ワン・ニンダー個展「光あれ」

HAPPENINGText: Ralph Yuu

光、それは常に我々と共にある。あらゆる世代を超えて、あらゆるものと共にある。

ワン・ニンダー個展「光あれ」

実際には、我々は決してこの世界を去らない
私はおそらく答えを恐れているのだ
愛はおそらく静かに風の中を駆け巡っている
別れて気分を晴れ晴れとさせ
時短くしてまた戻ってくる
そして時折自問自答する

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幾多の見知らぬ人々の顔が高速で混ざり合い、イメージは密着しあいまいになってゆく。この展示空間で過ごすほんのわずかな時間の中で、おぼろげながら、しかし確かに、幾千の人々が見る者自身の人生の中に刻み込まれて行く。大きな渦のように続いてゆく、沢山の人生。それを反映した複雑さ、そして純粋さ。この生命の旅において、この世界において我々がいかに小さく弱いものかということを語りかけてくる。宗教的な敬虔さと企及さえ漂わせる黄昏色の空間、しかしここは私たちの祈りの場ではないのだ。2010年3月20日、新進アーティスト、ワン・ニンダーの新作個展「光あれ(Let There Be Light)」が、北京798芸術区にあるシン・ドンチャン現代美術ギャラリーで幕を開けた。闇の中に毎秒ごとに浮かび上がる写真。記憶をすり抜けてしまうほどの沢山のイメージが、我々の人生を固く結び合わせる一本の紐を形づくる。

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時はいつも静かにやってきては過ぎてゆく。そして一人一人の顔に、安らぎと傷を残してゆく。この音もなき記録は理由を超えて刻まれ、その意味を知ることなどできない。ワン・ニンダーは2007年からこれまで、ただひたすらに人々の顔を記録し続けてきた。その写真はリアリズムに溢れ、一瞬の時を見事に捉え、現代生活を生々しく表している。クローズアップされた沢山の顔。我々にはそこにある物語や記憶を知るすべはない。ただひとつひとつに異なる表情が、我々の心をざわめかせるのである。これらの写真の中に数えきれない程の瞬間が詰まっている。人生の苦しみや悲しみ。閉じられた瞳はより多くのことを物語る。安堵、悲哀、嫌悪、孤独…。たとえどんな偉人でも悪人でも、人は誰しも日常世界で出会うあらゆる感情から逃れることはできない。永遠の命は存在せず、最後には必ず永遠の「悪夢」である死が肉体と意識とを終わらせてしまう。

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光、それはとても冷静で、永遠なものに見える。永遠に生きることのできない我々は、いつ、どんな場所にあってもイメージを認識し記憶するために光を必要とする。キュレーターのフェイ・ダーウェイによれば『シャッターを切った瞬間の出来事は、写真家には見ることができない。それは人間が目を閉じた瞬間と同じだからである。しかし、そこにイメージは存在するのだ。』

ワン・ニンダーの写真は目撃者のように、あるいは聴取者のように、いかなる解釈も選択も押し付けない。しかしそれにより、見る者にその人自身の選択や判断を垣間見せるのである。宗教の世界では、常にいくつかの宗派が存在し、それぞれ異なる教えを説いている。この写真展はある種宗教的な雰囲気を漂わせている。その色合い、巨大な立方体の形をした柱、断続的に高速で投影されるイメージ。それらが我々に不思議と畏敬の念を抱かせるのだ。

光は、我々の意識の中にあるいかなる宗教をも超える存在である。なぜなら、光こそが現実世界にある全ての物体を照らし出すものだからだ。光とは、予言ではない。光が何かを予言することもない。しかし我々は光によってはじめて形を成し、光は我々にあまりにも多くの物語や記憶を語りかける。ワン・ニンダーはこの世界を形づくる沢山の物語を高速で光の中に投射する。人々の顔や、それらが表す人生が我々の中に圧倒的な強さで流れ込み、目眩さえ与える。目の前を高速で流れてゆく死に顔の中に、自分自身の人生がおぼろげに映し出されてくるのである。この「自問自答」のような時間の中で、我々は幾多の人々の人生と対峙し、自分自身の世界と向き合うのである。

光、それは常に我々と共にある。あらゆる世代を超えて、あらゆるものと共にある。

生命の循環や輪廻転生が存在するのか、それは誰にも分からない。しかし我々は決してこの世界を去らない。なぜなら光があるから。そこに光があるから。

ワン・ニンダー個展「光あれ」
キュレーター:フェイ・ダーウェイ
会期:2010年3月20日〜5月31日
会場:シン・ドンチャン現代美術ギャラリー
住所:北京市朝阳区酒仙桥路4号大山子 798芸術区
TEL:+86 (0)10 6433 4579
https://www.chengxindong.com

Text: Ralph Yuu
Translation: Shiori Saito

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