第6回ベルリン・ビエンナーレ

HAPPENINGText: Yoshito Maeoka

5月中旬頃、オラーニエン通りからモーリッツ広場の方面に抜けるあたりに、気になるポスターがボードビル一面を占拠していた。ポスターは女性のポートレイトや身体の一部を接写したモノクローム写真とサックスブルーと白の余白から成っており、小洒落たアパレルメーカーの広告に見えた。しかしながら何処にも関連を示す文字情報は無く、これらポスターが何故掲載されているのか謎のままだった。

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しかしながら、ベルリンのアートファンにとって、これは既知の事実であった。これらの写真は、ベルリン・ビエンナーレのウェブサイトにアクセスすると真っ先に映し出される、ミヒャエル・シュミットのシリーズ「Frauen」だった。これらの写真はポスターの他、カタログ等の配布物にも繰り返し登場し、いわば今回のベルリン・ビエンナーレのアイキャッチとも捉えることができる。

キュレーター、カトリン・ロームベルクによると、これは広告か?広告であれば何の広告か。そうでなければ何か?等説明が要請される図式を浮き彫りにする意図があったという。そのような仕掛けを導入に据える、今回の第6回目のベルリンビエンナーレに私はとても期待を膨らました。タイトルもまさに「what is waiting out there / was draußen wartet」(外では何が待っているのか)と題する。

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旧ナショナルギャラリー

今回の会場はベルリンビエンナーレを主催するKWの展示スペース他、南方のクロイツベルク地区4会場を中心に構成される。また旧ナショナルギャラリーではゲストキュレーターにマイケル・フリードを迎え、展覧会のタイトルにふさわしく19世紀のアーティスト、アドルフ・メンツェルの迫った現実をリアリティ溢れるドローイングを中心に展示していた。

本稿では、KWとオラーニエン広場の廃ビル会場の幾つかのアーティストの作品に言及する。展覧会の雰囲気の一端を汲み取って頂ければと思う。

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Petrit Halilaj

KWで、展覧会の導入とも言えるべき位置にあったのは、ペトリット・ハリライの一連の作品だった。通常の入り口は封鎖されており、係員の誘導で地下に通じる階段へと通された。地下の暗がりを通り抜けると、吹き抜けのホールに出、所狭しと建造物とも言うべき木造の構造物がホール一杯を占拠していた。内戦後の混乱の中で立てられた、ボスニアの彼の家をモチーフにしているという。その脇には、中庭に抜ける扉が開け放たれており、ニワトリを放し飼いにしていた。

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Petrit Halilaj

この木製建造物は階上の2階まで突き抜けており、窓の外からその一端を見ることができた。2階はその一端を見る為だけに、窓が開放されており、その他は白塗りの壁のままという、とても贅沢に空間が使用されていた。1階のフロアにはニワトリ等をモチーフにした幾つかのインスタレーションやドローイングが展示されていた。つまりKWの3フロア分のスペースを彼一人が使用しており、あたかも彼の個展のごとく、だった(通常KWで行われる個展ではこの程度のスペースを使用する場合が多い)。

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Mark Boulos

マーク・ボウロスは、世界最大規模のデリバティブを取り扱うシカゴ証券取引所の映像とナイジェリア・デルタの住民の生活の様子を、向かい合う壁2面それぞれに投影する。ロイヤル・ダッチシェル社の取引高がめまぐるしく動く一方で、油田による漁場の汚染により生活が貧困極まる様子がパラレルに投射されていた。

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Oranienplatz 17

クロイツベルク地区の目抜き通りである、オラーニエン通りの一角に数年放置された建造物がある。オラーニエンプラッツ17は、5階立ての大きな建造物で、カタログ等での言及は少ないが、戦前ショッピングセンターとして建設され、戦後以降は1階(地上階)がスーパーマーケットとして利用された以外は、ほとんど使用されずにいたという。

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Marcus Geiger

館内は、リノベーションを施さず、以前の塗装や設備が一部残ったままになっており、時折見える古い床の模様等が、その歴史をかいま見せている。ゲディ・シボニーのインスタレーションもそういった剥き出しのままの状態で止まってしまった建造物とマッチしていたし、マルクス・ガイガーの1996年の作品「Kommune」すら、かつてそこにあって放置されていた絨毯であるかの如くだった(実際多くの鑑賞者がこの上を歩いているのを私は目撃した)。

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Adrian Lohmüller

剥き出しの壁から、アドリアン・ローミュラーのインスタレーションの一部でパイプが目についた。館内各階に張り巡らされたパイプは、それぞれポリバケツやタンクに溜められた水が流れており、2階に設置されたガスバーナへと続く。ここでゆっくりと中の水が温められ、パイプを通じて蒸留され、塩の結晶の上へと雫が滴る。その水滴の行き着く先には寝具があり、会期中に塩で結晶化するという。

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Hans Schabus

ハンス・シャウブスは、ベルリン東部にある放置されたままの遊園地跡「クルトゥアパーク・プレンターバルド/シュプレーパーク・ベルリン」から巨大な恐竜の模型を建物中庭に運び込んだ。この公園は東ドイツ時代時代に建造され、東ベルリンきっての娯楽施設として人々に愛されたものの、経済的な理由により2001年閉園された。

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Anna Witt

この会場では数多くのビデオ作品が展示されていた。その中で私のお気に入りを2点紹介しておこう。
アンナ・ウィットは自ら全裸になり母親の服に潜り込み、お腹から生まれ直すというパフォーマンスをビデオに収めた。

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Ferhat özgür

フェルハト・オズギュールによる作品。スカーフを付けた典型的なモスリム風の女性がレナード・コーエン原曲、ジェフ・バックリーのハレルヤに合わせて歌う。実際私は、最上階に展示されていたこの作品を見た後、窓から外を眺めると向かいのバルコニーで彼女と同じ様な格好をした女性達が優雅な午後のひと時をエンジョイしていた様子を目のあたりにした。

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Danh Voh

ダン・ヴォーは、ベトナム戦争終結の年、1975年にサイゴンで生まれ、デンマークを経由して現在はベルリンを拠点に活動している。オラーニエン広場から徒歩5分ぐらいに位置する自身のスタジオで彼は、19世紀末にインドシナ半島からチベットにかけて滞在した、カトリック宣教師のジャン-アンドレ・スーリエの植物のドローイングをバスルームの壁に転写した。それと同時にスーリエ最後の手紙をアーティスト自身の手で書き写し、書斎のテーブルの上に示していた。あたかもこのアパートにスーリエの東南アジアでの痕跡をなぞるかの如く、アーティスト本人の生活の痕跡の上に重ね合わせて見ることができた。アーティストのアトリエを展示空間にする試みは幾度か見て来たが、ヴォーが様々なものを組み合わせて作品にする、いわゆるレディメイドな作風故か、スタジオの机や棚だけでなく、調理道具や家具さえ、一つ一つの物品が物語を語っている様で、興味深く鑑賞することができた。

個人的にとても印象的だったのは、参加アーティストの出自が国籍としてキャプションやカタログに明記されていないことだった。たしかにダン・ヴォーやオルガ・チェルニーシェヴァといったアーティストは、ベトナム、中近東で生まれ、様々な場所で生活し、むしろそれが作品を成立させる為の重要な要素でさえもあった。今日の人々の活動領域が国境をまたぐ事が常態化している認識を示していたのではないだろうか。また「国際色豊かな」他のビエンナーレに対する“アートの外”にある現実からのメッセージだとも思えた。

それはそれとして、この展覧会全体を振り返ってみると、「outside/draußen」(外)、とは何だったのだろうか、その様な疑問が起こる。アートがどのように現実を描写して来たか、その様なテーマであったにせよ、巨大なグループ展の性格上この答えはとても多義的に成らざるを得ない側面は否定できない。近年の大型展覧会の傾向とはいえ、参加作品の1/3〜1/4が映像作品である。

第4回第5回と、私が見てきたベルリン・ビエンナーレは、何らかの形で展覧会の背景となるベルリンという都市への言及があったが、ハンス・シャウブスなど一部のアーティストの作品を除いて、今回はむしろ直接の言及を避けているかのようだった。いわんやアートの言及する世界に集中することにより、ベルリンの現実を展覧会というアート空間から外すのが意図なのかとも思えた。

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プレスカンファレンス

プレスカンファレンスやオープニングでは、今回のビエンナーレの中心となったクロイツベルク地区や地域の関心と、それに駆けつけたアートジャーナリストや観客らの微妙な温度差が、“外”と内との微妙な境界線を描いている様にも思えた。その他、外で実際起きている数々のデモ行進や、ワールドカップの熱狂を他所に、鑑賞者は熱斜光のさし込む展覧会場でじっと佇んで多くのビデオアートを鑑賞する事を強いられていた。

この展覧会で示されたものは、それとも少し浮世離れした街ベルリンへの警鐘なのか。作品の指し示す“外”と現実のベルリンの街の熱とのあまりのギャップに、自分の立ち位置をも再点検しなければ行けない様な気にもなってきた。

第6回ベルリン・ビエンナーレ
会期:2010年6月11日〜8月8日
会場:KW Institute for Contemporary Art他、ベルリン市内
http://www.berlinbiennale.de

Text: Yoshito Maeoka
Photos: Yoshito Maeoka

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