大野力

PEOPLEText: Mariko Takei

大野力

住宅や商業空間を中心に様々なプロジェクトを手がける建築家の大野力。2004年に自身の事務所「シナト」を設立して以来、2009年には米誌I.D.Magazineにて世界の注目新人40人に選ばれる他、2010年にJCDデザインアワードで金賞を受賞するなど、国内外で大きな注目を集めている。DIESEL DENIM GALLERY AOYAMA1Fでは、大野力によるストアインスタレーション「ROLLS」が7月23日より展示される。

まず自己紹介をお願いします。

大野力、1976年大阪生まれ。2004年にシナト(sinato)という事務所を設立して、主に住宅や商業空間の設計を中心に活動しています。

建築設計事務所「シナト」の設立経緯を教えて下さい。

友人たちと遊びでデザインイベントに参加したのが最初のきっかけかもしれません。その後、たまたまそういった活動を見た知人から何件か仕事を頂くようになり、その流れで自分で事務所を開設しようということになりました。だから開設したその日に既にいくつか仕事があるという恵まれた状況でしたね。最初一緒にやっていた友人たちも、ほぼ同じ時期にそれぞれ独立して、今もお互い刺激し合える良い関係です。

建築、インテリアからそれぞれ代表作をご紹介いただけますか?

どれが代表作なのか分からないので新しいものから言っていくと、建築は「house O」(2009年)という三重県伊勢市に建つ住宅。
屋外プールや広大な駐車場に接する変形の敷地で、大きなスケールの中に放り出されたような場所だったので、周囲環境からは距離を取りながらも開放的な空間をつくることを考えていました。敷地のラインに沿って3つの長方形を分棟配置し、それぞれの一辺を延長して他方の長方形の頂点と結ぶことで「3つの長方形/3つの変形四角形/中央に三角形」を内包したひとつのかたちをつくっています。

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house O(2009年)

3つの長方形は主な生活空間、3つの変形四角形は小さな中庭、中央の三角形はガラス張りの明るいホールになっていて、生活空間には必ず中庭かホールが隣接し、また中庭かホールの向こうには別棟の生活空間が垣間見えます。この「部屋のように小さな中庭」や「外のように明るいホール」を「外の部屋」と呼んでいるのですが、部屋の隣に外の部屋があってまたその隣に部屋があってという入り組んだ状態の中で開放的に暮らしていけるような住宅です。

インテリアは「DURAS Daiba」(2009年)という大型商業施設内のアパレルショップ。高い天井を店舗空間にどう活かすかという問いがアイデアを進める上でのきっかけになっています。ここでは、エキスパンドメタルの仮想天井を高さ2.25mの位置に挿入して水平に空間を分割し、その天井裏へ上がれるステップを設けてそこに少し景色の異なる売場をつくることにしました。

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DURAS Daiba(2009年)

ステップ状に積み重ねられた丘のようなスラブは、斜向かいに1カ所ずつ配置されていて、商品を立体的にディスプレイするためのステージであるとともに、店内を回遊するのに適度な見え隠れを生み出したり、平場を通って遠回り/ステップを上がって近道、など動線上の選択肢を与えるものでもあります。また、頂上まで上がったときの視界を大きく変化させるために、仮想天井を境に周囲の壁の仕上げを塗装からミラーに変えて、エキスパンドメタルの水平面や照明の灯りがどこまでも映りこんで反射するような現象をセットしています。

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大野力ストアインスタレーション「ROLLS」展示風景 / Photo: Toshiyuki Yano

7月23日からDIESEL DENIM GALLERY AOYAMAの1階ショップスペースでインスタレーション「ROLLS」を展示されますね。どのようなインスタレーションを展開するのでしょう?

総長945mの帯状のアルミを巻いたり伸ばしたりしながら、ストアの手前から奥へ、ひとつながりに空間をかたちづくっていきます。今回使うアルミは、とてもに薄く手で簡単に曲げられるようなもので、板と呼ぶには柔らかすぎるけれど布や紙よりは硬い、そんな中間的な物質感をもっています。

巻いて塊にすることで硬く強いものにしたり、伸ばして1枚にすることで柔らかく弱いものにしたり、強度の変化とともに機能や表情を移らせながら、全体としては波打つような美しいフォルムをつくりたいと考えています。またそれが、この場所において建築と人と陳列される洋服とをゆるやかに繋ぐような不思議な存在になれば良いなと思っています。

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大野力ストアインスタレーション「ROLLS」展示風景 / Photo: Toshiyuki Yano

今回「ROLLS」では、帯状のアルミを使用されるそうですが、その素材を選んだ理由を教えて下さい。

硬いということと、柔らかいということを行き来したいと考えていました。重ねた時には什器として利用出来る程に硬く、1枚のときには建築要素として成り立たない程に柔らかい。そして、その2つの状態がシームレスに連続するというイメージです。あと、1枚のときに自重に対してある程度かたちを保持出来る物性強度があるということも重要でした。懸垂曲線みたいな柔らかそうなフォルムではなく、張りのあるフォルムを柔らかいものでつくりたいと考えていましたから。そういった条件を重ねるとアルミは適切な素材に思えましたね。

ただアルミと言っても、ほんの0.1mm厚みが違うだけで全然動きが違うんです。今回は0.2mm厚~0.5mm厚を原寸モックアップで実験してみて、最終的には0.4mm厚のものに決定しました。アルミ缶よりちょっと分厚いぐらいと言うとイメージし易いかもしれません。

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大野力ストアインスタレーション「ROLLS」展示風景 / Photo: Toshiyuki Yano

今回はアパレルショップでの期間限定のインスタレーションですが、どのようなことに重点をおいてデザインを試みましたか?また、通常のショップ空間のデザインと異なる点はどんなところに現れてますか?

純粋なギャラリーではないショップ空間での展示であることを考えると、商品の陳列を避けるように新たな別レイヤーとして作品を挿入するよりも、商品と作品が実際に絡む方が自然だと感じていました。そこで、いつも使われている島什器を全て撤去し、作品自体の上に商品を陳列することを提案したのです。それはつまり、陳列可能な商品量を考慮したり、動線を考慮したり、通常のショップデザインと同じような思考を作品の中に組み込むということでもありました。

逆に通常のショップデザインと異なったのは、やはり「既存がたくさんある」ということですかね。床壁天井やエントランス、レジ、フィッティング、ストックの位置など、もう既にそこにあって動かせないものがたくさんありますから、それらとの整合をとりながら計画していく必要があります。今回の場合で言うと、アルミの帯が通るルートは殆どそこしかないという配置になっていると思います。

制作する上でインスピレーションの源となっているものは何ですか?

よくそういう質問を受けるのですが、特にないのでいつも答えに困ってしまいます。毎回条件や環境は違うので、それらを自分なりに読み込んで解いているというイメージです。思考の方法として自分の癖みたいなものがあるんだろうなとは思いますが、実はまだそんなに認識出来ていないですね。

これまで訪れたところで好きな場所を教えて下さい。またその理由も教えて下さい。

昨年僕が設計した「salon des saluts」というワインバーが西麻布にあるのですが、最近はそこに入り浸っています。手前味噌で恐縮ですが、空間もサービスも気持ち良く、ついつい長居してしまう今最も好きな場所です。あと建築で言うと、ずっと東京カテドラルが好きですね。すごく明快な図式で成り立っているんですが、その図式を超えて圧倒的に内部空間が美しい。

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大野力ストアインスタレーション「ROLLS」展示風景 / Photo: Toshiyuki Yano

空間をつくる上で大切にしていることは何ですか?共通のコンセプトのようなものはありますか?

コンセプトという程のものではありませんが、常に自分で意識しているのは、「これはこういうものだ」という思い込みを極力せずに考えるという、とても単純なことです。もちろん、自分が今まで見聞きしてきたことからはそう簡単に逃れることは出来ないのですが、なるべくなら思考を省略することなく、そこにある無数の点をいちいち具体的に考えて結んでいきたいと思っています。そしてその中で、それまで当たり前だと思っていた状況からふっと開放されるような、自由で新鮮な場所を生み出せれば良いなと考えています。

一方、そのような場所を実現させていく為に、どう社会と関係を築いていくかということの難しさも感じています。設計者として、そこにあるかたちの可能性をどう提示するのか、またそれに反する他者性をどう取り入れるのか、そしてその過程でどういった価値を共有していくのかということが大きな課題だと思っています。

今後チャレンジしてみたいことなど教えて下さい。

今まで自分が設計してきた住宅や商業空間に比べて、ずっと大きなものとずっと小さなものがやってみたいですね。
全く違うスケール感の中で自分の思考を展開させた時に、どのようなものが出来上がるのかにすごく興味があります。

大野力インスタレーション展「ROLLS」
会期:2010年7月23日〜
時間:13:00〜20:00(不定休)
会場: DIESEL DENIM GALLERY AOYAMA 2F
住所: 東京都港区南青山6-3-3
TEL: 03-6418-5323
キュレーター:高橋正明(ブライズヘッド
http://www.diesel.co.jp/denimgallery

Text: Mariko Takei

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