないと伺いました。それなぜですか?

演出家の中には、舞台に自分の個性を盛り込んで自己を主張するのを好む人もいます。ですが私は自分が誰かということに対してでなく、脚本に対して誠実な表現者でありたいのです。私はその脚本の中に既に表現されていることを自分の視点から見るのであって、そこにある主題を変える必要はないと考えています。私は自分の視点を観客に押し付けたくありません。観客は同時に演者であり劇の一部であるからです。観客ひとりひとりが演劇体験を通じてそれぞれの考えを持つべきです。私は観客にただ褒めてもらおうとは思いません。ストーリーの中に入り込んで、自分自身のこととして体験して欲しいのです。

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探偵〈スルース〉,2010

「ホロー荘の殺人」について、どうしてこの作品を作ろうと思ったのですか?

この作品は、アガサ・クリスティー生誕120周年記念シリーズのひとつです。この作品の他に『招かれざる客』と『そして誰もいなくなった』なども上演します。

「ホロー荘の殺人」は単なる推理劇やサスペンス劇ではなく、倫理に関する劇に仕上がっていますが、それはなぜですか?作品のスタイルを変えようとしているのですか?

私たちは今回「ホロー荘の殺人」で新しい何かに挑戦しようと考えました。推理劇であることには変わりありませんが、今回はより人間関係に焦点を当てたかったのです。これは愛の物語であり、一人の女性の本質の物語です。私たちの社会では愛はあまり高尚なものと考えられていませんが、一方で喜劇では愛が頻繁にテーマとして扱われます。愛はとても高尚なものなのです。今回も推理の要素はもちろんあってそれが物語の鍵ではありますが、全体的にこの作品は愛と、記憶と、理想の人生についての物語です。

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探偵〈スルース〉,2010

これまで多くの推理作品を作ってこられましたが、何か創作の秘密のようなものがあれば教えてください。

たくさんありますが、教えることはできません。マジシャンのように、みんなが何を望んでいるのか、どうしたら楽しませられるか、すべては観客に見せる前によく考えているのです。いったん劇場に入ったら、観客は演出家に導かれながらも自らの意志で先導的に舞台のあらゆる部分を旅していきます。いつも感じていることですが、ビジネスと芸術を区別することも、作り手が観客の評価を気にすることも無意味です。実際は、観客ひとりひとりも舞台の参加者であるからです。

Text: Emma Chi, Gene Gao
Translation: Shiori Saito

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